僕のわがままな一年。



なるべく彼のことは考えないようにしていたけれど、紋プリという単語を耳に挟んで、僕の頭は律くんで埋め尽くされていく。
律くんは僕の兄の親友だ。昔から高身長で色が白く、大きな瞳に筋通った細い鼻梁で人形みたいに整っていて綺麗で、指の爪まで美しい。ゲームも上手くて、漫画も大好きなオタクっぽいところもあったが、ひょうきんで友達も多く、暗い僕にも優しかった。そんな彼は
地元じゃ名の知れた地主の息子で、高校を出たあとも、ずっと遠いところを歩いている人だった。
ふと足をもとの景色が、コンクリートからレンガタイプに変わっていた。
いつの間にか、大学から西に数百メートル歩ききり、自宅近くの商店街まで着ていたようだ。
習慣というのは怖い。今日は本屋に寄って帰ろうと思っていたのに、無意識に自宅に向かっていた。
顔を上げると、歩く顔ぶれが先ほどは学生しかいなかったのに、今は年配者しかいない。
ほっと息を吐きながら、移ろう商店街の形式を眺めて歩いた。

この地域に越してきて早いもので、一か月が経とうとしている。
元々長野の山奥で暮らしていて自然ばかり見て過ごしていたからか、このやや廃れた商店街さえも、怯えるほど都会に見えた。
だが大学に入学して、嫌でも派手な連中と交わり、こそこそ昆虫サークルに入部したものの、そこでも新入生歓迎会だとか、辛うじてできたゼミの友達に遊びに誘われるなどして、東京という場所をようやく受け入れつつあった。

「あ、そういえばゼリーなかったっけ……」

僕の相棒、カブトムシのリリーの餌がもう少しでなくなることを思い出す。くるりと踵を返した僕は通り過ぎてしまったスーパーに立ち寄った。
昔は、18歳ってものすごく大人っぽく……というか、大人になるんだと思っていた。当時脳裏で描いた僕は、すっきりと清潔感溢れる高身長の好青年の姿で、綺麗な女の子の隣を歩き、休日はおしゃれなカフェにでも入っているものだと思っていた。
だが現実は全然違った。幼い頃から好きでたまらない昆虫を追いかけ、女子に引かれるレベルに没頭し、将来の就職先は全く見当がつかない。しかも、好きな女の子がいるわけでもなく、女の子と付き合いたいと思うわけでなく、幼い頃から憧れている律くんを追いかけ、上京までしてしまった。
どうして、こうなったんだ?

「律くんに会えるのかな、リリー」