スーパーから戻った僕は、簡単に手洗いを済ませてすぐに虫かごの蓋を開けた。
すると土の中で少しだけ動いて、リリーは角を覗かせる。僕の帰りを待ってくれたみたいで、ちょっと嬉しい。
スプーンで飼ってきたばかりのいちごゼリーをすくって、餌を入れるように穴があけられたおもちゃの幹に注いだ。
僕は小さなころから、こうして昆虫を育ててきた。三歳年上の兄の蒼も昔はそういった類は好きだったが、ある程度の年齢になって虫全般を毛嫌いし始めた。
母ちゃんも、父ちゃんも特に虫が好きというわけでないので、彼らからも煙たい視線を送られたものだ。
だが、そんな僕をただ一人肯定してくれたのが律くんだった。
律くんは昆虫好きの僕を面白いと言ってくれたし、没頭できるものがあって羨ましいとも言ってくれた。
律くんは大金持ちでイケメンだったが、何故か僕の兄の蒼の親友で、しょっちゅう家に遊びに来ていた。
逆も然りで、蒼も律くんの家に遊びに行っていた。僕も幼い頃から律くんに誘われて蒼の後ろをひっついていっていた。
彼と過ごす時間は、僕にとって最高のご褒美だったというのが、本音だ。
律くんと一緒にいるだけで、自分がありのままでいいと思えたし、ただただ心地よかった。うまく話せた記憶はないが、律くんと話しているとすごく楽しかった。
だったら素直に兄の弟として、友達として、幼馴染として、近くにいられればよかったはずなのに、それを途中から、僕は望まなかった。あえて距離をとったのだ。なぜなんだろう、彼と別れて一人部屋にいると漠然とした不安に襲われた。その正体は未だに名前が付けられていない。これ以上、律くんの近くにいると、もっと苦しくなりそうだと本能的に思った。
何年もそんな想いで暮らしていたある日、僕は再び律くんのことばかり考えるようになったのだ。
『おい、あの物体なんだよ。気色わりいな』
脳裏に蘇るのは、中学三年生の、あの夏の日だ。
その日はひどいゲリラ豪雨が村を襲い、雨に滲んだ景色の向こうで、視界はひどく揺れていた。
視線の先に傘を差した学ラン姿の集団が、かすかに見える。
彼らの視線は地面に向けられていた。それに向かって笑っている子や、嫌悪感剥き出しの顔をしている子、石を投げつけている子もいた。
(なにをしているの?)
彼らの後ろを通り過ぎる際に、ちらりと傘を傾け覗いてみると、足元に大きめのネズミが横たわっているのが見えた。
そこで何が行われているのか、ようやく理解する。この少年たちは死んだネズミを嘲笑い、石を投げつけ、さらに痛ましい姿になっていくのを楽しんでいたのだ。
『あの、やめてください……!』

