次の日の放課後、僕は対談室に行った。そこには生徒会長が先に座っていた。
「ごめんね、急に呼び出して」
「いえ、あの」
「すみませ―」
そう謝ろうとしたら、会長は僕の言葉を遮った。ただ、謝ればズレはもう終わると思ったのに、会長はそれすらも蹴っ飛ばした。
「別にいいよ」
会長は、優しく微笑んでいた。これから説教をするような顔じゃなかった。
「まぁ、まずそこに座ってよ」
椅子へと促される。言われたままに座ると、会長も僕の目の前の席に座った。椅子をひくと、少しだけホコリが舞った。
「単刀直入に聞くね」
机の上に手を置き、真剣な表情で話す。どうせ、シューズを忘れないでください。とかだろ、そうやってまた、あいつらの解釈を増やすんだろ!?
もう、やめて……
「君、いじめられてる?」
思いがけない言葉が飛んできた。いじめられてる?なんて、一回も聞いたことがなかった。会長は、都合のいい方向にカーペットをズラそうとしたんじゃない。こんなカーペットすら蹴り飛ばしてやろうと聞いたんだ。
「っ……」
いじめられてます。大声で言いたい。でも、また、また言えない。
ずっと思ってた。こんなものいらないって。それに従ってる自分も嫌だった。でも、もう吐き出すことにも疲れて、ただ、生きてればいいかなって、これが当たり前なんだって。でも、そうじゃない。僕は
「僕、は」
助けてほしい。
「……」
でも、出ないんだ。
『まぁ、気のせいかもしれないしもう一回話してみたら?』
担任の言葉がフラッシュバックする。言い出せなかったら、またあのドアの向こうに行ってしまうのかな。
「無理に話さなくてもいいよ、言いにくいだろうし、」
「君が話したくなるまで、何日でも待つよ」
僕のそんな不安すらこの人は一蹴してしまう。
「どう、して」
「どうしてって、」
「この学校の、生徒会長だからだよ」
会長は明るい太陽のように微笑んだ。今まで言い出せなかった黒い物体を全部溶かしてくれた。僕がはけなかった不安を一気に吹き飛ばしてしまった。
「僕は、いじめ、られてます」
会長は、優しく微笑んで、「話してくれて、ありがとう」と言ってくれた。
その後、ゆっくりと話した。これからどうしてほしいか。親に相談するか、明確ないじめが始まったのはいつか、主な人間は誰か、等僕のペースに合わせてゆったりと話を聞いてくれた。流れていく時間が、とても心地よかった。
「そっか、よく頑張ったね、ごめんね、もっと早くに気づけなくって」
「いえ、ありがとうございます」
僕の目からは、今まで吐き出せなかった黒いものが、涙として流れ出ていた。涙を見せることに、抵抗はなかった。
「これからについては話を聞いて、親には相談しない、でいい?」
「はい、親に言うのは、少し、気がひけるというか、勇気が出なくて」
「わかった、このことについては先生には言わないから、うまく合わせてね」
「ありがとう、ございます」
感謝で胸がいっぱいだった。会長は笑ってる。優しい顔で、女子が向けてたのも、同じ笑顔のはずなのに、どうしてこうも変わるんだろう。
「あの、話し合い、あるんですよね、僕なんかにそんな時間かけていいんですか?」
「いいのいいの! 生徒会長たるもの、学校の生徒の笑顔を保全しなきゃだからね」
そう笑って会長はピースした。
その日の帰り道で見た空は、とても明るくて、きれいで、輝いていた。
次の日も、いじめは無くならなかったし、先生も、見て見ぬふりだったけれど、少しだけ、気持ちは楽だった。
溜まる黒い塊も、あの人が受け入れてくれる。自分が孤独でないということが、僕を守る盾になってくれる。
それからたまに会長は僕と話す機会を設けてくれた。
「会長」
「三上くん、どう、調子は?」
「だいぶ、楽になりました、人に話せるって、こんな楽なんですね」
「そっか、それならよかった」
会長は、また微笑んだ。なぜ、この人の笑顔はこんなに輝いてるんだろう。なぜ、この人の言葉はこんなにも、優しいのだろう。
「でも、いいんですか、ちゃんと寝てるんですか?」
「まぁ、それなりには」
「何時間くらいなんですか?」
「五時間から徹夜くらいまでかな」
「話を聞いてくれるのはありがたいですけど、会長も眠ってください」
なんとなく、そんな気はしていた。そもそも生徒会の仕事もあるのに、たまに僕の話を聞いて、その間にできる仕事は何個あるだろう。
会長に、迷惑をかけてる。僕が、相談できなかったせいでこうなったのに。
自然と肩が落ちた。だめだ。また、自責思考になってしまう。それは、もっと会長に迷惑をかける事になる。
深呼吸をして、心を落ち着かせる。
「きっしょ」
「それなー」
いじめの言葉は、まだ苦しいし、怖い。でもこの気持ちをちゃんと吐き出せるから、大丈夫、前を見れる。
会長との話は雑談が多くなってきた。勿論、いじめのことについて話した後だけど。その時間に見れる夕焼けに照らされた机や黒板が好きになっていった。
「会長ってどんな仕事するんですか?」
「うーん、予算の話し合いとか、校則についての意見を見直したり?」
「へぇ……」
「あとさ、会長っていう呼び方慣れないから杏奈にしてほしいなー」
「じゃあ、杏奈さん?」
「休み、のライン」
家族の都合で当分来れないそうだ。そうか……残念だな。
「ねぇ、止まんないでくんない? 邪魔」
「てか、最近調子乗ってんじゃねぇの?」
「……すみません」
そう言って逃れようとするが、しつこく迫ってくる。
「マジ調子のんなよお前」
「先生に言うよ?」
その後も、ずっとなにか言っていたけど、よく聞こえなかった。
「ふんっ」
満足したのか、何も言わない僕に飽きたのか、女子たちはどこかへ行ってしまった。
しかし、それから更に過激化した。僕が掃除当番の日、わざとバケツを倒したり、ゴミを落としたりするのだ。
このことは、安奈さんには話せない。
「……苦しい」
掃除当番
で一人だけの教室にその言葉は響いた。そして、ラインの通知音も響いた。
「明日の休み、ここに来れる?」
そこに載せられていた住所は、病院だった。
「安奈、さん?」
「ごめんね、急に呼び出して」
「いえ、あの」
「すみませ―」
そう謝ろうとしたら、会長は僕の言葉を遮った。ただ、謝ればズレはもう終わると思ったのに、会長はそれすらも蹴っ飛ばした。
「別にいいよ」
会長は、優しく微笑んでいた。これから説教をするような顔じゃなかった。
「まぁ、まずそこに座ってよ」
椅子へと促される。言われたままに座ると、会長も僕の目の前の席に座った。椅子をひくと、少しだけホコリが舞った。
「単刀直入に聞くね」
机の上に手を置き、真剣な表情で話す。どうせ、シューズを忘れないでください。とかだろ、そうやってまた、あいつらの解釈を増やすんだろ!?
もう、やめて……
「君、いじめられてる?」
思いがけない言葉が飛んできた。いじめられてる?なんて、一回も聞いたことがなかった。会長は、都合のいい方向にカーペットをズラそうとしたんじゃない。こんなカーペットすら蹴り飛ばしてやろうと聞いたんだ。
「っ……」
いじめられてます。大声で言いたい。でも、また、また言えない。
ずっと思ってた。こんなものいらないって。それに従ってる自分も嫌だった。でも、もう吐き出すことにも疲れて、ただ、生きてればいいかなって、これが当たり前なんだって。でも、そうじゃない。僕は
「僕、は」
助けてほしい。
「……」
でも、出ないんだ。
『まぁ、気のせいかもしれないしもう一回話してみたら?』
担任の言葉がフラッシュバックする。言い出せなかったら、またあのドアの向こうに行ってしまうのかな。
「無理に話さなくてもいいよ、言いにくいだろうし、」
「君が話したくなるまで、何日でも待つよ」
僕のそんな不安すらこの人は一蹴してしまう。
「どう、して」
「どうしてって、」
「この学校の、生徒会長だからだよ」
会長は明るい太陽のように微笑んだ。今まで言い出せなかった黒い物体を全部溶かしてくれた。僕がはけなかった不安を一気に吹き飛ばしてしまった。
「僕は、いじめ、られてます」
会長は、優しく微笑んで、「話してくれて、ありがとう」と言ってくれた。
その後、ゆっくりと話した。これからどうしてほしいか。親に相談するか、明確ないじめが始まったのはいつか、主な人間は誰か、等僕のペースに合わせてゆったりと話を聞いてくれた。流れていく時間が、とても心地よかった。
「そっか、よく頑張ったね、ごめんね、もっと早くに気づけなくって」
「いえ、ありがとうございます」
僕の目からは、今まで吐き出せなかった黒いものが、涙として流れ出ていた。涙を見せることに、抵抗はなかった。
「これからについては話を聞いて、親には相談しない、でいい?」
「はい、親に言うのは、少し、気がひけるというか、勇気が出なくて」
「わかった、このことについては先生には言わないから、うまく合わせてね」
「ありがとう、ございます」
感謝で胸がいっぱいだった。会長は笑ってる。優しい顔で、女子が向けてたのも、同じ笑顔のはずなのに、どうしてこうも変わるんだろう。
「あの、話し合い、あるんですよね、僕なんかにそんな時間かけていいんですか?」
「いいのいいの! 生徒会長たるもの、学校の生徒の笑顔を保全しなきゃだからね」
そう笑って会長はピースした。
その日の帰り道で見た空は、とても明るくて、きれいで、輝いていた。
次の日も、いじめは無くならなかったし、先生も、見て見ぬふりだったけれど、少しだけ、気持ちは楽だった。
溜まる黒い塊も、あの人が受け入れてくれる。自分が孤独でないということが、僕を守る盾になってくれる。
それからたまに会長は僕と話す機会を設けてくれた。
「会長」
「三上くん、どう、調子は?」
「だいぶ、楽になりました、人に話せるって、こんな楽なんですね」
「そっか、それならよかった」
会長は、また微笑んだ。なぜ、この人の笑顔はこんなに輝いてるんだろう。なぜ、この人の言葉はこんなにも、優しいのだろう。
「でも、いいんですか、ちゃんと寝てるんですか?」
「まぁ、それなりには」
「何時間くらいなんですか?」
「五時間から徹夜くらいまでかな」
「話を聞いてくれるのはありがたいですけど、会長も眠ってください」
なんとなく、そんな気はしていた。そもそも生徒会の仕事もあるのに、たまに僕の話を聞いて、その間にできる仕事は何個あるだろう。
会長に、迷惑をかけてる。僕が、相談できなかったせいでこうなったのに。
自然と肩が落ちた。だめだ。また、自責思考になってしまう。それは、もっと会長に迷惑をかける事になる。
深呼吸をして、心を落ち着かせる。
「きっしょ」
「それなー」
いじめの言葉は、まだ苦しいし、怖い。でもこの気持ちをちゃんと吐き出せるから、大丈夫、前を見れる。
会長との話は雑談が多くなってきた。勿論、いじめのことについて話した後だけど。その時間に見れる夕焼けに照らされた机や黒板が好きになっていった。
「会長ってどんな仕事するんですか?」
「うーん、予算の話し合いとか、校則についての意見を見直したり?」
「へぇ……」
「あとさ、会長っていう呼び方慣れないから杏奈にしてほしいなー」
「じゃあ、杏奈さん?」
「休み、のライン」
家族の都合で当分来れないそうだ。そうか……残念だな。
「ねぇ、止まんないでくんない? 邪魔」
「てか、最近調子乗ってんじゃねぇの?」
「……すみません」
そう言って逃れようとするが、しつこく迫ってくる。
「マジ調子のんなよお前」
「先生に言うよ?」
その後も、ずっとなにか言っていたけど、よく聞こえなかった。
「ふんっ」
満足したのか、何も言わない僕に飽きたのか、女子たちはどこかへ行ってしまった。
しかし、それから更に過激化した。僕が掃除当番の日、わざとバケツを倒したり、ゴミを落としたりするのだ。
このことは、安奈さんには話せない。
「……苦しい」
掃除当番
で一人だけの教室にその言葉は響いた。そして、ラインの通知音も響いた。
「明日の休み、ここに来れる?」
そこに載せられていた住所は、病院だった。
「安奈、さん?」
