僕の声に恋した君に─ can you hear me?─



「どうも、yarnです。最近は──」

そこで言葉を切って、録音を止める。
ベッドの上で転がったまま、灯夜がこっちを見ていた。

人差し指を立てると、素直に口を閉じる。
そのまま目だけで笑うから、また録音を再開した。

灯夜は、あの店で弾くピアノも、T.candleも、いつの間にか少し名前が知られるようになっている。
常連の女性と談笑する灯夜を遠巻きに見ながら紅茶とケーキを運ぶ。

「……」

頬が勝手に膨らむのを見て

「アルバイト中でしょ、顔に出てるわよ、弦音くん」
こちらも常連の近所の保育園の園長先生が、可笑しそうに笑う。
そのテーブルの横にしゃがみ込んで、俺は声を落とした。

「ねぇ、園長先生。土曜日のおはなし会なんですけど…」

少し間があって、

「面白そう!」

即答だった。






「イトおにいさん、今日は友だち……ううん」

一拍置いて、言い直す。

「大切な人を連れてきました。みんな楽しんでくれるといいな」


ページをめくる音に、音が重なる。
魔法の呪文に、小さなきらめき。
魔女が出てくると、低く沈む音。

声と音が、同じ場所に集まっていく。

終わった瞬間、静止していた子どもたちが一斉に動いた。
拍手と、笑い声と、コーフンした話し声。

その隙に、隣を見る。

灯夜は、何も言わずに鍵盤から手を離して、満足そうに息を吐いた。

──それだけで、十分。





「眠れない夜に寄り添えます様に。それではみなさんおやすみなさい…」

録音を切って、灯夜の横に潜り込む。

シワのついた進路調査の紙を差し出した。

薄く残る「とーやと一緒…」という文字を、灯夜は指でなでた。
灯夜の見ている前で、消えないペンを持つ。
「アナウンサーになりたい。言葉について学べる学部に行きたい」
ゆっくり丁寧にそう書くと何も言わずに抱きしめられた。



灯夜の腕の中なら、好きなものを好きって言ってもいい気がする。
「…………」
「…………」
2人にしか聞こえない言葉を囁き合って。その声を聞きながら眠りについた。