僕の声に恋した君に─ can you hear me?─

友だちと遊園地にいくなんて初めてで
「楽しみすぎて寝れない」
と、深夜3時にグループメッセージをしたら恭助から
「絶対遅刻するやつじゃん」
と返事が来た。
「恭助だって起きてるじゃん」
「俺は…もう目覚めた」
「絶対二度寝して遅刻するやつじゃん」
なんてメッセージし合う。

最終的に恭助が俺に8時に電話して起こしてくれることになった。
8時に電話がなければ、俺が恭助を起こす。
まぁ最悪、このやりとりを見た2人が起こしてくれるだろう、なんて打算。
そんなやりとりをしながら寝落ちしていた。

電話が鳴って寝ぼけた頭で出る。
「んー、きょーすけ?おはよー」
「ごめん、俺灯夜。早く起きたから電話した」
「とーやぁ。ありがと───」

「おい寝るな。……そんな可愛い声、恭助に聞かせるつもりだったん?」

「…なんの話ぃ─」
「なんでもない、身体起こして。…目覚めた?恭助にも俺から電話しておく」
身体を起こすように言われてやっと目が覚める。
会話のほとんどの記憶が無いけど、なんだか灯夜の声が温かかった事は覚えていて耳がくすぐったい。

恭助のことも、あんなに優しく起こすのかな。…やっぱり恭助は俺が起こすと言えばよかったな。少し胸がチクリとする朝だった。



「いと!」
乗り換えのホームで光と合流した。
「楽しみー」「晴れてよかったな」なんて話をしていると、突然声のトーンを落とした光が
「あのさ……………」
「何?」
「灯夜と弦音って付き合ってるの?」

突然の質問の意図がわからない。変な汗が出てきた。


「は?」

かろうじて出てきたのはその一言だけ。

「付き合ってないけど………なんで?男同士だよ?」
「男同士とか、そういうのは今の時代、関係なくない?」
なんて言われて力が抜ける。
「そりゃそうだけど…付き合ってないよ」

「ふーん。まぁ俺は2人お似合いだと思うけどな。あー、でも付き合ってても弁当は一緒に食いたい」
にかっと笑う光には、きっと嘘がない。
「おれも、みんなでご飯食べたり遊んだりするの楽しいよ?」
「よかった!お互い恋人できたら報告し合おうな」
そう笑い合える友だちがいて、幸せだな。


光と入場ゲートの方に向かうと、恭助と灯夜はもう到着していた。

初めて見る私服の灯夜が、モデルみたいに見えて自分の無難なTシャツとデニム姿を隠したくなって、ちょっと猫背になる。
光の後ろに気持ち程度に隠れていると
「水色似合う」
と、言われて、それだけで浮かれてしまう自分が自分じゃないみたいで喉が渇いてくる。

制服と弓道着以外知らないできたから…これから、灯夜の隣に並んで恥ずかしくない服を買いたいな、と浮かんだ考えに……友だちとしてね、と自分に言い訳をつけて考えるのをやめた。

入場して、腕に巻かれたワンデイパスを眺める。
「なんか4人お揃いで嬉しいね」
「じゃあ写真撮っておこう」
4人のグーを突き合わせて輪にして写真を撮る。
これ待ち受けにしようかな、と画面を指で撫でてからスマホをポケットにしまった。

「まずは何乗る?」
「手始めにこれじゃない?」 
誰ともなくそんな話をして、1番怖くなさそうなジェットコースターへ向かう。並びながらグーパーをする。

「俺で悪かったな」
隣に座る光が揶揄うように肘で小突いてくる。
「だから違うって」
小声で返事をしたら、俺の耳元に顔を近付けて
「…バレバレだぞ」
と、次の回を待つ2人の方を目線で指す。
「え?」
「付き合ってるんだろ?ほら灯夜がすごい顔で俺を睨んでる」
「…本当に違うから。早く乗りたいだけだろ」
光はわざとらしくため息を吐きながら
「……鈍感かよ」
と、言った気がしたけどよく聞こえなかった。


次はこれに乗ろう、と頭を突き合わせて地図を覗き込む。これにしよう!とノリで来てしまった回転するコースターに怖気付く…多分俺以外もドキドキしたりワクワクしててるのかな、並びながらみんな普段より良く喋る。

「これイケる?」
「さっきのも怖かったのに」 
「だよな?」
「でもこれもまだ優しいやつなんだよな」

また、誰が言ったのかわからないくらい同じようなことを話す感じが、普段の学校みたいで楽しい。何も考えずに言葉を発してケラケラ笑い合えている、こんな居場所は失いたくないな、と思うと胸の中がふわっと柔らかくなる。

話の隙間に普段無口な恭助が穏やかに言い出した。
「水野って、特定の誰かと遊園地行ったりしないイメージだった」
どう言う意味がわからず、恭助の顔を見て聞き返す。
「どんなイメージ?」
「誰とでもそつなく接するけど、誰にも無関心って感じ」
それを聞いていた光が閃いたように明るく
「てか多分俺ら4人ともそんな感じなのかも。すげー居心地いい」
と言うからなんとなく納得して頷く。

「…特定の人たちと弁当食べる自分にびっくりしてる人ー」と続ける光に、手が4本上がり4人で爆笑する。

灯夜だけじゃない、光も恭助も大切な友だち。

今の空気を壊したくない。

どうしたらいいかわからないから、考えないフリで今を楽しむことにした。


回転コースターは、意外と怖くなくてホッとしたのも束の間…

「お化け屋敷だけはやだ」
とごねる俺に3人はニヤニヤしながら説得してくる。
「行きたい人ー」
「「はーい」」
何この団結力。嫌い。みんな嫌いっ。
「俺は待ってる」
と、背中を向けたら光に肩を組まれて輪に戻された。
「3人でガードしてやるからいこ」
と、恭助が穏やかに言う。穏やかに言えばいいってもんじゃない、悪魔め!
「やだ!俺一人暮らしたぞ」
頼みの綱の灯夜に、助けての視線を送る…返ってきた返事は
「夜中いつでも電話してきていいから、行くぞ」
という無慈悲なもの。
諦めてドボドボ待機列を歩く。
中に入ると、約束通りガードしてくれようとしている。
前に灯夜、左に恭助、右に光。
目を閉じたまま、灯夜の背中に抱きつきながら歩く。
突然のガシャーーーンという物音に心臓が動くのをやめそう。もう無理…

「とーやーーー!」「とーや!助けて。無理無理無理無理」
何度も叫んで、ぎゅっと背中にしがみつく。怖すぎて、抱きつく以外の選択肢なんてなかった。灯夜の背中だと意識する余裕すらなく、ただ必死に力を込める。

ぽちゃーん、ぽちゃーんと音がする道を進むと、そこは行き止まり。
「おれもむりかもー」
と、か弱い声の光に
「ひかるまで?」と呆れた灯夜の声が聞こえる。
「灯夜、俺も限界」恭助の心細そうな声もする。
最終的には、灯夜が団子のように固まった3人を引き連れて脱出成功。

太陽の光で現実世界に戻ったら、ぎゅっとしがみついている背中の広さに気付いて、さっきとは別の理由で心拍が上がる。

あと、1秒、あと一瞬だけ。

お化け屋敷の恐怖を引きずっているふりをして背中の広さを忘れないようにキュッと指先に力を入れた。

灯夜の背中を離れても、頬にその温かさが残っている気がする。
そんな気持ちを振り払うように「怖すぎた」としゃがみ込む光と、恭助に「ざまーみろ!」と軽口を叩いているうちに気持ちが落ち着いてくる。

落ち着いたらお腹がグーって鳴って、それにみんなで笑ってやっと恐怖から解放された。

昼飯食うか…と、時計を見たら12時を過ぎたばかり。
「どこも混んでそうだけど、暑いから外は嫌だよな」
と、二手に分かれて空いてるレストランを探すことにした。