僕の声に恋した君に─ can you hear me?─

───
「おはよー藤井」
「おはよ、今日パンと弁当交換する?」

最近はこんな会話が毎朝、続いている。

「最近、藤井と水野仲良いな」
「誰とでも仲のいい水野はともかく…藤井は雰囲気変わったよな」

クラスメイトのそんな声が聞こえてきて、笑うのをやめたのも見逃してもらえない。

「色々言われるのが嫌なら俺に声掛けなければいいじゃん」
何でもないような声でそんなこと言う藤井は、何にもわかってないんだと思う。

「…俺はいいけど、藤井はいいの?キャラ崩壊して残念とか言われてるんだよ?」

深刻さを伝えるためにわざと眉間に皺を寄せてみだけど、鼻で笑って
「何、俺のキャラって」
と聞いてくる。
「クールな一匹狼?」 
俺から見た第一印象もその通りだったけど、本人には全く自覚がないらしい。
「俺が?」 
「そう見えてるんだって!」
「そんなことないだろ」
と、ずっと繰り返しても認めない。


「俺も初めはそう思ってたよ」
と白状して、これで伝わっただろ、と顔を覗き込んで反応を見る。


「…いまは?」

目が合ったまま、静かにそう聞いてくる。
何でだか自分でもわからないけど、藤井の目に見られると、取り繕ってその場の最適解を答えるという得意技が使えなくなって素直にさせられてしまう。

「…優しくて居心地がいい、かな」

言ってしまってから、気恥ずかしくなって
「ほら、あのさ、あれ!パン買って来てくれるし」
と付け足して、目を逸らすだけでは足りなくて、そのまま藤井の机におでこをつけた。

「俺も居心地がいいと思ってるよ」

頭上からなんだが普段より柔らかい声が降って来た。


───
「いとー、ふじい。おはよー。」
春が終わろうとする頃には、クラス全体の雰囲気が固まって来る。藤井以外にも仲の良い友だちが出来た。
俺が藤井にパシリにされていると勘違いして直談判しにいってくれた光と、俺と好きな漫画家が完全一致して、藤井とファッションの話が合う恭助。

2人とも彼女と過ごすから昼は教室にいない。
自然と、俺と藤井は毎日2人で空き教室に行くようになった。

家のこと、弓道のこと、色んなことを、うんうんと、途中で遮らずに聞いてくれたのは藤井が初めてだった。

藤井が日常になって。藤井のいない昼休みが思い出せなくなりそう。
今はそんな事、考えるのをやめておこう。