「え、どうして?」
全然アルバイトの話と、ここでご飯を食べることが繋がらなくて、僕は反射的に質問を返してしまう。
すると少しだけむっと口元を尖らせた律くんは、その深い瞳で僕をまっすぐ見つめる。
「ふたりでこうやって飯食った方がいいし、陽翔も食費のこととか気にしなくていいし」
「え、そんな。食費のことも考えてくれたなんて申し訳なさすぎる……でもっ……」
「でも?」
言い淀む僕の顔に、さらに顔を近づけてくる律くん。顔面が強すぎて、心臓が飛び出そうなくらい緊張してしまう。
――でも、これからこうやって会えるの嬉しすぎる。本当は、もっともっと仲良くなりたいから。
僕の憧れの人は、律くんだから。
気持ちははっきりしているのに、そう伝える度胸は備わってない。
僕は勇気を振り絞って、その近い距離で律くんと視線を合わせた。
「いや、やっぱり。僕も律くんとご飯食べたいです! でも……食費は半分出させて?」
年上といえど、まだ大学生の律くんに食費を全部おごってもらおうなんて一ミリも思えなかった。
すると律くんはじーっと僕の顔を見て不満そうにしていたが、さいごはにこっと口角を上げた。
僕に向ける眼差しが甘くて、胸の奥がきゅんと切ない音を立てる。
「しっかりものの律くん、わかったよ。じゃあ、一緒に買い物も行こうな。そしたら気兼ねなく、一緒に食べられるだろ?」
「う、うん! そうしたい……です……!」
律くんと買い物、めちゃくちゃしてみたい。彼の隣を歩く想像をしてつい、にやけそうになったが寸でのところでとどまった。
「じゃあ、陽翔。今日はありがとな」
「こちらこそ、ごちそうさまでした。またね」
鍋を食べ終えて、一緒にカットフルーツを食べながらゲームをして、僕は自分の部屋に戻った。
僕が玄関の扉を閉めるまで、律くんが手を振ってくれた。
何度も脳裏でその笑顔を再生しては、きゅんとしてしまう。
(って、きゅんって何? 乙女じゃあるまいし……本当に最近の僕、頭イカれてる)
はぁ、と思わず大きなため息をついてベッドに後ろから倒れた。
そう、本当に最近の僕はイカれてる。律くんが隣に越してきてから、彼のことばっかり考えている。
家にいれば、今日会えるかなとか、いつ帰ってくるのかなとか物音ひとつで色々勘ぐって。
だから今日ももちろん律くんのことばかり考えて、しまいには家に突撃。
憧れ、で済ませていいのか分からない。
(やっぱり、変に暇だからダメなのかも。バイトしたら、律くんのことばっかりじゃなくなるかも)
そう結論づけて、僕はポケットに入れていたスマホを取り出し、今朝ダウンロードしたバイト求人アプリを開く。
――今からだって遅くない。律くんのことばかり考えるなんておかしいのだから。
そう思った直後だった。
すぐ近くの壁から、コンコンとこちらをノックする音が聞こえてくる。
一瞬で意識はそちらにとられ、僕はスマホをベッドに放ってすかさず壁に近づいた。
「律、くん?」
「おやすみ、陽翔」

