憧れのおねえさまは華麗に素敵な嘘を吐く~大正公爵令嬢×隻眼海軍少尉の秘密の花園~

(おねえさまが五色さま⁉)

 五色さまの人さし指が首すじを這い、手のひらが愛おしむように私の肩甲骨を撫でています。
 確かに侯爵邸で会ったときには、おねえさまから【秘密のシスタアの儀式】を私にするという約束をしていました。

 でも、それはおねえさまが女性だと信じていたからで…。

「可愛い。」

 五色さまはそう言いながら右ひざを簡易寝台にかけると、小きざみに震える私の両肩に、優しく手を添えました。

「セーラー服のみつきも良いけど、今日は本物のお姫さまみたいだ。」

 それはおねえさまからいちばん欲しかった言葉でした。
 私は胸が高鳴りましたが、すぐにそれをグッと抑えました。

「私…おねえさまが五色さまだなんて、まだ信じられません。」

「ボクも、みつきを助けたいだけで困らせるつもりはないよ。
 でも、もう我慢できない。」

 五色さまはオッドアイをうるませて、余裕のない表情をしました。

「噛んでもいい?」

 五色さまの妖艶な息づかいがすぐ近くに感じます。
 とうとう私はタガが外れてしましました。

「どうぞ。」

 目をギュッとつぶってうなずくと、五色さまは私を押し倒して覆い被さりました。

「ああ…。」

 遊びでようこが私に歯を当てることがあっても、吸血行為をすることはありません。
 初めて他人の犬歯が首に刺さります。

 皮膚をゆっくりと、しかし確実に貫通する痛みに、私は喜びで悶えました。

 (痛い…でも、愛おしい。)

 薔薇の香りがいっきに鼻腔になだれこみ、私の目からは自然と涙があふれました。

 おねえさまが五色さまなのだという事実が、私の五感に染み渡ります。
 同時に私の血が五色さまの口腔に吸い込まれて、その体内に満ちていく。

 私という生き物は、おねえさまへの甘酸っぱい【純愛】でいっぱいになりました。

「ああ、おねえさま…。」

「目を開けて、ちゃんと見て。」

 その声に誘われるように目を開けると、ガラスキャビネットに私たちの姿が映っているのが見えました。
 美しい男性に組み敷かれた私。

 思い描いていた景色ではありませんが、夢が現実のになった快感にゾクゾクしました。

「五…麗さま…。」

 麗さまはいちど私と目を合わせると、少し下のほうにずらしながら何度も首すじを噛みました。
 いつ部屋に先生や生徒が入ってくるか分からない状況なのに。

 このまま、時が止まればいい。

 興奮と背徳感のせめぎ合いに、私は泣きながら溺れていました。

 ♢

 どれくらい、私たちはそうして過ごしていたのでしょう。

 廊下を女生徒の集団が歩く音がして、ようやく麗さまは私を解放してくださいました。
 そして上着からハンカチーフを取り出すと、寝台に横になる私の涙の跡を拭いて言いました。

「せっかくみつきに招待されたのに【うらら】として来られなくてごめんね。
 どうしても、みつきの可愛い姿を見ておきたかったんだ。」

 私は乱れた衣服を直しながら、首を横に振りました。

「もう、大丈夫です。」

「泣くほど怖かった?」

「いいえ。
 むしろ私の【純愛】は変わらないと確信しました。」

 麗さまは私を胸に強く抱きしめて、小声でつぶやきました。

「そんなこと言われたら、二度と家に帰せなくなるよ。」