幼馴染が「お願い」って言うから

「じゃあ皆、休み明けに元気で会おうな!」

 終業式後のホームルーム。担任の声が大きく響いて教室が湧いた。

「やったー! 夏休みぃいい!!」
「ねえ、休みの間どっか行く?」
「おばあちゃんちかな。海が近いんだ」

 今年の里見高校の夏季休業期間は33日間。
 課題や塾の夏期講習があるとはいえ、長期の休みは嬉しいに決まっている。皆、それぞれ予定を口にしながら、足取りも軽く教室を出ていく。俺も後に続いて教室を出ようとした時だった。

「ちょい待ち、月宮」

 呼ばれて振り向くと、加瀬が立っていた。俺と加瀬は同じクラスだ。元々クラスの中では話す方だったが、夏祭り以降はさらに気楽に話すことが増えた。

「今、少し時間ある?」
「うん、どうした?」
「ちょっと話があってさ。部室で話したいんだけど、いい?」
「いいよ。今日は特に予定ないし」
「あ~~助かる。そんなに時間はかかんねえから」

 正直に言おう。この時、俺は浮かれていた。
 封切られたばかりの映画に新作ゲーム、買ったはいいが読まずに積みっぱなしの本。夏休みならそれらにかける時間はたっぷりある。休みの間どれから手を付けようか、折角だからチャリで日帰り旅行に行くのもいいな。そんなことを考えて気もそぞろだったのだ。だから、何も考えずに社会科準備室に向かってしまった。

「月宮連れてきたぞ~」

 そう言いながら加瀬が先に社会科準備室に入った時、部屋の中には清良とりんりんがいた。

「月宮先輩!」
「お、りんりん? 元気そうだな」

 清良が「りんりん?」と呟いて、はっとした。

「あっ、ごめん! いつもひづが呼んでるからうつっちゃって」
「あはは、りんりんでいいですよ。ひづにもそう呼ばれてるし」
「……悪い。じゃあ、俺も呼ばせてくれ」
「もちろんです。どんどん呼んでください!」

 爽やかな笑みを浮かべたりんりんは、先週とは別人のようだ。言うならばこの間は狂犬で、今日はちゃんと躾けられた子犬って感じ。

 着ぐるみ同好会の(仮)部室スペースには向かい合わせに机が三つずつ並べられている。りんりんと清良は並んで座り、二人の前にはプリントが置かれていた。そのプリントに気づいて、俺は清良にたずねた。

「これから話し合い?」
「……うん、まあ」

 清良は俺と目を合わせずに、机の上を見ている。何だか歯切れが悪い。

「月宮先輩にもぜひ聞いてほしくて、加瀬先輩にお願いしたんです」
「俺?」
「はい! 先輩、これどうぞ」

 りんりんは、机の上にあったプリントを俺の前に差し出した。そこには、キャンプ場にあるような木製の建物が写っていた。建物は三角屋根で、テラスの前には短い階段がある。

「えっと、これ、ログハウスじゃなくて……」
「ログキャビンです。デラックスタイプなので、部屋にはエアコンに冷蔵庫、ウォッシュレット付きトイレと洗面台もついてます」
「へー! 便利だな」
「そうなんです。すぐ近くに温泉が引かれてるお風呂とバーベキュー場もあるんですよ」
「すごい楽しそうじゃん。夏休みにぴったりって感じ」
「そ、そう思います?」
「うん」

 りんりんはもう一枚プリントを渡してくれた。キャビンの間取りと設備に加えて、周辺情報が載っている。どうやら隣の市にあるフューチャーランドの関連施設らしい。フューチャーランドはすぐ側にホテルやオートキャンプ場があって、一大レジャースポットなのだ。

(そうか、キャンプもいいよな。俺はアウトドア派じゃないけど、たまには海や山に行くのも面白そう……)

「先輩!」 
「ん?」
「ここ、行きませんか?」

 りんりんは俺の目を真っ直ぐに見た。

「ここで着ぐるみ同好会の合宿をします! 月宮先輩も一緒に行きましょう!!」