僕のわがままな一年。

僕は、無意識に叫んだ。アスファルトを打ち付ける雨音にも負けない大きな声で。普段の僕じゃ信じられない声量だ。
するとネズミをいじめていた学ラン中学生が一斉にこちらを見た。呆気にとられたような顔をしている彼らを、僕は視線を逸らさず凝視した。

『めんどくせぇー、なっ!』

中心にいた男子が僕を一瞥してすぐに、手に持っていた大きな石を思い切りネズミにぶつけた。鈍い音と、悪意に満ちた笑い声が響く。
あまりにも悲惨なことが行われているのに、僕は何もできなかった。次第に涙が込み上げた。立て立ち尽くしていると、突然傘が大きく揺れた。

『てめぇら、いい加減にしろ! 趣味わりぃんだよ!』

凄みのある声は、その場の空気を一瞬にして変える。
反射的に声の方向を見ると、学校帰りの律くんが立っていた。彼の視線は、学ラン中学生に向けられて、今まで見たことがないような厳しい表情をしていた。心臓が激しくなるほどに、怒りに満ちていた。
『うっせぇなぁ……』
律くんは、彼らよりずっと背が高い。体格だって、全然違う。一瞬でネズミをいじめるのをやめ、そそくさとその場からいなくなった。
律くんはすぐに、棒立ちになっている僕を見つけた。その目は、心配そうに揺れていて、僕の言葉を待っているように見えた。

『あ、ありがとう、律くん……僕、止めたんだけど……だめだった』

全く笑えない場面だし、笑いたくもなかったのだけれど、僕は律くんの前で強がるようにして口角を上げた。しかも情けない、言い訳めいた言葉を口にして。

『大丈夫か、陽翔』

『うん、平気。ありがとう、この子は、かわいそうなことになってしまったけど』

僕は、雨に打ち付けられるネズミに近寄り、ポケットから取り出したハンカチを被せた。
その痛ましい姿が隠れた瞬間に、安堵が心を満たす。かすかに血が滲んだハンカチでその子を包み、僕は自分の胸に抱き寄せた。その瞬間に涙が溢れた。ネズミなんて、害でしかない。汚い。そんなの分かりきってる。蒼や母ちゃん、父ちゃんが見たら、汚いからと怒鳴られそうだ。けれど、僕が離してやれなかった。一生懸命に生きた命は確かにあって、最後このような形にされてしまったのが、かわいそうで仕方なかった。

するとふいに、僕に影がかぶさった。雨音も、少しだけ和らぐ。顔を上げると、律くんが傘を差してくれていた。
彼は真剣な表情で、僕を見つめていた。その瞳は、黒く深く、でも冷たさなんて感じない、優しい光が宿っていた。

『陽翔、その子を埋めてあげようか』