僕のわがままな一年。



春の空気っていうのは、そわそわと落ち着かない。それこそ浮かれてやしないか。
身体全体を、優しく撫でられるような……っていうと変態っぽく聞こえるかもしれないけど、本当にそんな感じがする。


「ねぇ、君新入生だよね。ちょっと待って待って!」

「え……」

校門を抜けたところで、少し高めのよく通る声に呼びかけられた。
後ろを振り返ると、僕よりずっと背の高い肩にややかかる長髪の男性と、単発の端正な顔立ちの男性がにこやかな顔で走ってきた。
その姿を見た途端、ぐっと肩の力が入り顔が強張った。僕と真逆の属性の男子。
彼らは俗に言うビジュ圧倒的にいい、アイドル顔。

「えっと、何か御用で……」

恐る恐る口を開いた僕の隣を、シュンッと風のように通りすぎる。

「へ」

口を開けて固まる僕をそっちのけで、彼らは僕のすぐそばを歩いていた、明るい髪の長身男子を囲んだ。


「君、超かっこいいね! 紋プリに出てみない?」

その一言を聞いた瞬間、どきりと心臓が跳ねた。ちらりと横目でその光景を伺い、僕は背中を縮めてそそくさと退散した。
紋プリ、すごいな。でもたしかに、隣の子は色素が薄くて色白で、身長も高くてイケていた。
ひらひらと心ともなく、桜が僕の前を散っていく。
春の陽光は、柔らかいといえど、かすかにギラついているように思えた。気合が入っているような眼差しを空のもと暮らす僕たちに向けて。

紋プリーー大紋大学の伝統行事である、新入生で一番のイケメンを決める、大紋大学プリンスコンテストの略。
プリンスを決めるのだから、もちろん〝プリンセス〟も決めるのだが。
それはとりあえず置いておいて、要は先ほどの上級生たちは、紋プリの実行委員か何かで、僕のそばを歩いていたイケメンをスカウトしていたというわけだ。
僕は肌もやや黒めだし、身長も171センチくらいで、スタイルも特段いいわけでもない。顔立ちははっきりしていると言われるが、どうしてか一向に垢ぬけない印象。趣味は昆虫と植物の観察で、休みの日は読書に没頭。そんな生活を長年続けていたせいで、背中は猫背気味だ。
そんな僕でも、紋プリの存在は熟知していた。僕の憧れの存在――鳴無律くんが、数年前にグランプリを取っていたから。