僕の声に恋した君に─ can you hear me?─

あれから、季節だけが先に進んだ。
夏休みは、四人で出かけたり、二人で並んで歩いたり、何事もなかったみたいに過ぎていった。

ただ、あの観覧車の後から、灯夜は一度も俺の声を褒めてくれなくなっただけ。

声を褒められないってことは、俺自身にも興味が無くなってきているのかもしれない。

席替えして、俺の後ろの席は灯夜じゃなくなった。隣には恭助。光と恭助になかなか彼女が出来ないから、昼休みは4人でいる。

放送室から帰ってくると3人で楽しそうに話している灯夜が教室にいてチクっと胸が痛くなる。

灯夜はプリンパンにも飽きたみたいで、最近はチョココロネばかり食べている。
可哀想なプリンパン。プリンパンに共感する日が来るとは思わなかった。

「ただいまー」と、3人の輪の中に自然に入る。光の差し出すポテチを「ありがと」とつまんで、なんでもないことで笑う。

「水野くん…ちょっと」

日常を破ったのは普段あまり話したことのないクラスの女子。手招きされて、とりあえずついて行く。

2人はニヤついてこっちをみている。灯夜の顔はわからない…。


「え?音声ドラマ?昼の放送で?」
文芸部で書いた音声ドラマを昼の放送で流してほしいそうで、その依頼だった。
「誰が読むの?」
「演劇部に頼んだんだけど文化祭前で忙しいって……放送部の人でどうにかならないかな。文芸部、男子居なくて…あと人前で話すの苦手な子多くて…」
両手を合わせて拝むように「お願いっ」と言ってくる女の子を無碍には出来ないよなぁと考えながら
「わかった。部長に聞いてみるよ」
と台本を受け取った。

パラパラとめくって内容を読めば「好きだよ」だとか「愛してる」だとかくすぐったい言葉が散らばっていた。
こんなセリフを放送したら…流石に褒めてくれるかな、と灯夜の笑顔が頭に浮かんだ。

先輩は二つ返事でオッケーをくれた。
文芸部と放送部の合同ミーティングの結果、主役は俺、ヒロインはいつかのツインテール1年生に決定した。
放送原稿を読むのは慣れているけれど、セリフを言うのには慣れていない。
何度も練習しても、棒読みになってしまう。

「俺のこと…好きになって」


あー、むり。恥ずかしい。引き受けなければよかった。



文芸部は、文化祭でこのシナリオを売るようで、めっちゃ期待されていて胃が痛い。
大コケしたら俺のせい…かも



文芸部の立ち合いの元、録音を終えて任務完了。あとは来週の昼の放送で流すだけ。

灯夜は、ちゃんと聞いてくれるかな?褒めてくれるかな?