「……」
おはよう、を言い忘れた……うそ。
昨日までどんな声でどんなふうにおはようって言っていたかわからなくなってしまって言えなかった。
静かに椅子に座った俺の背中をペンでつついて
「おはよ」
と言ってくるから振り返れずに
「おはよー」
と返して、机に伏せた。
ガタンと椅子が動く音がして、すぐ、前の席の椅子に灯夜が座ったのが、伏せた腕の隙間から見えた。
「具合悪い?」
と、こめかみに冷たい灯夜の指が触れた。
冷めたい指に喜んでしまう自分が憎い。
「大丈夫」
と伏せたまま答えた。
「顔あげて?」
そんなに優しい声をかけないでよ
顔なんかあげられるわけがない
触れられた部分から、熱が身体全体に広がっている。
「…俺、何かした?」
ひどく孤独を孕んだ声に、咄嗟に顔を上げながら違うと否定した。
目の前に不安そうな顔があって、その顔が
かっこよくて
可愛くて
「…何にもしてない」と呟いてまた伏せようとした。
両頬を掴まれてじっと顔を観察される。
何この拷問。
早く解放してよ。
「…顔真っ赤!目も潤んでる。熱あるんじゃない?」
頬を掴んでいた手は首元に動いて手の甲で俺の体温を測るそぶりをする。
「保健室行く?」
心底心配している声で聞いてこないでよ。
「行かない、ここで寝たい。」
と、触れている手が離れた隙にまた机に伏せた。
「なんかあったら言えよ?」
そう言った灯夜が後ろの席に戻ってホッとしながら淋しくなった。
席が反対なら、ずっとその背中を見ていられるのに。
次の休みまでに気持ちを整えないと。
心配して欲しいわけじゃない。
いつもみたいに楽しく隣にいたい。
蓋をしよう。
大丈夫、目が覚めたら彼はともだち。
ホームルームが始まって身体を起こして、授業が始まる前に後ろを振り返る。
「もう大丈夫。なんかちょっと寝たら回復した」
笑顔で自然に伝えたつもり。
じーっと観察されたあと
「それならいいけど。無理すんなよ」
と言われる。
たわいのない話をして授業を受ける。
ずっと、後ろに灯夜が居ると感じながら。
昼休憩、光と恭助が俺たちの机に集まってきて4人で食べるのが定番になってきた。
2人に彼女が出来るまでは、この過ごし方になりそう。
今の俺には…有難い。
有難い…………けど、ちょっと残念。
空き教室の、静けさと埃の匂いが恋しいな、とも思う。
灯夜も2人に、心を許しているはずなのに2人をあの居場所には案内しないことにも密かな優越感を感じる。
そんな風に思ってしまう自分はもしかしたら凄く性格が悪くなってしまったのかもしれない。
「遊園地楽しみだな」
「何着て行こー」
光と恭助が浮かれる。その横で笑いながら
「俺あれ食べたい、棒のドーナツみたいな」
「チュロス?…甘党め」
なんて普通に会話が出来ている。
モヤモヤする初めての気持ちを叫んで発散したい気分。
「…俺絶叫乗りたい」
俺の呟きに次々と声が畳み掛ける。
「おれも!」「俺も!」「いいねぇ、手あげよーぜ」
全員絶叫イケるとわかり4人ともテンションが上がる。
ただただ、友だちと行く遊園地が楽しみなだけ。
輪の中で、俺は普段より明るく笑えている気がしている。友だちとして普通に出来ている…かな
その日の帰り道。
「─でさ、光がさ。」
「わかるわかる」
そんなたわいのない会話をしながらいつものように2人で帰る。
「あ、そうだ。ちょっと自転車変わって?」
とハンドルを託された。
灯夜の自転車を俺が押しながら歩いていると、がさごそリュックの中に手を入れてコンビニパンの袋を出してきた。
手の中にはデカデカと書かれたプリンのイラスト。
「え?プリンパン?パクリ?」
「そう、朝見つけて思わず買ってみた」
絶対パクリではないだろう、見た目の全然違うプリンの乗ったパイのようなパンをパクリだ!とはしゃぎながら歩く。
歩きながら袋を開けたとーやがまだ齧られていないパンを俺の口元へ差し出す。
「いいよ、先食べなよ」
「いや、お毒味?」
「ひっでー」
「めっちゃ食ってやろ」
と大口を開けて噛みついた。
思いの外クリーミーだったプリンが口の端に付いて笑われる。
「食べ方下手すぎ」
「いや、これ無理だって」
そんなことを言いながら舌でクリームを探すがうまく取れない。
「もっと上、もっと遠く」
笑いながら指示してくるから
「お前が自転車持ってくれたら手で取れるんだけど」
と言えば
「やだね、おもしろいもん」
とイタズラっぽく言われて腹が立つ。
「いただきまーす」
と上手にパンを頬張って得意げな顔をするから突然、間接キスとか気にしているのが俺だけだと気がついて、笑えなくなってくる。
ハンドルから片手を離して口の端を指で拭う。
俺の訳のわからない気持ちも、クリームと一緒に拭えたらいいのに。
「ふじいくーん!このままお前の大事な自転車のハンドルをクリーム付きの手で握ってもいいんだぜ」
とイタズラ返し。
「やめろ、俺が悪かった!それだけは」
と乗ってくる灯夜とずっとこんな風に笑っていたい。
だから、お願い
手を握って阻止しようとしないで
「そんな手、こうしてやる」
なんて簡単に手を触ったりしないでよ。
俺の手は簡単に捕まえられて、パンについてきたおしぼりで、綺麗に拭かれて解放された。
「あんま美味しくないね」
「うん、いつものプリンパンがいかに美味しいかわかった」
そう笑い合って
「じゃあまた」「ばいばーい」
と、いつも通りに解散。
楽しいのに苦しい。
一緒にいるのに、逃げたい。
毎日、こんな思いをするなら
気づかなかった昨日に、戻りたかった。
おはよう、を言い忘れた……うそ。
昨日までどんな声でどんなふうにおはようって言っていたかわからなくなってしまって言えなかった。
静かに椅子に座った俺の背中をペンでつついて
「おはよ」
と言ってくるから振り返れずに
「おはよー」
と返して、机に伏せた。
ガタンと椅子が動く音がして、すぐ、前の席の椅子に灯夜が座ったのが、伏せた腕の隙間から見えた。
「具合悪い?」
と、こめかみに冷たい灯夜の指が触れた。
冷めたい指に喜んでしまう自分が憎い。
「大丈夫」
と伏せたまま答えた。
「顔あげて?」
そんなに優しい声をかけないでよ
顔なんかあげられるわけがない
触れられた部分から、熱が身体全体に広がっている。
「…俺、何かした?」
ひどく孤独を孕んだ声に、咄嗟に顔を上げながら違うと否定した。
目の前に不安そうな顔があって、その顔が
かっこよくて
可愛くて
「…何にもしてない」と呟いてまた伏せようとした。
両頬を掴まれてじっと顔を観察される。
何この拷問。
早く解放してよ。
「…顔真っ赤!目も潤んでる。熱あるんじゃない?」
頬を掴んでいた手は首元に動いて手の甲で俺の体温を測るそぶりをする。
「保健室行く?」
心底心配している声で聞いてこないでよ。
「行かない、ここで寝たい。」
と、触れている手が離れた隙にまた机に伏せた。
「なんかあったら言えよ?」
そう言った灯夜が後ろの席に戻ってホッとしながら淋しくなった。
席が反対なら、ずっとその背中を見ていられるのに。
次の休みまでに気持ちを整えないと。
心配して欲しいわけじゃない。
いつもみたいに楽しく隣にいたい。
蓋をしよう。
大丈夫、目が覚めたら彼はともだち。
ホームルームが始まって身体を起こして、授業が始まる前に後ろを振り返る。
「もう大丈夫。なんかちょっと寝たら回復した」
笑顔で自然に伝えたつもり。
じーっと観察されたあと
「それならいいけど。無理すんなよ」
と言われる。
たわいのない話をして授業を受ける。
ずっと、後ろに灯夜が居ると感じながら。
昼休憩、光と恭助が俺たちの机に集まってきて4人で食べるのが定番になってきた。
2人に彼女が出来るまでは、この過ごし方になりそう。
今の俺には…有難い。
有難い…………けど、ちょっと残念。
空き教室の、静けさと埃の匂いが恋しいな、とも思う。
灯夜も2人に、心を許しているはずなのに2人をあの居場所には案内しないことにも密かな優越感を感じる。
そんな風に思ってしまう自分はもしかしたら凄く性格が悪くなってしまったのかもしれない。
「遊園地楽しみだな」
「何着て行こー」
光と恭助が浮かれる。その横で笑いながら
「俺あれ食べたい、棒のドーナツみたいな」
「チュロス?…甘党め」
なんて普通に会話が出来ている。
モヤモヤする初めての気持ちを叫んで発散したい気分。
「…俺絶叫乗りたい」
俺の呟きに次々と声が畳み掛ける。
「おれも!」「俺も!」「いいねぇ、手あげよーぜ」
全員絶叫イケるとわかり4人ともテンションが上がる。
ただただ、友だちと行く遊園地が楽しみなだけ。
輪の中で、俺は普段より明るく笑えている気がしている。友だちとして普通に出来ている…かな
その日の帰り道。
「─でさ、光がさ。」
「わかるわかる」
そんなたわいのない会話をしながらいつものように2人で帰る。
「あ、そうだ。ちょっと自転車変わって?」
とハンドルを託された。
灯夜の自転車を俺が押しながら歩いていると、がさごそリュックの中に手を入れてコンビニパンの袋を出してきた。
手の中にはデカデカと書かれたプリンのイラスト。
「え?プリンパン?パクリ?」
「そう、朝見つけて思わず買ってみた」
絶対パクリではないだろう、見た目の全然違うプリンの乗ったパイのようなパンをパクリだ!とはしゃぎながら歩く。
歩きながら袋を開けたとーやがまだ齧られていないパンを俺の口元へ差し出す。
「いいよ、先食べなよ」
「いや、お毒味?」
「ひっでー」
「めっちゃ食ってやろ」
と大口を開けて噛みついた。
思いの外クリーミーだったプリンが口の端に付いて笑われる。
「食べ方下手すぎ」
「いや、これ無理だって」
そんなことを言いながら舌でクリームを探すがうまく取れない。
「もっと上、もっと遠く」
笑いながら指示してくるから
「お前が自転車持ってくれたら手で取れるんだけど」
と言えば
「やだね、おもしろいもん」
とイタズラっぽく言われて腹が立つ。
「いただきまーす」
と上手にパンを頬張って得意げな顔をするから突然、間接キスとか気にしているのが俺だけだと気がついて、笑えなくなってくる。
ハンドルから片手を離して口の端を指で拭う。
俺の訳のわからない気持ちも、クリームと一緒に拭えたらいいのに。
「ふじいくーん!このままお前の大事な自転車のハンドルをクリーム付きの手で握ってもいいんだぜ」
とイタズラ返し。
「やめろ、俺が悪かった!それだけは」
と乗ってくる灯夜とずっとこんな風に笑っていたい。
だから、お願い
手を握って阻止しようとしないで
「そんな手、こうしてやる」
なんて簡単に手を触ったりしないでよ。
俺の手は簡単に捕まえられて、パンについてきたおしぼりで、綺麗に拭かれて解放された。
「あんま美味しくないね」
「うん、いつものプリンパンがいかに美味しいかわかった」
そう笑い合って
「じゃあまた」「ばいばーい」
と、いつも通りに解散。
楽しいのに苦しい。
一緒にいるのに、逃げたい。
毎日、こんな思いをするなら
気づかなかった昨日に、戻りたかった。
