幼馴染が「お願い」って言うから

「僕たちのキャビンは4番です」

 ゆるやかに曲がった小道を上がっていくと、同じ形の建物が等間隔で並んでいる。名前の通り、家と言うより小屋だ。外階段を二段登れば柵の付いたテラスがあり、正面には窓ガラス付きのドア。何かを思い出すなとキャビンの前で首をひねると、清良がボソッと呟いた。

「……秘密基地」

 その言葉に、ふっと何かが浮かび上がる。

「清良、それ……」
「わ! 思ったよりずっと狭い!」
「お前、どこの坊ちゃんなんだよ! おごってもらってるこっちが言うことじゃねぇけど」

 ドアを開けた加瀬たちの言葉に気を取られ、清良との会話はそのまま途切れてしまった。

 ログキャビンは入り口から見ると長方形な作りだ。正面から右手にぐるりと上下二段になった作り付けの木のベッドがある。ベッドは二方の壁の角の部分で繋がっている。
 ベッドの上段は天井の板が張られておらず、剝き出しの木が見える。下段と上段の間にはゆとりがあるが、上段は気を付けないとすぐに頭をぶつけてしまいそうだ。正面ベッドの右端には上段に上るためのまっすぐな梯子(はしご)があった。

「へー、ログキャビンってベッドまで全部木なんだ」

 加瀬が荷物を部屋の隅に置いて梯子を上る。

「ベッドさあ、俺、下でもいい? 上だと絶対、何度も頭ぶつける自信ある」

 加瀬はこの四人の中で一番背が高い。たしか、前に聞いた時に173センチだと言っていた。上段は確かに危ないだろう。

「僕は上でもいいですか? この屋根裏っぽい感じ、ちょっと憧れてたんです」

 りんりんの言葉に俺は思わず清良を見た。普通に考えたら、りんりんと身長が変わらない俺が上だろう。だが、ここのベッドには上下とも柵がないのだ。俺と目が合った清良がこくりと頷く。

「いいよ、あおちゃんは下で寝て。俺が上に行くから」
「ありがとう、清良くん! 神!」

 りんりんが首を傾げた。清良がベッドの上段を見上げながら呟く。

「あおちゃん、いきなり落ちるからな……」
「そう簡単には落ちないと思う。高校に入ってから、もう大丈夫だろうってベッド買ってもらえたし」
「え……そんななんだ」
「うん、あんまり寝相が悪いから中学まではずっと畳に布団生活だった」

 りんりんと加瀬が憐れむような目を向けてくるが、清良は下段なら落ちてもたいしたことないよと笑う。正面上段がりんりん、その下が加瀬。右側上段が清良で下段が俺。それぞれの寝る場所が無事に決まった。
 初日である今日の夕食はバーベキューだが、夕食まではまだ時間がある。時間になるまで周辺の散歩にでも行くか。皆どうする? と聞こうとした時だ。
 ギャラクシービレッジのパンフレットを見ながら清良と話し込んでいたりんりんが、嬉しそうに顔を上げた。

「この後の予定ですが、夕食は6時から。このキャビンの前の道を上がったところにバーベキュー場があります。お風呂は10時までですが、ちょっと遠いんですよね。夕食の後で十分間に合うと思うんですけど……」
 
 ギャラクシービレッジを使う宿泊客は皆、ビレッジの正面ゲートをくぐってすぐの場所にある日帰り温泉を使う。温泉までは下りだが、たしかに遠い。

「食事の後で大丈夫だろ。それに、遅い方が人も少ないんじゃね?」

 日帰り温泉は美肌効果で有名で、宿泊客だけでなくフューチャーランド帰りの人や温泉好きな人たちも訪れる。加瀬の言葉に皆が頷くと、りんりんは持っていたパンフレットを俺たちに向けた。表は宿泊施設の説明だが、裏はビレッジの全体地図になっている。その地図の中の一点を、りんりんがぴたりと指差す。

「じゃあ、早速はじめましょうか。ここが僕たちのキャビンです。これから、まずはストレッチ。その後にキャビン前の遊歩道を軽くジョギング5周します」

(――――……は?)

 りんりんの指が、地図にある遊歩道の一部をくるりとなぞった。

「着ぐるみを着るには体力がいります。よく寝る、しっかり食べる、そして運動。これ大事!」
「……いや、そうだけど。その通りだと思うけども」

(まさか……)

 俺は思わず清良と加瀬を見た。二人はそっと目を逸らす。

(本当に走るのか?)

「合宿だからさ、あおちゃん」
「運動の後の飯はうまいと思う」
「先輩、ジャージの半パン持参って連絡しましたけど持ってます? なかったら、僕の貸しますよ」
「……持ってる」

(ジャージは寝る時に使うんじゃなかったのかよ!)

 思わず、心の中で叫んでしまった。