僕のわがままな一年。

遠山からハイタッチを求められ、僕は弱い力で自分の手を重ねる。
彼は満足げに笑って、さっさとその場を離れて行った。いつもながら、一瞬で消えてしまう風のような奴だと思う。

(サウナかー。整うっていうのを、一度経験してみたい)

巷で流行っているのは知っていたが、熱くて耐えられる気がせず嫌煙していた。
けれど、せっかく遠山が誘ってくれたのでこの機会にぜひ体験してみたい。
そんな風に思いながら課題の箇所をタブレットの上でチェックしていると、ふいに人の気配を感じてちらりと視線を上げた。

「南くん、お疲れ様。今日もいいレポートだしてくれて嬉しかったな」

「藤代先生……! お疲れ様です、あの、めっちゃ照れます」

僕が顔の前で手をひらひらと降ると、藤代先生はクスクスと肩を揺らして笑った。
文学部の必修科目である基礎講習の担当教員の藤代睦実(ふじしろ・むつみ)教授は、毎週二回ほど顔を合わせる。
気難しい教授が多い中で、雰囲気も柔らかいし年齢も三十代後半ということもあり、僕にとっては一番接しやすい先生だ。
しかも遠山と同じく、偶然一緒になると必ずこうやって話しかけてくれる。

「学校には慣れてきた? 何か困ってることとかない?」

藤代先生は穏やかな口調で、微笑みかけてくれる。僕はつられるようにして口角を上げた。

「はい、おかげさまで。人見知りだけど、みんな声をかけてくれるし……特に遠山は遊びに誘ってくれるので、楽しいです。困ってることといえば、慣れてきて朝が弱くなってきたことくらいかな」

「たしかにねぇ。南君は寝坊助くんなのかなって思ってたんだ。時々寝ぐせついてるし……ほら、今日もここ」

藤代先生はふざけて自分の髪を一本摘まみ、アンテナを張るみたいに見せてくる。
僕は恥ずかしくなって顔を覆った。

「うわぁ、やっぱり治ってなかったですよね。めっちゃくせ毛で水とドライヤーで直すだけでは無理な時が」