ネグレクト少年の拾い食いとヤンデレ少女の餌付け

 それは、破滅への誘いだった。

 彼女は、自分の両親が車両火災で“溶けてくっついた”あの日の罪を、抱きしめたまま生きている。
 そして今、同じ熱量で、僕との関係を永遠にしようとしていた。

 離れたくない。ただ、それだけの願いが、
 幸福を壊した記憶となって、いまも彼女の精神を焼き焦がしている。

 彼女──わたらいさんが、僕の指を絡め取る。
 逃がさないと宣言するように、強く、恋人繋ぎで。

「ねえ、一緒に探してくれるよね?」

 事故の前、彼女は黒猫を追って車を降りた。
 その一秒が、彼女だけの生死を変えた。本当に、それだけの差で。

「離れ離れになりたくないの」
 その声は、泣く直前みたいに細く震えていた。

「……お願い」

 触れたままの指先も震えている。
 離したら、全てが終わると信じ込んでいるように。

 僕は悟った。
 これは、僕が“選ばれた”ということだ。

 だから僕は、言葉の代わりに
 指を解かず、彼女の震える唇へそっと口づける。

「……もし、くっつくなら。僕は、このままがいい」

 その一言で、彼女の瞳が泣きそうに潤む。
 彼女が僕を救ってくれた過去を思えば、
 差し出せないものなんて、一つもない。

 ──彼女に出会う前から、僕はすでに壊れていた。

 迷いはない。嘘もない。
 それでも、僕はいつだって優しさの形を間違えてしまう。

 兄の秘密を守ると選んだ、あの夏の日から。
 僕の人生は、ゆっくりと狂い始めた。

 そして今。
 その延長線上に彼女がいるとしても。

 これは誤りじゃない。
 また、選んでしまったんだ。
 取り返しのつかない方を。

 救い方を間違えたのは、ここが最初じゃない。
 すべては──救急外来のよじれた光の中から始まる。

 あの光は、僕の最初の誤ちを、ただ静かに照らしていた。