仮装のデート

 「わたし、なんと!彼氏という存在ができました!」
 教室内に響き渡ることに大きくこだました咲凪さんの宣言を私は他人事のように聞き流した。実際に他人事なのでなんだと言う話ではあるけどね。

高校生という肩書きはたった三年しかない。平等に三年。
 私は早く三年経たないかなと日々を平坦に生きていた。
「ねー、実里ちゃん!私ね彼氏できたんだよー」
 意識を脳内に映したために突然声をかけられてびっくりした。
「わぁ!びっくりした、咲凪さん。自分ておっきい声で言ってたでしょ知ってるわよ」
「なにさー!羨ましいの!?」
「全然羨ましくもなんともないわよ」
「意地っ張りさんだこと」
「咲凪さんが変なこと言うからでしょ」
「変なの私?」
「いいえ、ちょっと言いすぎたわねごめんなさい」
「いいのいいの私もちょっといじわるになっちゃったから」
「じゃ!私は朝の読書の用意とかするからまたね」
「ええ、また」
 心の中で少し息を吐いた。
 あんなに元気な咲凪さんをみるのはいつぶりだろうか。
 咲凪さんが元気だと少し疲れちゃうけれど悪い気はしない。
彼氏ができたら人は変わるんだろうか。彼氏に限らず、恋人という存在は人を変えるのか。
 私にはまだよくわからない。高校生にもなって恋愛というものを経験していない。私は私の世界を生きることに精一杯で他人に時間を使える気がしない。
 羨ましい、か。確かに羨ましいと思うかもしれない。自分の時間を誰かのために使えてしまうあなたのことを。
やっぱり、私には恋愛なんて向いてないのかもしれないわね。

 なんやかんやあって放課後――

「さぁ、実里ちゃん!聞いてくださいよカレシの話を!」
「いやだ」
「なんでよー」
「私には関係ないからよ」
「違うよ、実里ちゃん」
「何よ、真剣な顔して」
「恋は巡ってこないの、勝手にこんにちはって来てくれないのよ」
だいだいの光が射した教室に静かに確かに響いた。
教室に残っていた数人の視線を集めた咲凪さんは私から目を逸らすことなく真剣な顔で言いきった。
「じゃ、また明日ね。明日また聞いてよね」
「え、えぇ。分かったわ」
 また私は余計なことを言ってしまった。

 恋なんて、愛なんて。いつかなくなる。そうして思い続けてきた。
 私は元々そんな考えなんてしなかったけれど、いろんな人の別れ話や愚痴を聞いた結果こんなに曲がってしまったみたい。
ふと気づいたら下駄箱についていたみたいだ。無意識歩行怖いな。
「え、えっと。実里さん」
「は、はえ?私?」
「そうそうあなた」
「なにか用?」
「あの、断られること前提でハロウィンの日に仮装しておでかけしませんか!」
「え、ちょっと待ってね。あなた名乗ってみて」
「あ、はい。橘と申します。」
「フルネーム言いなさいよ」
「あ、えっと橘みなとです。」
「で、一年生の橘くんが二年生の私にデートのお誘い?」
「一度お話ししてみたいと思っていたんです」
「理由はそれだけ?」
「あ、あと可愛いなって」
 目の前の彼、橘くんは耳まで赤くして照れてる。
 悪くない。ハロウィンの悪戯にちょっと乗っかってやろうかしら。
 咲凪さんのお話しをただ聞いてもなんだからこっちもなにか用意しなければいけないだろうし。
「いいよ。そのデートに行ってもいいよ」
「え!いいんですか!?」
「なんでそんなに驚くの」
「だって断られるものかと」
「じゃあ行かないよ?いいのかな?」
「行きましょう!さあ連絡先交換しましょう!」
「じゃあ明日交換しよう」
「なんでですか!?」
「楽しみはとっておこう、じゃさよなら」