あと15分で教室に戻るのか。
昼ごはんなんて食べる気分じゃなくて、買ってきたゼリー飲料をペットボトルの水で無理やり押し込む。
静かだった階段を駆け上がる音がする。
誰か来た!咄嗟に隠れようとしてペットボトルを落としてしまった。
ボコ、ボコンと間抜けな音を立てて階段を転がり落ちるボトルを目で追っていたら、見慣れた上履きに当たって止まった。
覚悟して目線を上げて、予想通りの人物の登場に逃げ出したくなった。
立ち上がり、そのまま藤井の横を通り抜けて教室に戻ろうと
「待てって」
きつく掴まれた手首が痛くて振り払う。
「今日放送は?」
立ち止まる藤井を置いて、階段の下まで駆け降りる。5段の距離がちょうど良い。
「俺の声…聞きたくないなら話しかけないでよ」
床を見ながら呟いたら、背中越しに
「そういう意味で言ったわけじゃない」
と、焦ったような声が聞こえる。
トンっと階段を降りる音がしたから「来ないでよ」とだけ伝える。
動きを止めた気配を感じて胃が縮まる。
「俺が声を褒めた時はあんな風に喜んでなかったから…」
トン、トンっと階段を降りる音。
「俺が先に見つけたのに」
トンっ
とうとう真後ろまで来た藤井が、俺の肩に手を乗せるからその部分だけやけに熱い。
逃げれない、けど振り返ることもできないまま、藤井の声を聞く。
「水野は何も悪くないのに…嫌な思いさせてごめん」
「うん。もう藤井と話せなくなるのかと思ったら…俺。」
俺、に続く言葉が自分でもわからない。
無音の時間を割ったのは藤井の力の無い声。
「もっと水野の声が聞きたい…」
藤井に笑顔を向けたくなって振り返ろうとした瞬間、冷たい指先で頬を抑えられて
「こっち見ないで」
と縋るような声で言うから、すする鼻の音と震えている声には気付かない振りをしてあげよう。
藤井の呼吸の音が穏やかになったから話しかけてみた。
「振り向いていい?」
「まだダメ…あ、振り向くなって」
「…お腹空いた」
気を張っていた糸が切れたら、突然お腹が空いてきた。
吹き出してから「水野らしい」と笑う藤井は、一通り笑い終わると
「次の授業サボって、2人だけの昼休みする?」
とイタズラを企てる悪ガキの顔をしてる。
「授業サボるのなんて初めて。藤井くんといると不良になっちゃーう」
残りの階段を駆け降りて、2人でいつもの空き教室に向かった。
授業開始を知らせる音がする。
「お腹空いたー」
と、入っていった空き教室の黒板は綺麗になっていて、後ろをついてきた藤井を見上げると、ぽりぽり頭をかきながら
「あんなこと書かせてごめん」と目を泳がせる。普段は見えない様子に何だか気分が良い。
机に目をやると大量の菓子パンが山を作っていた。
「何これ?」
「…水野が好きそうだなって考えながら…ぼーっとして買ったらこうなってた…」
目を逸らして耳の淵を真っ赤にする姿に柔らかい優越感が沸いてきて心音がうるさい。
「プリンパンの限定味?…いちごプリン、バナナプリン、チョコプリン───」
心音と同じくらい弾んだ声を出した俺を嗜めながら座らせる。
「全部半分こしよ?仲直りのしるし!」
正面に座った藤井な顔に、顔を近づけて覗き込む。
藤井の黒い目に映った俺は満面の笑みを浮かべている。
いいアイデアが思いついたと言うのに何で急に固まるんだよ。
「嫌なら俺が全部食うけど…
俺が買ってきたんだぞ、って言うんだろ?」
と口を尖らせながら覗き込んだら
「…お前。わざとだろ?」
と大きな左手で自分の顔を隠してしまった。
「どういうこと?」
「しらん」
そんなやりとりをしながら、色々な味を半分こにして味わった。
全部のパンを食べる頃には、埃臭い部屋は甘いクリームの香りがして、午後の日差しと満腹で瞼が落ちてくる。
「眠い…」
「お腹空いた、の後は眠い?お子ちゃま…でも俺も眠いかも」
「「昨日寝てないし」」
重なる言葉にくすくすと笑い合ってひとつの机に収まるように頭をずらして机に伏せる。
窓の外を見る俺の後頭部と廊下側を見る藤井の後頭部が机の真ん中で触れ合ってザリっと鳴る。
少し頭をずらしたら、すぐにまた触れてくるから、逃げるのをやめた。
今、きっと2人の髪が柔らかく絡みあって混ざっている。
「ねぇ、俺の声聞いたら眠くなる?」
「…うん」
耳に届く寝息に口角が上がる。
甘い優越感が部屋中に充満している夢を見ながら俺も、記憶を手放した。
昼ごはんなんて食べる気分じゃなくて、買ってきたゼリー飲料をペットボトルの水で無理やり押し込む。
静かだった階段を駆け上がる音がする。
誰か来た!咄嗟に隠れようとしてペットボトルを落としてしまった。
ボコ、ボコンと間抜けな音を立てて階段を転がり落ちるボトルを目で追っていたら、見慣れた上履きに当たって止まった。
覚悟して目線を上げて、予想通りの人物の登場に逃げ出したくなった。
立ち上がり、そのまま藤井の横を通り抜けて教室に戻ろうと
「待てって」
きつく掴まれた手首が痛くて振り払う。
「今日放送は?」
立ち止まる藤井を置いて、階段の下まで駆け降りる。5段の距離がちょうど良い。
「俺の声…聞きたくないなら話しかけないでよ」
床を見ながら呟いたら、背中越しに
「そういう意味で言ったわけじゃない」
と、焦ったような声が聞こえる。
トンっと階段を降りる音がしたから「来ないでよ」とだけ伝える。
動きを止めた気配を感じて胃が縮まる。
「俺が声を褒めた時はあんな風に喜んでなかったから…」
トン、トンっと階段を降りる音。
「俺が先に見つけたのに」
トンっ
とうとう真後ろまで来た藤井が、俺の肩に手を乗せるからその部分だけやけに熱い。
逃げれない、けど振り返ることもできないまま、藤井の声を聞く。
「水野は何も悪くないのに…嫌な思いさせてごめん」
「うん。もう藤井と話せなくなるのかと思ったら…俺。」
俺、に続く言葉が自分でもわからない。
無音の時間を割ったのは藤井の力の無い声。
「もっと水野の声が聞きたい…」
藤井に笑顔を向けたくなって振り返ろうとした瞬間、冷たい指先で頬を抑えられて
「こっち見ないで」
と縋るような声で言うから、すする鼻の音と震えている声には気付かない振りをしてあげよう。
藤井の呼吸の音が穏やかになったから話しかけてみた。
「振り向いていい?」
「まだダメ…あ、振り向くなって」
「…お腹空いた」
気を張っていた糸が切れたら、突然お腹が空いてきた。
吹き出してから「水野らしい」と笑う藤井は、一通り笑い終わると
「次の授業サボって、2人だけの昼休みする?」
とイタズラを企てる悪ガキの顔をしてる。
「授業サボるのなんて初めて。藤井くんといると不良になっちゃーう」
残りの階段を駆け降りて、2人でいつもの空き教室に向かった。
授業開始を知らせる音がする。
「お腹空いたー」
と、入っていった空き教室の黒板は綺麗になっていて、後ろをついてきた藤井を見上げると、ぽりぽり頭をかきながら
「あんなこと書かせてごめん」と目を泳がせる。普段は見えない様子に何だか気分が良い。
机に目をやると大量の菓子パンが山を作っていた。
「何これ?」
「…水野が好きそうだなって考えながら…ぼーっとして買ったらこうなってた…」
目を逸らして耳の淵を真っ赤にする姿に柔らかい優越感が沸いてきて心音がうるさい。
「プリンパンの限定味?…いちごプリン、バナナプリン、チョコプリン───」
心音と同じくらい弾んだ声を出した俺を嗜めながら座らせる。
「全部半分こしよ?仲直りのしるし!」
正面に座った藤井な顔に、顔を近づけて覗き込む。
藤井の黒い目に映った俺は満面の笑みを浮かべている。
いいアイデアが思いついたと言うのに何で急に固まるんだよ。
「嫌なら俺が全部食うけど…
俺が買ってきたんだぞ、って言うんだろ?」
と口を尖らせながら覗き込んだら
「…お前。わざとだろ?」
と大きな左手で自分の顔を隠してしまった。
「どういうこと?」
「しらん」
そんなやりとりをしながら、色々な味を半分こにして味わった。
全部のパンを食べる頃には、埃臭い部屋は甘いクリームの香りがして、午後の日差しと満腹で瞼が落ちてくる。
「眠い…」
「お腹空いた、の後は眠い?お子ちゃま…でも俺も眠いかも」
「「昨日寝てないし」」
重なる言葉にくすくすと笑い合ってひとつの机に収まるように頭をずらして机に伏せる。
窓の外を見る俺の後頭部と廊下側を見る藤井の後頭部が机の真ん中で触れ合ってザリっと鳴る。
少し頭をずらしたら、すぐにまた触れてくるから、逃げるのをやめた。
今、きっと2人の髪が柔らかく絡みあって混ざっている。
「ねぇ、俺の声聞いたら眠くなる?」
「…うん」
耳に届く寝息に口角が上がる。
甘い優越感が部屋中に充満している夢を見ながら俺も、記憶を手放した。
