雷で打たれたかのような衝撃。
あまりの非常事態に、私は気が動転してどうにかなってしまいそうです。
「私…帰らなきゃ。」
ソファの手すりにすがりつつ、ようやく立ちあがった私の手を紘次郎が乱暴に捕えました。
いつも私を壊れ物のように優しく扱う紘次郎が、今日は無遠慮なまでに大きな手に力を込めるのです。
「帰るって、どこに?
ここがあなたのおうちなのに。」
「離して。
私はもう、麗さまのものなのです。」
紘次郎は私を引き寄せると、その胸に強く抱きました。
テーブルの上の茶器が、私の膝がぶつかった振動でガチャッと耳障りな音を立てます。
「な、何をするの?」
紘次郎の目が紅く煌めき、荒い吐息が耳元に一定のリズムを刻みます。
「どこにも行かせない。
もう私は、二度とみつきを手放したりしません。」
「紘次郎、痛いわ。」
紘次郎は全く私の話を聞く耳を持たず、なおさら私をキツく抱きしめます。
(怖い!)
次から次へと起こる予想外の事態に私の紘次郎への厚い信頼は脆く崩れ、この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになりました。
今や私の頭の中を強く支配するのは、味わったことのない恐怖心でした。
「ずっと、みつきが好きでした。」
突然の告白。
うずくようなかすれた囁き声が耳元に届き、私は紘次郎を仰ぎ見ました。
「冗談よね?」
いつものように言って欲しい。
何もかもが冗談で、私をからかっただけだと。
しかし、そんな私のささやかな願いはすぐに一笑に付されました。
「ずっと一緒に過ごしてきたのですから、私たちが結ばれるのは自然なことでしょう。」
「一緒に過ごしてきたのは親戚だからですわ。血がつながっているじゃないの!」
「薄い血のつながりが何だというのですか? いとこだって結婚できるんですよ。
それとも、私のことがお嫌いですか?」
「紘次郎のことは嫌いではないわ…でも、私の真に愛しい人は麗さまなの!」
私の直球の言葉を受けた紘次郎は、一瞬だけ絶望の色を浮かべたあとに悔し気に毒を吐き出しました。
「ハッ、【真に愛しい】?
あんな女装趣味の変態男のことが?」
「なぜ、そのことを⁉」
「【猿渡うらら】を調べていたら、偶然【五色麗のいとこ】と名乗る女性にお会いしたのです。
秘密はすべて共有したんですよ。」
私はうららの美しくも邪悪な笑みを思い出して、ゾクッとしました。
「天下の帝国海軍の少尉が、女装趣味だなんて面白い特報記事ですよね。
しかもその妻が公爵令嬢だなんて、悪趣味な三流小説のようだ。
世間の笑いものになるのは五色家だけで十分でしょう。」
「ひどいわ。」
あまりの暴言に吐き気がぶり返します。
「ひどいのはみつきだ。」
紘次郎は切なげに眉根を寄せて、私の頬に両手で触れました。
「私の気持ちを知ろうともせずに、自由気ままに振舞ってきたじゃないですか。これはその代償ですよ。
それにどうせ、戦局が進めば軍人は最前線に駆り出されて会えなくなる。
もう、忘れてしまいなさい。
昔も今も、みつきの隣は私だけのものだ。」
そう言うと、紘次郎は私に顔を寄せました。
(キスされる…。)
「イヤッ!」
私は驚いて紘次郎に抗いました。
でも男性の力に敵うはずもなく、すぐに私は紘次郎の腕の中に囚われます。
「もう、離しません。
ずっと、あなたを想ってきた。
ずっと、こうしたかった。」
貪るように私に覆いかぶさる紘次郎。
私は手足を滅茶苦茶に振り回して暴れました。
「やめて!」
手が紘次郎の顏に当たり、床に眼鏡が弧を描いて落ちました。
「…そんなに、私を受け入れるのが嫌なのか。」
傷ついた顔の紘次郎が私から離れると、ホッとしながらも私も胸が痛くなりました。
「ごめんなさい。」
「許さない。」
返答した紘次郎のいつもの温和な口調と紳士な態度は、どこにもありませんでした。
私を睨む形相はゾクッとするほど冷酷で、恐ろしい雰囲気を醸し出しています。
「あなたは私だけの理想の令嬢です。絶対に逃がすものか。」
「アッ⁉」
身体が動かない私は力が抜けてしまい、床に両膝をつきました。
これは吸血鬼の催眠能力。
以前、華乃さまにかけられた催眠よりも、もっとずっと強力な力が私を頭から押さえつけます。
本来、分家の末端である紘次郎は私に催眠をかけることはできないはず。
お父さまが当主を紘次郎に受け渡したという告白は、本当だったのです。
紘次郎はその紅く凍てついた瞳に、怯える私を映しました。
「今のみつきさまには矯正治療が必要ですね。
それまでは私も無理強いはしません。
ただし、自ら正しい認識が出せるまで、この部屋から出ることは禁止にします。」
「正しい認識ですって…⁉」
紘次郎がそう言い捨てて部屋を出たあと、外から鍵がかかる金属音がしました。
「何をするの⁉」
扉の向こうから紘次郎が部屋から遠ざかる足音が響き、私はその場に倒れ伏しました。
あまりの非常事態に、私は気が動転してどうにかなってしまいそうです。
「私…帰らなきゃ。」
ソファの手すりにすがりつつ、ようやく立ちあがった私の手を紘次郎が乱暴に捕えました。
いつも私を壊れ物のように優しく扱う紘次郎が、今日は無遠慮なまでに大きな手に力を込めるのです。
「帰るって、どこに?
ここがあなたのおうちなのに。」
「離して。
私はもう、麗さまのものなのです。」
紘次郎は私を引き寄せると、その胸に強く抱きました。
テーブルの上の茶器が、私の膝がぶつかった振動でガチャッと耳障りな音を立てます。
「な、何をするの?」
紘次郎の目が紅く煌めき、荒い吐息が耳元に一定のリズムを刻みます。
「どこにも行かせない。
もう私は、二度とみつきを手放したりしません。」
「紘次郎、痛いわ。」
紘次郎は全く私の話を聞く耳を持たず、なおさら私をキツく抱きしめます。
(怖い!)
次から次へと起こる予想外の事態に私の紘次郎への厚い信頼は脆く崩れ、この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになりました。
今や私の頭の中を強く支配するのは、味わったことのない恐怖心でした。
「ずっと、みつきが好きでした。」
突然の告白。
うずくようなかすれた囁き声が耳元に届き、私は紘次郎を仰ぎ見ました。
「冗談よね?」
いつものように言って欲しい。
何もかもが冗談で、私をからかっただけだと。
しかし、そんな私のささやかな願いはすぐに一笑に付されました。
「ずっと一緒に過ごしてきたのですから、私たちが結ばれるのは自然なことでしょう。」
「一緒に過ごしてきたのは親戚だからですわ。血がつながっているじゃないの!」
「薄い血のつながりが何だというのですか? いとこだって結婚できるんですよ。
それとも、私のことがお嫌いですか?」
「紘次郎のことは嫌いではないわ…でも、私の真に愛しい人は麗さまなの!」
私の直球の言葉を受けた紘次郎は、一瞬だけ絶望の色を浮かべたあとに悔し気に毒を吐き出しました。
「ハッ、【真に愛しい】?
あんな女装趣味の変態男のことが?」
「なぜ、そのことを⁉」
「【猿渡うらら】を調べていたら、偶然【五色麗のいとこ】と名乗る女性にお会いしたのです。
秘密はすべて共有したんですよ。」
私はうららの美しくも邪悪な笑みを思い出して、ゾクッとしました。
「天下の帝国海軍の少尉が、女装趣味だなんて面白い特報記事ですよね。
しかもその妻が公爵令嬢だなんて、悪趣味な三流小説のようだ。
世間の笑いものになるのは五色家だけで十分でしょう。」
「ひどいわ。」
あまりの暴言に吐き気がぶり返します。
「ひどいのはみつきだ。」
紘次郎は切なげに眉根を寄せて、私の頬に両手で触れました。
「私の気持ちを知ろうともせずに、自由気ままに振舞ってきたじゃないですか。これはその代償ですよ。
それにどうせ、戦局が進めば軍人は最前線に駆り出されて会えなくなる。
もう、忘れてしまいなさい。
昔も今も、みつきの隣は私だけのものだ。」
そう言うと、紘次郎は私に顔を寄せました。
(キスされる…。)
「イヤッ!」
私は驚いて紘次郎に抗いました。
でも男性の力に敵うはずもなく、すぐに私は紘次郎の腕の中に囚われます。
「もう、離しません。
ずっと、あなたを想ってきた。
ずっと、こうしたかった。」
貪るように私に覆いかぶさる紘次郎。
私は手足を滅茶苦茶に振り回して暴れました。
「やめて!」
手が紘次郎の顏に当たり、床に眼鏡が弧を描いて落ちました。
「…そんなに、私を受け入れるのが嫌なのか。」
傷ついた顔の紘次郎が私から離れると、ホッとしながらも私も胸が痛くなりました。
「ごめんなさい。」
「許さない。」
返答した紘次郎のいつもの温和な口調と紳士な態度は、どこにもありませんでした。
私を睨む形相はゾクッとするほど冷酷で、恐ろしい雰囲気を醸し出しています。
「あなたは私だけの理想の令嬢です。絶対に逃がすものか。」
「アッ⁉」
身体が動かない私は力が抜けてしまい、床に両膝をつきました。
これは吸血鬼の催眠能力。
以前、華乃さまにかけられた催眠よりも、もっとずっと強力な力が私を頭から押さえつけます。
本来、分家の末端である紘次郎は私に催眠をかけることはできないはず。
お父さまが当主を紘次郎に受け渡したという告白は、本当だったのです。
紘次郎はその紅く凍てついた瞳に、怯える私を映しました。
「今のみつきさまには矯正治療が必要ですね。
それまでは私も無理強いはしません。
ただし、自ら正しい認識が出せるまで、この部屋から出ることは禁止にします。」
「正しい認識ですって…⁉」
紘次郎がそう言い捨てて部屋を出たあと、外から鍵がかかる金属音がしました。
「何をするの⁉」
扉の向こうから紘次郎が部屋から遠ざかる足音が響き、私はその場に倒れ伏しました。



