幼馴染が「お願い」って言うから


「来たぞ!! フューチャーランドーーーーー!!」
「おおお! ひっさしぶり!」

 俺は感激した。
 ちゃんと開園時間に合わせてここに来られるなんて思っていなかった。着ぐるみショーが11時からなので、さすがにそれまでには来るだろうが、絶対開園前に筋トレかなにか仕込んでくると思っていたのだ。ところが、りんりんは運動メニューを何も入れず、早めに出かけることを提案したのだ。
 夏休み始まってすぐの週末とあって、ランド内は親子連れやカップル、友人同士で賑わっている。ショーの前に何か乗ろうと言われて俄然(がぜん)楽しみになった。
 フューチャーランドは広大な敷地を持ち山を丸ごと使っている為、様々なアトラクションがある。今回動物園には行かないが、遊園地のエリアだけでも回り切れないほどだ。

「先輩たち、苦手な乗り物はないですか?」
 
 りんりんの質問に、俺たちは揃って「ない」と答えた。俺は高所も絶叫系も平気だ。すると、りんりんはにっこり笑ってフューチャーランドの園内マップを俺たちに見せた。

「じゃ、体慣らしにこれどうです? 他よりすいてるみたいですよ」

 ――『NO.9 ファルコ 世界最高峰! 足元を見ただけで冷や汗が出る絶叫スカイサイクル』
 
「あ、俺好き! スカイサイクル」
「俺も。ここの有名だよね。すっごい高いとこに作ってあるって」
「二人ずつですから二組に分かれましょう。あれ、月宮先輩?」

 黙り込む俺を、心配そうにりんりんがのぞきこむ。

「先輩、スカイサイクル嫌ですか?」
「いや……そんなことはないけど」

(そんなことないけど何でこれを最初にする? もっと他にあるよね?)

 スカイサイクルは地上から高い場所に作られたレールを、自転車と同じように自力でペダルをこいで進む乗り物だ。テーマパークによって走行距離も高さも違う。

「じゃ、行きましょう! これ身長制限ありますけど130センチです。僕たちでも乗れますから!」
「お……ま」
「あとは組み合わせですね。僕と月宮先輩は分かれた方がいいですよね?」
「当たり前だろ! 体力お化けたちを一緒にしてどうすんだよ!」

 加瀬と清良は誰と一緒でもいいだろうが、こっちはそうじゃない。スカイサイクルは自力でペダルをこぐんだぞ。体力がある奴が有利に決まってる。じゃんけんをしたら、加瀬とりんりん、俺と清良の組み合わせになった。
 園内の上り坂をかなり歩き、スカイサイクルの乗車口まで来た。行列は確かに短い。これならすぐに乗れるだろうと思ったが、並ぶ客の男子率の高さに嫌な予感がした。

 着々と列は進み、ぎし、ぎしと風が吹く度に足元が揺れる。レールの前に来ると、風がびゅうっと吹きつける。

「こ、これすごくないですか? 近くのコースターと少ししか高さが変わらないですよ」

 りんりんの声がわずかに震えている。俺も生唾を飲み込んだ。
 スカイサイクルのレールのすぐ近くに絶叫系コースターのレールがある。スカイサイクルは本来、周りの景色を楽しみながらゆったり走るものだが、これは違う。レールを支える柱が高すぎて、遥か下に木々が見える。

「次の方、どうぞ~」

 係員さんに乗車を促されて、先に行け、とりんりんを押し出した。
 自転車が横に二台連結されたような乗り物に加瀬たちが乗り込んだ。俺たちも次に来た乗り物へと進む。先に清良が乗り、後から俺が乗った。安全の為に締めるようにと言われたベルトがペラペラで、大丈夫かと不安を誘う。

「清良、後は頼んだぞ」
「なにそれ、これから走るんだけど」
「スカイサイクルは走り始めたが最後、走り続けないと戻れない。俺は清良を頼りに生きる」

 清良がぷっと噴き出した。

「ギア無しのママチャリで爆走するあおちゃんの方が、俺よりずっと強そうだけどな」

 清良の愛車はクロスバイクだ。いつも颯爽と前を走っていく姿を、俺はママチャリで追いかける。

「んんん……たしかに。でも、俺はお前を頼りにしてる!」
「……なんか、すっげー嬉しい」
「え?」 
「ううん。じゃあ出発!」
 
 俺たちは揃って右足のペダルに力を込めた。