僕の声に恋した君に─ can you hear me?─

昼休みが憂鬱すぎる。
教室に居れば注目を浴びそうだったので恭助にこっそり「教室にいたくないから1人で飯食ってくる」と言って教室を出た。


久しぶりに旧教室の扉を開けば先客がいた。なんとなく居るような気もしていたけど。
「とーや?…一緒に…食べていい」
「…うん」
来ちゃいけなかったような気がして居た堪れない。沈黙に息が詰まって吐き出すように、音声ドラマが始まったことを呟いた。
「あ、はじまった。」
「……」
灯夜は目も合わせてくれなくて、透明人間になった気分。

「ねぇ、どう?」
「どうって?」
「ドラマ…」
「…あんまりよく聞いてない」
「そうなんだ」

今、教室に響いている俺の声も聞いていないなんて。
もう灯夜には俺の声は届かなくなってしまったかと思うとうっすらと涙が瞳を覆い出す。


──好きです
─私も…

俺と後輩の渾身の演技が流れてから、数呼吸おいて不機嫌そうな灯夜は話し出す。

「チヤホヤされてる気分はどう?」
「何その棘のある言い方」

同じようなトーンで言い返せた。
でも、これ以上ここにいたら目に溜まった涙がポロリと落ちて歯止めが効かなくなりそう。
そう思ったらもうここから逃げるしかなくて、勢いよく立って「もういい」と言い放って扉へ向かった。

教室を出ようと扉に手をかけた時

追いついた灯夜にバックハグされて扉から指を離すように手を誘導された。



「…好きな人が誰かに好きだと言ってる声聞いて穏やかにいられると思う?」

振り絞るようなか細い声が、耳の真横で聞こえる。
「…………え?」
今なんて言った?
理解が追いつかない

「俺の気持ち気付いてて、そう言うこと言ってるの?」

何も返せなくなるほど心の底から苦しそうな声だった。


「………」



「この部屋に閉じ込めて、誰にも弦音の声を聞かせたくない」
そう言ってと教室の鍵を力なく撫でる指から目が離せない。

微かに震えるその指にとうとうポロリと目に溜まっていた涙が落ちて2滴、床に落ちた。

「…じゃあ閉じ込めてくれたらいいのに」
灯夜の指に自分の指を絡めてその手でガチャリと簡易的なその鍵を回して、鍵をかけた。


「は?」

困惑しているのか、それしか言わずに固まっているから、くるりと灯夜の腕の中で180度回転して灯夜と向き合う。


「誰のこと思って言ったセリフだと思ってるの…バカ」 


はじめは目を見て伝えていたけど…途中から涙で濡れた顔を見られたくなくて、ポスっと灯夜の胸に顔を隠しながら「バカ」と伝えてやった。

短いようで長い時間、胸に顔を埋めて無言で過ごした。

「…教室戻んなきゃ」
時計をチラッと見ながら現実を突きつけるから、
「だめ。もうここに閉じ込められちゃったもん」
するりと腕の中から出て教室の奥。窓際まで逃げる。
「なんなんだよ」
と、頭を抱えてしゃがみ込んでからすくっと立ち上がって俺の隣に並んで窓の外を眺める。

音声ドラマは今日のクライマックス

普段より小生意気な自分の声が教室に響く。

──僕のこと好きならキスして

チラッと灯夜の顔色を伺うと
「これも俺のこと思って言ってるの?」
と、目を見て聞いてくる。
「しらんっ」
と顔を逸らしたけど…真っ赤になっている自分の声が窓に映って見たくない。
「あーもう。諦めきれなくなるじゃん」
と何かを吹っ切るように言う声にイラッとして振り向いて胸ぐらを掴む。
なんなのこの分からず屋。
「だから!諦めなくていいって言ってるじゃん。………俺のこと好きなら……キ……」
ドラマのセリフをなぞってた口を手で塞がれる。

「こんな流れに任せて、したくない…」
と抱き寄せられて今はこれで満足と笑いながら囁かれる。
「さっ、教室帰ろ」
勝手に満足して歩き出す後ろについていくしかない。
絡められた指と指にちゃんと意味があればいいのにな。