僕の声に恋した君に─ can you hear me?─

「ほらこれ」
朝1番に俺の机に放り投げられたクリームパン…じゃない、プリンパン。

「ありがとう!いくら?」

と財布を出そうとしたら
「今度ジュースでも奢って。」と静かに断られた。

「どんな味?」
「プリン」
「プリン好きなの?」
「…悪いかよ」
「悪いなんて言ってないじゃん。」

そんなたわいもない会話ができる時間がとても楽しく感じる。

早く食べたい。どんな味なのか気になる。
いや…違うかも。どんな味だったか藤井に話したいのかも。

「ねぇ、今日藤井の昼ごはんもプリンパン?それなら一緒に食べようよ」

「…別にいいけど。お前、いつも他の奴らと食ってるけどいいのかよ」

「別に大丈夫だろ。今日は藤井と食う!」

藤井のため息が聞こえた気がした。ちょっと強引だったかな。1人で食べたかったのかも。

でも、そんなこと気にならないくらい、昼ごはんが楽しみ。
今まで、誰かと食べる昼ごはんなんて面倒だと思っていたのにな。

「いとー!飯食おっ」
と寄ってくる人たちに、
「今日は話があるから、藤井と食う」
と伝えたら、オッケーと興味なさそうに去っていった。
俺とクラスメイトの関係なんてまだそんな感じ。

「こっち」
藤井がどこへ向かうのかわからないまま一緒に教室から出た。

到着したのは今は使われていない空き教室。
一応、机や椅子はあるけど半分物置きのようになっている。

「ここ鍵、空いてるんだ…誰にも言うなよ」

カーテンと窓を開けてた藤井は、窓際の日当たりの良い席に俺を座らせてから、その前の席の椅子をひっくり返して向き合うように座った。

スピーカーからは、後輩の声が聞こえて来た。

「よく聞こえるね」
「だろ?だから火曜はここで食ってる」

俺の知る限り、藤井はいつも教室で昼休みを過ごしていたはずなんだけどな。

「俺の…声聞くために?」

そんなはずない、と思って反応を見ながら聞いてみたけど

「そう。火曜だけここで昼寝してる」

と、なぜかとても静かに穏やかな声で答えるから、胸の奥がそわそわと落ち着かなくなる。

「…さて!プリンパンありがと。初めて食べる!」

色んな気持ちを振り払うように、明るく元気にパンに齧り付いた。

「うまっっ」

中のプリン味のクリームをじっと確認してから、もうひとくち。

「幸せな味!癒されるー」

と、藤井の顔を見れば頬杖をついて、ひどく優しい笑みを浮かべながら俺の顔を見ていて、目が合った後に身体が固まってしまった。

なんで、そんなに優しい顔してるの?

「そんなに旨そうに食ってくれるなら買って来た甲斐あるわ。」

「今度自分でも買いに行く。どこのパン屋?」

「俺んちの近く。秋崎駅の東口─」

駅の名前や、その後の説明についていけない俺に気付いたのだろう、一度説明をやめてくれる藤井の気遣いに心が解けていく。

「高校入る前は隣の県に住んでて、この辺土地勘ないんだ」
みんなみたいに、根掘り葉掘り聞いてくるんだろうか。

次の反応を息を呑んで待つ。

拍子抜けするくらいなんでもないことのように「ふーん」とだけ言ってパン屋への道のりをさっきより丁寧に説明してくれただけだった。

「まぁいつでも買って来てやるけど」


葉桜の影がちらつく温かい日差しと柔らかくカーテンを揺らす風のせいかな?
なんだかとても居心地が良くて、チャイムが鳴らなければいいのに、なんて思ってしまった。

「いつもこれ食ってるよな」
と呟いてしまってから、なんだかとても恥ずかしいことを言ったような気がして
「見間違えかも!」早口で無駄に付け足す、

「よく見てるね」

「う、後ろの席だから見えるだけ!」

「ふーん、まぁいいけど。おかげで校内放送でファンサ貰えたし」
と、自分の食べかけのプリンパンを軽く振る。
「ファンサ?!」

「俺の水野の声のファンだもん。まじで好きな声」

そうやって、穏やかな顔をしながらからかってくる。

ファンだとか、好きだとか、そんなこと言われるのは初めてだから、そんな事ばかり言われたら…勘違いしそうになっちゃうんだよ。