「ごきげんよう、ようこ。」
「ごきげんよう、みつきさま。」
教室に入った直後、すぐに親友のようこが駆け寄ってきました。
「もう、おからだの具合はよろしいの?」
「ご心配をおかけしました。もう、すっかり良くなりましてよ。」
ここはアッサム高等女学院の三学年の教室。
お金持ちの資産家か名のある華族、もしくは政治家や医者などの娘しか入ることを許されない、男子禁制の園です。
私はあの【心中事件】のあとに高熱が出て一歩も動けず、学業を一週間ほどお休みしていました。
「良かったですわ。」
ようこがホッとした顔で、いつものように私の横の指定席に腰をかけます。
「ところでみつきさま、お悩みになられていた婚約者の五色さまとはお会いになられたのですか? 」
海軍少尉の五色麗。
公爵であるお父さまが決めた私の婚約者さまです。
私がフルフルと力なく首を横に振ると、ようこが急に声をひそめました。
「海軍に居るいとこに、五色さまについて聞いてみたのです。
それがね、とても冷酷で残忍な方なんですって。
しかも戦場で仲間を売って逃げ出した時に目を負傷して、常に黒い眼帯をつけているとか!
ああ、噂だけでも恐ろしいわ。」
私は極度の男性恐怖症。
最近では将来のことを考えるだけで「死にたい」と気が病みます。
「お父さまには女学院卒業と同時に結婚をすると聞いていますから、呑気にしているのもあと一年くらいね…。」
「イヤイヤッ!
わたしのみつきさまが男子のものになるなんて‼」
ようこは激しく首を振ると、大きな瞳に涙をためて私の手を握りしめます。
少々、感情の起伏が激しい少女ですが、決して悪い娘ではありません。
それからようこは教室のカーテンのタッセルをサッと解くと、布の中に私を手招きしました。
私たち女学生は人の多い教室内で秘密の話をするときには、決まってカーテンの中に入ってお喋りをしていたのです。
ようこは私に耳打ちをしました。
「時に、文通相手の猿渡さまとはどうなったのですか?
心中なんて物騒なこともおっしゃっていたから、私はずっと心配していたのですよ。」
「それがね…。」
休日に起きた身の上話を、私は赤裸々に話しました。
すると、暗くてもわかるくらいに顔を真っ赤にして、ようこは興奮してしまいました。
「なんなんですか、そのおなごはァ~!
突然現れて人の恋路を土足でふみにじるなんてッ!!」
「でもね、その女性の言うとおりよ。
おねえさまをよく知らないまま心中しようだなんて、私は思い上がりもいいところだったわ。
今はとても反省しているの。」
「もうッ、みつきさまはお人よしなんだから!
それにしても…変ですね。」
「変?」
「うららさまに宛てた手紙を、どうしてその女が持っていたのかしら。
逢引きされることを事前に本人から聞いたのでしたら、手紙を持っているのは不自然ですね。
うららさまが姿を現さなかったのも気になりますし…。」
「私もそれは気になっていたのよ。」
私はカーテンから出ると、通学カバンから手紙を取り出しました。
それは白亜岬で拾い集めたものとおねえさまから頂いた手紙の束です。
「私たちは一年前から文通を始めたの。でも、拾い集めた手紙は七日分しかないわ。
手紙が気に入らなくて、あの女性に伝言を託したのなら、全てを返してくれてもいいのに。」
「文面をよく見せて頂いてもよろしいですか?」
「ええ。」
胸ポケットから虫メガネを取り出したようこは、おねえさまから来た手紙の一枚一枚に目を通します。
「ふふ。ようこったら!
まるで探偵のようね。」
「茶化すのは止めて下さい。
いま、真剣なんですから。」
ようこの熱心さに押されて、私もあらためて自分が書いた手紙を読み返してみました。
そこには、おねえさまを狂おしく想う気持ちと政略結婚への憎しみとが混沌とつづられていて、その時の感情が甦るようで、とても切なくなりました。
「アッ、これは…違う!」
ようこが、急に口に手をあてて顔色を変えました。
「どうされたの?」
「みつきさま、これを見て! 【心中】の手紙を書いてきたのは、うららさまではないかもしれません‼」
「ごきげんよう、みつきさま。」
教室に入った直後、すぐに親友のようこが駆け寄ってきました。
「もう、おからだの具合はよろしいの?」
「ご心配をおかけしました。もう、すっかり良くなりましてよ。」
ここはアッサム高等女学院の三学年の教室。
お金持ちの資産家か名のある華族、もしくは政治家や医者などの娘しか入ることを許されない、男子禁制の園です。
私はあの【心中事件】のあとに高熱が出て一歩も動けず、学業を一週間ほどお休みしていました。
「良かったですわ。」
ようこがホッとした顔で、いつものように私の横の指定席に腰をかけます。
「ところでみつきさま、お悩みになられていた婚約者の五色さまとはお会いになられたのですか? 」
海軍少尉の五色麗。
公爵であるお父さまが決めた私の婚約者さまです。
私がフルフルと力なく首を横に振ると、ようこが急に声をひそめました。
「海軍に居るいとこに、五色さまについて聞いてみたのです。
それがね、とても冷酷で残忍な方なんですって。
しかも戦場で仲間を売って逃げ出した時に目を負傷して、常に黒い眼帯をつけているとか!
ああ、噂だけでも恐ろしいわ。」
私は極度の男性恐怖症。
最近では将来のことを考えるだけで「死にたい」と気が病みます。
「お父さまには女学院卒業と同時に結婚をすると聞いていますから、呑気にしているのもあと一年くらいね…。」
「イヤイヤッ!
わたしのみつきさまが男子のものになるなんて‼」
ようこは激しく首を振ると、大きな瞳に涙をためて私の手を握りしめます。
少々、感情の起伏が激しい少女ですが、決して悪い娘ではありません。
それからようこは教室のカーテンのタッセルをサッと解くと、布の中に私を手招きしました。
私たち女学生は人の多い教室内で秘密の話をするときには、決まってカーテンの中に入ってお喋りをしていたのです。
ようこは私に耳打ちをしました。
「時に、文通相手の猿渡さまとはどうなったのですか?
心中なんて物騒なこともおっしゃっていたから、私はずっと心配していたのですよ。」
「それがね…。」
休日に起きた身の上話を、私は赤裸々に話しました。
すると、暗くてもわかるくらいに顔を真っ赤にして、ようこは興奮してしまいました。
「なんなんですか、そのおなごはァ~!
突然現れて人の恋路を土足でふみにじるなんてッ!!」
「でもね、その女性の言うとおりよ。
おねえさまをよく知らないまま心中しようだなんて、私は思い上がりもいいところだったわ。
今はとても反省しているの。」
「もうッ、みつきさまはお人よしなんだから!
それにしても…変ですね。」
「変?」
「うららさまに宛てた手紙を、どうしてその女が持っていたのかしら。
逢引きされることを事前に本人から聞いたのでしたら、手紙を持っているのは不自然ですね。
うららさまが姿を現さなかったのも気になりますし…。」
「私もそれは気になっていたのよ。」
私はカーテンから出ると、通学カバンから手紙を取り出しました。
それは白亜岬で拾い集めたものとおねえさまから頂いた手紙の束です。
「私たちは一年前から文通を始めたの。でも、拾い集めた手紙は七日分しかないわ。
手紙が気に入らなくて、あの女性に伝言を託したのなら、全てを返してくれてもいいのに。」
「文面をよく見せて頂いてもよろしいですか?」
「ええ。」
胸ポケットから虫メガネを取り出したようこは、おねえさまから来た手紙の一枚一枚に目を通します。
「ふふ。ようこったら!
まるで探偵のようね。」
「茶化すのは止めて下さい。
いま、真剣なんですから。」
ようこの熱心さに押されて、私もあらためて自分が書いた手紙を読み返してみました。
そこには、おねえさまを狂おしく想う気持ちと政略結婚への憎しみとが混沌とつづられていて、その時の感情が甦るようで、とても切なくなりました。
「アッ、これは…違う!」
ようこが、急に口に手をあてて顔色を変えました。
「どうされたの?」
「みつきさま、これを見て! 【心中】の手紙を書いてきたのは、うららさまではないかもしれません‼」



