音声ドラマが終わって、教室のざわめきも少しずつ元に戻った。
昼休み、俺の机に集まっていた女子たちは、いつの間にかいなくなった。
名前を呼ばれる回数も、視線も、前と同じ。
チャイムが鳴って、ノートを開いて、放課後になる。
何事もなかったみたいに、一日が過ぎていく。
静かすぎるくらい。
あの日、絡めた指の感触だけが、まだ残っている気がするのに。
次に触れる理由は、どこにもなかった。
何にも変わらない毎日が、今日も続いていく。
それなのに光や恭助と仲良く戯れている時、後輩の女の子が頼み事をしにクラスに顔を出した時……毎日の端々に、灯夜の視線がヒヤリと刺さる時がある。
「明日は昼の放送だな。やっぱり弦音の声は落ち着く」
「今はもう灯夜くらいしか楽しみに聞いてないけどな」
「それでいいじゃん」
それでいい、なんてどんな気持ちで言ってるんだろ。
俺の気もしらないで。
帰り道、偶然のせいにして指に触れようとしたけど、ひらりとかわされて以来リュックの肩紐から手を離せない日々が続いている。
急遽、放送を後輩に代わってもらった。
今日なら…灯夜と2人きりになれるから
ガラッと空き教室に入れば、やっぱり灯夜がそこにいて、俺の姿を見て一瞬目を見開いた。
「放送は?」
「サボった」
「…なんで」
「一緒に…2人で…ごはん食べたくて」
「そっか」
へらっと笑う顔の意味は何?
「にんじんグラッセ食べる?」
「やったー」
なんの抵抗もなく俺の箸から手料理を頬張る癖に。
触れようとする手は、話題を変えるように自然にかわされてしまう。
「こんな時間がずっと続けばいいな」
窓の外を見ながらぼそっと呟く灯夜に、腹が立つ。
気が付いたら、隣の席にかけていたブレザーをバサっと灯夜の頭にかけて視界を奪ってやった。
「…こんな時間いらない」
「…え?」
「…俺の声が聞きたい?」
ブレザーの中でこくりと縦に首が動いたのを見てため息が出る。
「声だけでいいから…好きになって」
灯夜がジャケットを払いのけないように腕を掴んで
震える声を閉じ込めるように
ジャケット越しにキスをした。
遠くで後輩が昼の放送を終える挨拶が聞こえた。
サラッと床に落とされたブレザーを目で追う。
そのままずっとブレザーを見ていると、両手首を掴まれて手のひらを灯夜の両耳に誘導された。
何をされているのかわからず視線を合わせたら、温かくとても柔らかい声が落ちて来た。
「声が…聞こえなくても弦音が…好き」
手首を掴む灯夜の手のひらは汗ばんで、微かに震えている気がする。
「…とーやなんか…だいきらい」
「え?」
溢れてくる涙が真っ赤な顔の灯夜の顔を揺らす。
「ずっと…避けてたくせに」
「触れたら…もう誰にも弦音を渡したくなくなりそうで」
そんな声の後。身体がぐらんと揺れて灯夜の腕の中に招かれた。
すぽっと収まるとどちらの心音かわからない音が響いて心地よい。
ワイシャツの柔軟剤の香りを思い切り吸い込んで
「渡さないでよ」
と縋ってしまうほどに俺は必死なのに。
「キス…していい?」
「聞くなよ…ばーか」
この期に及んで、弱気な灯夜を誰にも渡したくないのは俺の方。
背中のシャツを掴む指にギュと力を入れて顎を上げて目を閉じた。
近すぎる距離で、息の音だけが重なって
俺たちの境界線がぼやけていった。
昼休み、俺の机に集まっていた女子たちは、いつの間にかいなくなった。
名前を呼ばれる回数も、視線も、前と同じ。
チャイムが鳴って、ノートを開いて、放課後になる。
何事もなかったみたいに、一日が過ぎていく。
静かすぎるくらい。
あの日、絡めた指の感触だけが、まだ残っている気がするのに。
次に触れる理由は、どこにもなかった。
何にも変わらない毎日が、今日も続いていく。
それなのに光や恭助と仲良く戯れている時、後輩の女の子が頼み事をしにクラスに顔を出した時……毎日の端々に、灯夜の視線がヒヤリと刺さる時がある。
「明日は昼の放送だな。やっぱり弦音の声は落ち着く」
「今はもう灯夜くらいしか楽しみに聞いてないけどな」
「それでいいじゃん」
それでいい、なんてどんな気持ちで言ってるんだろ。
俺の気もしらないで。
帰り道、偶然のせいにして指に触れようとしたけど、ひらりとかわされて以来リュックの肩紐から手を離せない日々が続いている。
急遽、放送を後輩に代わってもらった。
今日なら…灯夜と2人きりになれるから
ガラッと空き教室に入れば、やっぱり灯夜がそこにいて、俺の姿を見て一瞬目を見開いた。
「放送は?」
「サボった」
「…なんで」
「一緒に…2人で…ごはん食べたくて」
「そっか」
へらっと笑う顔の意味は何?
「にんじんグラッセ食べる?」
「やったー」
なんの抵抗もなく俺の箸から手料理を頬張る癖に。
触れようとする手は、話題を変えるように自然にかわされてしまう。
「こんな時間がずっと続けばいいな」
窓の外を見ながらぼそっと呟く灯夜に、腹が立つ。
気が付いたら、隣の席にかけていたブレザーをバサっと灯夜の頭にかけて視界を奪ってやった。
「…こんな時間いらない」
「…え?」
「…俺の声が聞きたい?」
ブレザーの中でこくりと縦に首が動いたのを見てため息が出る。
「声だけでいいから…好きになって」
灯夜がジャケットを払いのけないように腕を掴んで
震える声を閉じ込めるように
ジャケット越しにキスをした。
遠くで後輩が昼の放送を終える挨拶が聞こえた。
サラッと床に落とされたブレザーを目で追う。
そのままずっとブレザーを見ていると、両手首を掴まれて手のひらを灯夜の両耳に誘導された。
何をされているのかわからず視線を合わせたら、温かくとても柔らかい声が落ちて来た。
「声が…聞こえなくても弦音が…好き」
手首を掴む灯夜の手のひらは汗ばんで、微かに震えている気がする。
「…とーやなんか…だいきらい」
「え?」
溢れてくる涙が真っ赤な顔の灯夜の顔を揺らす。
「ずっと…避けてたくせに」
「触れたら…もう誰にも弦音を渡したくなくなりそうで」
そんな声の後。身体がぐらんと揺れて灯夜の腕の中に招かれた。
すぽっと収まるとどちらの心音かわからない音が響いて心地よい。
ワイシャツの柔軟剤の香りを思い切り吸い込んで
「渡さないでよ」
と縋ってしまうほどに俺は必死なのに。
「キス…していい?」
「聞くなよ…ばーか」
この期に及んで、弱気な灯夜を誰にも渡したくないのは俺の方。
背中のシャツを掴む指にギュと力を入れて顎を上げて目を閉じた。
近すぎる距離で、息の音だけが重なって
俺たちの境界線がぼやけていった。
