僕の声に恋した君に─ can you hear me?─

「水野せんぱーい」

教室の扉から放送部の一年男子がひょっこり顔を出す。
「ちょっと……」と手招きをされて、教室から廊下に誘い出された。
運動部なら、1年が2年に手招きなんかしたら怒られるのかな?俺はこのゆるい空気の放送部が好きだったりする。


で、……なんで藤井までついてくるのかわからないんだけど。

後輩は俺の横にピッタリとくっついている藤井をちらちら気にしながら、隣にいるツインテールの可愛らしい女の子に話しかける。

「これが水野先輩。どう?
……先輩、こいつ先輩の声が好きで、どんな顔か見せろってうるさくて」

「あ、あ、あの。素敵な声で……実物も想像通りというか……」

真っ赤な顔でそう言われて、胸が少し浮いた。

「ありがと。嬉しい」

なんてデレデレしていたら、すっとその場を離れた藤井がガシャンと音を立てて教室に戻っていった。

「あの先輩……お友だちですか? わたし、何か怒らせるようなこと──」
「眠いだけだから、気にしなくていいよ」
なんなんだあいつ。

……まぁいいや。
放送を聞いてるのが藤井だけじゃないと知って、気持ちは浮いていた。

しばらく一年と話してから席に戻る。

「俺の声が好きなんだって」

「よかったな」

「放送やる気出るー。
一年ってなんか可愛いよな。今からでも入部できますか?だって」

そんな話を続けていたら、

「うるさい。声、聞きたくない」

静かにそう言って、藤井は出ていってしまった。

……俺がモテて悔しかっただけだろ。
そういうことにして、ノートを開いた。
いや、そういうことにしないと息苦しくて耐えられなくなりそうだからそう思うことにした。

次の授業には、藤井は何事もなかったみたいに教室へ戻ってきた。
そういえば、さっきみたいに乱暴な扉の閉め方をする奴じゃない。
理由はわからないけど、やっぱり怒らせてしまったのかもしれない。

声をかける隙もないまま昼休みになる。
机に伏せた藤井に小さく声をかけたけど、耳に刺さるイヤホンを見ると、聞こえていなかった気がした。
「先に行くね」

───
昼休み、結局藤井は来なかった。
誰もいない静かな教室。
普段は気にならない埃臭さが鼻につく。

「声、聞きたくない…か」

そういえば…藤井には、声以外を褒められたことないな。

その声が聞きたくないってことは…もう

スマホを取り出して、現実逃避。
夜のラジオでおすすめの曲を募集していたのを思い出してコメント欄を開いてみる。

何となく、コメントの向こう側の顔が浮かびそうなコメント欄で口角が緩む。

ナナシノさん。
この人もよくコメントをくれる。
『T.candleというピアノの配信者のこの曲はどうですか?』

貼られたURLを開く。

キャンドルの炎が揺れる映像に乗った、
とても静かで、綺麗な曲。

今のソワソワした得体の知れない感情を
包んでくれるみたいに、温かい。

なのに。
藤井といるみたいだ、と思ってしまった瞬間、
教室の酸素が少し減ったような重だるさに沈んでいった。