僕のわがままな一年。



「う、熱い……っ!」

カーテンから漏れ出した陽光が顔をレーザービームしてきたので、僕は反射的に飛び起きた。
そして次に不安が襲い掛かってきた。
(やばいぃ……! 遅刻……!)
こんなに太陽が燦燦としていたら、昼間なんかじゃないかと思ったが違った。
時刻は朝七時半。今日は朝の九時から基礎演習Aの授業が始まる。三田にあるキャンパスにあと三十分後に出れば徒歩で十分余裕で間に合う。
安堵した僕は大きく息を吐きながら、いつものように、足元の先にある壁に耳を澄ませる。

(律くん……今日もいないのかな)

ここのマンションは築三十年くらい経つので、隣人の物音は割と聞こえてくる。
なので律くんが帰ってきたのもわかるし、家にいるとかすかに物音が聞こえたりするのだ。
こんなこと気持ち悪いと思うしいちいち意識したくないのだが、ずっと会いたかった人ということもあって気になって仕方がない。
それに、夜中から朝方にかけて静かなことが多いので、余計にだ。
この家がセカンドハウスでメインの家がほかにあるのでは、と思うほど音が聞こえない。

「まただ。本当に僕キモすぎる」

無理やり頭にもたげた律くんを追い出し、もぞもぞと布団の中にもう一度潜り込む。

「へぇ……結婚したんだ」

スマホを開き愛用をしているニュースサイトを見てみれば、大物歌手と元アイドルが電撃入籍した、という話題が一番上に出ている。
彼らにとって、僕は知る由もない日本に住むちっぽけな大学生だが、僕にとって彼らは小さい頃からなじみのある二人だ。
結構そことそこの組み合わせで付き合っていることが、衝撃的だった。
その流れで、ふと自分の実兄である蒼の顔が思い浮かんだ。
(そういえば、結婚式を挙げるってメッセージがきていたっけ)
昨晩蒼から連絡がきていたので、LINEを開いて確認する。

蒼は僕より三歳年上で、地元に残って祖父の代から続く建設会社で働いている。
要領がよくて、人当たりもいい。
そしてその会社で出会った、飛び切り可愛い事務員の女の子と結婚することが決まっている。
元々蒼と僕は正反対のタイプ。僕は昔から友人も少なく、田舎特有の横の付き合いというのが苦手で当然のように田舎は出るものと考えていた。
だが蒼は社交的な性格で、幼いころから学校でもカースト上位。男女問わず人気だったので、田舎から出るなんて考えたこともなかったようだ。なので、僕が上京すると決めた時は、心底驚かれた。
そして『陽翔は豆腐メンタルだから、すぐに東京の厳しさに音を上げて帰ってくるぞ』なんて馬鹿にされた。

だから余計に帰りたくない。というか、絶対に帰ってやるもんか。
そう心の中で密かに燃えていたのに【秋に結婚式を挙げるから、参列しろよー。お祝儀楽しみにしてるぞ】なんて連絡がきている。

「蒼はいつもスムーズだよね。僕とは間反対」