律くんの声は、共有廊下に響くほど大きかった。
彼はようやく状況を飲み込んだのか、ずんずんと歩いてきて、僕の前に立ち止まった。
「うそ、なんであの陽翔が……こんなところに」
律くんは数秒固まってから、少し大げさなくらいの声を出した。
「それは、こっちのセリフです。僕は一か月以上も前からここに住んでいたので」
「そっか、そうだよな」
じーっと顔を凝視してくるので、わずかに後ずさる。すると律くんはさらに顔を傾けてくるので、僕は思わず生唾を飲んだ。彼の肌が透き通るように白くて、メガネの向こうにある瞳は相変わらず深かったから。すると彼は、突然薄い唇を開いた。
「陽翔、お前随分とかっこよくなったなー。分かんなかったよ。で、今は……モテモテ?」
「へ、も、モテない! 全くもってモテてません。チビだし」
ぶんぶんと顔を横に振ると、かすかに笑った律くんは姿勢を正して僕を見下ろす。
「そっかぁ……もったいないな。で、陽翔は今、何してんの?」
律くんの質問に、ドキリと心臓が跳ねる。
ついに、本人に伝えなければならない時がきてしまった。
律くんと同じ大学に来てしまったと。いつかはと覚悟はしていたが、どう反応されるかやっぱり怖い。
「だ、大学生……してるよ。大紋大学の文学部にいます」
「え、そうなの? 俺、経済学部にいるんだけど……」
「そ、そうだよね。蒼からうっすら聞いてたよ。だから、いつかキャンパスで会うかもとは思ってたんだ」
――知っていた。というより、あなたがいるから猛勉強してここまで来ました。
そう伝えたらドン引きされるのが目に見えているので、あたかも知らなかったように言ってみる。
だが、元々嘘を吐くのが大の苦手。自然と視線が下がっていく。
「いや、すごい嬉しい。陽翔が後輩にいるなんて思うと。なんか困ったことがあったら、いつでも言ってくれていいし」
頭上で律くんの友好的な言葉が聞こえ、ほっと肩の力が抜けた。視線をちらりと上げてみると、律くんは微笑んでいた。
頬がじんわりと熱い。赤くなっていないといいけれど……。
「ありがと……あの、律くんも何か困ったら言って。お隣さんだし、助け合えたらなと思います」
そう伝えると、一瞬だけ、律くんの視線が僕の顔に留まった。でもすぐに、いつもの軽い表情に戻る。
「おっけー。助け合い、な。また話そう、陽翔」
「う、うん……!」
律くんが部屋に入って行くのを見送って、僕は玄関の扉を閉める。
ガチャンッという音とともに、僕はその場にへたり込んだ。
「なんで、こんなことになったんだ……」
夢を見ているんじゃないかと思った僕は、漫画みたいに、思い切り右頬を叩いてみた。
うん、ものすごく痛い。これは――やっぱり現実らしい。そうちゃんと理解したら、また心臓が激しく暴れだした。
ずっとずっと会いたかった律くんが、目の前に現れた。しかも、〝隣人〟という形で。
顔を上げ、視線の先に広がる見慣れたワンルームが、もう全く違うものに見えた。
〝律くんが隣にいる部屋〟はそわそわと落ち着かない。
僕は唯一のほっとできる場所を、今この瞬間から、失ったらしい……。
彼はようやく状況を飲み込んだのか、ずんずんと歩いてきて、僕の前に立ち止まった。
「うそ、なんであの陽翔が……こんなところに」
律くんは数秒固まってから、少し大げさなくらいの声を出した。
「それは、こっちのセリフです。僕は一か月以上も前からここに住んでいたので」
「そっか、そうだよな」
じーっと顔を凝視してくるので、わずかに後ずさる。すると律くんはさらに顔を傾けてくるので、僕は思わず生唾を飲んだ。彼の肌が透き通るように白くて、メガネの向こうにある瞳は相変わらず深かったから。すると彼は、突然薄い唇を開いた。
「陽翔、お前随分とかっこよくなったなー。分かんなかったよ。で、今は……モテモテ?」
「へ、も、モテない! 全くもってモテてません。チビだし」
ぶんぶんと顔を横に振ると、かすかに笑った律くんは姿勢を正して僕を見下ろす。
「そっかぁ……もったいないな。で、陽翔は今、何してんの?」
律くんの質問に、ドキリと心臓が跳ねる。
ついに、本人に伝えなければならない時がきてしまった。
律くんと同じ大学に来てしまったと。いつかはと覚悟はしていたが、どう反応されるかやっぱり怖い。
「だ、大学生……してるよ。大紋大学の文学部にいます」
「え、そうなの? 俺、経済学部にいるんだけど……」
「そ、そうだよね。蒼からうっすら聞いてたよ。だから、いつかキャンパスで会うかもとは思ってたんだ」
――知っていた。というより、あなたがいるから猛勉強してここまで来ました。
そう伝えたらドン引きされるのが目に見えているので、あたかも知らなかったように言ってみる。
だが、元々嘘を吐くのが大の苦手。自然と視線が下がっていく。
「いや、すごい嬉しい。陽翔が後輩にいるなんて思うと。なんか困ったことがあったら、いつでも言ってくれていいし」
頭上で律くんの友好的な言葉が聞こえ、ほっと肩の力が抜けた。視線をちらりと上げてみると、律くんは微笑んでいた。
頬がじんわりと熱い。赤くなっていないといいけれど……。
「ありがと……あの、律くんも何か困ったら言って。お隣さんだし、助け合えたらなと思います」
そう伝えると、一瞬だけ、律くんの視線が僕の顔に留まった。でもすぐに、いつもの軽い表情に戻る。
「おっけー。助け合い、な。また話そう、陽翔」
「う、うん……!」
律くんが部屋に入って行くのを見送って、僕は玄関の扉を閉める。
ガチャンッという音とともに、僕はその場にへたり込んだ。
「なんで、こんなことになったんだ……」
夢を見ているんじゃないかと思った僕は、漫画みたいに、思い切り右頬を叩いてみた。
うん、ものすごく痛い。これは――やっぱり現実らしい。そうちゃんと理解したら、また心臓が激しく暴れだした。
ずっとずっと会いたかった律くんが、目の前に現れた。しかも、〝隣人〟という形で。
顔を上げ、視線の先に広がる見慣れたワンルームが、もう全く違うものに見えた。
〝律くんが隣にいる部屋〟はそわそわと落ち着かない。
僕は唯一のほっとできる場所を、今この瞬間から、失ったらしい……。

