律くんの家の玄関の前まで来て、僕は思わず大きなため息を吐いた。
気が重くなるにつれ、手に持っているスーパーの袋も重く感じる。
律くんに話しかける項目は三つ。体調は大丈夫なのか。食欲はあるのか。よかったら持ってきたものを食べてください、と勧めること。
少しでも迷惑そうな顔が見えたら、謝って食事たちは家に持ち帰る。そして僕の食料にすればOK。
――イメトレ完了。これで準備は整った。
そう自分に言い聞かせて、震える人差し指で思い切ってインターホンを押す。
少し籠った音で、ピンポーンとお馴染みの音が聞こえてくる。ドッ、ドッと鼓動が太鼓を叩くように体に響いてきた。
緊張はピークで喉の奥が乾燥していくのがわかる。
「…………」
しかし、待てど暮らせど全く反応がない。
律くんがインターホンに出てくれない。まさかの外出中らしい。
僕の膝ががくりと折れ、その場で体勢を崩し危うくしゃがみこみそうになった。
落胆が大きい分、いかに自分が律くんと会えることを期待していたのか思い知る。
なんと浅ましいんだ。僕ってやつは。
迷惑そうな顔をされたらどうするとか、全部彼が玄関を開けてくれる前提だった。
いろんな理由を並べていたけれど、結局僕は律くんに会いたかったんだ。そして、話したかったんだ。
「……ばかだな。僕は」
自然と笑みがこぼれた。
いくらやましい計画があったとしても、彼を労わりたいという気持ちに変わりない。
僕はしょっていたスクールバックからノートを一冊取り出し、一枚破く。
そこに【お大事にしてね】と一言添えて、小さく自分の名前を入れておいた。
本当は名乗りたくなかったが、名無しが食べ物を届けたらそれこそ不審がられてしまう。
律くんの玄関のドアの前に、リボン結びしたコンビニ袋を置いて自分の部屋に戻ろうとした、その時だった。
背後からガチャッと鍵の施錠される音が聞こえた後、ゴゴゴと重たい荷物がドアで引きずられる音が聞こえてくる。
「すいません……どちらさま、ですか」

