会長が死んで、僕は三年生になった。クラスが変わると、いじめの主犯格たちとも離れて、僕はいじめから解放された。
でも、苦しみからは解放されていなかった。
「……」
会長のような人間は、どこにもいない。
いないなら、僕がなろう。
僕はいらない。どうせ、一回死んでる。
会長が死ぬくらいなら、僕を殺して、会長のようになろう。
僕なんかより、会長が生きてる方が、マシだから。
「三上、お前立候補するのか? 生徒会」
「はい、やっぱり、この学校の生徒には笑ってほしいですから」
「……お前、そんなやつだったけ」
「? はい、そうですよ」
会長のような、太陽みたいな笑顔を作って、優しい声色で、堂々と。
「どうかこの私に、清き一票をよろしくお願いします!」
生徒会選挙に向け、校内を回って投票を呼びかける。安奈さんがどんなふうにしてたかはわからないけど、でも、安奈さんならきっと笑ってはっきりと喋ってたはずだ。
でも、生徒会選挙では負け、副会長になった。
「これからよろしく」
「よろしくお願いします、安藤さん」
生徒会長になった安藤さんと手を繋ぐ。悔しいけれど、もし杏奈さんが負けていてもその悔しさを前に出したりはしないはずだ。
杏奈さんのように
僕は
「なんか三上お前最近堂々としてんなあ」
「……そうですか?」
「ま、無理すんなよ」
そう豪快に笑う僕の担任。確か、去年杏奈さんの担任をしていたはずだ。
「その、先生」
「なんだ?」
「杏奈、小林さんってどんな感じでした?」
「……優しかったよ、誰にでも」
先生は、唇を噛み締めていた。悔しいのか、苦しいのか、どちらともとれない顔をしている。
「そう、ですか」
「なあ、三上お前―」
「すみません、仕事があるので」
そう言って僕は仕事に戻った。荒川先生はなにか言いたそうだったけど、言葉を飲み込んでいた。
毎晩、毎日、ずっと杏奈さんのことを思い出す。杏奈さんの喋り方から癖まで全部、記憶のとおりに。
「すみません、先生次の会議について」
その時、違和感に気づいた。一人孤立している少女、嘲け笑う女子たち。
僕の姿と重なった。
ああ、あの時、杏奈さんはこんなに怒っていたのか。
「なに、してるの?」
「えー何って見たらわかるっしょ遊んでんだよ」
「ふぅん」
そう話していたらここのクラスの担任が来た。
「あれ、三上さんなに? なにかよう?」
「次の会議について、いいですか?」
「あと、あの子は?」
「ああ、江口さん?」
教師は、特に不信感もなく当たり前のように話しだした。
「内気な子だったんだけど、最近は五十嵐さんとか堤さんとかが仲良くしてくれてるよ」
「そうですか……一度、江口さんと話してもいいですか?」
「別にいいけど……」
そう言って笑顔を作って江口さんの方へ歩み寄る。杏奈さんのように。
「はじめまして、副会長の三上 勇斗です」
「は、はじめまして」
「聞きたいことがあるんだ、明日の放課後、時間ある?」
「だ、大丈夫です」
そして、教室を出た。
約束はできた。あとは江口さんについての情報を集めて、話すことについて、まとめなきゃ。あとは、会議についてまとめて、時折他のクラスも見ながら、違和感がないか確認して。
「杏奈さん、ほんとに寝てたのかな」
校舎の壁にもたれかかりながら一言呟く。睡眠時間が短かったことも、杏奈さんが膵臓がんになった原因の一因かもしれない。
「とにかく、仕事しなきゃ」
仕事は山積みだが、勉強もしなくてはならない。杏奈さんのように博識にならなくては。
自分の部屋で、仕事をしているときだけは杏奈さんが近くにいるような気がして心地良い。
「江口さんは、内気で、友達は少ない」
「江口さんのクラスの子によると、一部の女子から無視されている」
「掃除当番の押しつけも多数……」
「黒……かなぁ」
部屋は随分と汚くなってしまった。資料やプリントで床が埋め尽くされている。でも、これも全部杏奈さんの残したものだと思えばいい。
「僕は、杏奈さんの代わりなんだから」
その言葉は、僕の体の中で黒く残った。杏奈さんのようになれないことはわかってる。それでも、これは贖いだ。杏奈さんを殺した、僕の。
次の日、江口さんとの話し合いに望んだ。
「江口さん、そこに座って」
できる限り安心させるような笑顔、声色で接した。
「は、はい、あの」
「私、なにかしましたでしょうか」
「いいや?」
「じゃ、じゃあなんでしょう、か」
「単刀直入に聞くね」
机の上に手をおいて、真剣な顔で。
「君、いじめられてる?」
彼女はおどろいた。僕も、こんな顔をしてたのかな。
「いや、、そんな、そんなっこ、と」
「……」
「私、」
「無理に話さなくても大丈夫だよ、言いにくいだろうし」
「江口さんが話したくなるまで、何日でも待つよ」
「なん、でですか」
「なぜって」
「この学校の、副生徒会長だからだよ」
ああ、違う。会長は、もっと太陽みたいで、明るくて、安心させられるんだ。
こんなの、違う。