チャリティ会場の出入り口には、トーマス・アンダーソン捜査官が立っていた。
「異常は?」
「ないね」
トーマスは穏やかに応える。
「そちちはどう?」
「トラヴィスが異常だ」
ヒースは気味が悪いぐらいにニヤニヤと笑っている。
トーマスは、うん? と興味を持った。それはレバノン系アメリカ人の同僚が、何かすごく愉しいことを見つけた時の癖だと認識している。
「異常なのは、アルマーニのタキシードを着ているから?」
「いいや。タキシードは悪くはないさ。誰か知らない奴らの視線を感じるって腹を立てているんだ。くそったれって連発しているぜ」
トーマスはオリーブ色の目でぱちくりすると、ちらっと会場の奥の壁際に立っている捜査官を盗み見た。
「……それは、仕方がないね」
「だよな」
トラヴィスがこちらを気にしていないようだったので、さりげなくその様子も視界に入れながら、二人の特別捜査官は揃って並んで会場を見渡した。
「僕はトラヴィスが正装した姿を初めて見たんだけれど、あれほど魅力的な男性だったとは知らなかったよ」
トーマスはその時の驚きの余韻がまだ残っているのか、小さくため息を洩らす。
「同性なのに、ドキリとしたからね。信じられないよ。すごいマジックだ」
「俺もそう思う」
自分の身につける物にルールがあるおしゃれなヒースは、苦笑いがとまらない。
「まったく、大した化け様だ、イタリア系の男って奴は」
日頃の外見に無頓着な姿を見慣れている者には、今夜のトラヴィス・ヴェレッタ捜査官はまさに別人だった。髪は綺麗にセットされ、一流ブランドのアルマーニの黒いタキシードを着こなし、光沢のあるフェラガモの革靴を履いて、ブラックタイをしている。ドレスコード指定のこのパーティーでは、大体の男性陣の定番だったが、その中でトラヴィスは際立って目立っていた。つまり、この上なくセクシィな魅力に満ち溢れていたのである。
「ここにいる金持ち連中が、あいつに目を奪われているってだけなのに、俺を挑発してくるって言うんだ」
どっちが挑発しているんだと、ヒースはもう笑いが止まらない。
「僕も通路で警護にあたっていた時、とても綺麗な女性たちから、あそこのカーテンの側に立っているセクシーな男性は誰? って質問されたよ。五人も」
トーマスも感心したように頷く。
「すごい人気だね、トラヴィスは」
「一番すごいのは、そういう自分の魅力に全く気がついていないってことだな」
ヒースはありえないというように頭を振る。
「会場中の注目を浴びているのに、笑顔の代わりに、機関銃でもぶっ放すような恐ろしい空気を発散させているから、美しい女性たちも声をかけられないんだ」
馬鹿だなと真面目に唸る。
「羨ましい?」
「俺とあいつは種類が違う」
それより、とヒースは、トーマスへ軽く顎をしゃくる。
「この後も何も事件が起こらなかったら、たぶん俺たちは面白いドラマが見られる」
しゃくった方向には、ミュラー市長がいる。
「トラヴィスは気がついていないようだが、我らが市長は着飾ったエキストラが気になって仕方がないようだ」
「そうだね」
二人の捜査官は、周囲の人々と笑いながら語らっている市長が、ふとした時に、窓際のカーテンへ視線を飛ばしているのに気がづいていた。それも人目を盗むように、繰り返し。
「第一声は何だろう?」
トーマスは優しげな顔立ちに、愉快そうな笑みを貼りつけている。
「ホテルを出発する時は、ただ見惚れている様子だったけれど。きっと頭の中では、全力でトラヴィスを納得させる演説を練りあげているだろうね」
「俺だったら、こう言う。トラヴィス・ヴェレッタ捜査官。君はなんて素晴らしくセクシーなんだ。世界で唯一無二のエキストラだ……」
FBI捜査官たちは束の間の休息を、爆笑で締めくくった。
だが、事件は起こった。
「異常は?」
「ないね」
トーマスは穏やかに応える。
「そちちはどう?」
「トラヴィスが異常だ」
ヒースは気味が悪いぐらいにニヤニヤと笑っている。
トーマスは、うん? と興味を持った。それはレバノン系アメリカ人の同僚が、何かすごく愉しいことを見つけた時の癖だと認識している。
「異常なのは、アルマーニのタキシードを着ているから?」
「いいや。タキシードは悪くはないさ。誰か知らない奴らの視線を感じるって腹を立てているんだ。くそったれって連発しているぜ」
トーマスはオリーブ色の目でぱちくりすると、ちらっと会場の奥の壁際に立っている捜査官を盗み見た。
「……それは、仕方がないね」
「だよな」
トラヴィスがこちらを気にしていないようだったので、さりげなくその様子も視界に入れながら、二人の特別捜査官は揃って並んで会場を見渡した。
「僕はトラヴィスが正装した姿を初めて見たんだけれど、あれほど魅力的な男性だったとは知らなかったよ」
トーマスはその時の驚きの余韻がまだ残っているのか、小さくため息を洩らす。
「同性なのに、ドキリとしたからね。信じられないよ。すごいマジックだ」
「俺もそう思う」
自分の身につける物にルールがあるおしゃれなヒースは、苦笑いがとまらない。
「まったく、大した化け様だ、イタリア系の男って奴は」
日頃の外見に無頓着な姿を見慣れている者には、今夜のトラヴィス・ヴェレッタ捜査官はまさに別人だった。髪は綺麗にセットされ、一流ブランドのアルマーニの黒いタキシードを着こなし、光沢のあるフェラガモの革靴を履いて、ブラックタイをしている。ドレスコード指定のこのパーティーでは、大体の男性陣の定番だったが、その中でトラヴィスは際立って目立っていた。つまり、この上なくセクシィな魅力に満ち溢れていたのである。
「ここにいる金持ち連中が、あいつに目を奪われているってだけなのに、俺を挑発してくるって言うんだ」
どっちが挑発しているんだと、ヒースはもう笑いが止まらない。
「僕も通路で警護にあたっていた時、とても綺麗な女性たちから、あそこのカーテンの側に立っているセクシーな男性は誰? って質問されたよ。五人も」
トーマスも感心したように頷く。
「すごい人気だね、トラヴィスは」
「一番すごいのは、そういう自分の魅力に全く気がついていないってことだな」
ヒースはありえないというように頭を振る。
「会場中の注目を浴びているのに、笑顔の代わりに、機関銃でもぶっ放すような恐ろしい空気を発散させているから、美しい女性たちも声をかけられないんだ」
馬鹿だなと真面目に唸る。
「羨ましい?」
「俺とあいつは種類が違う」
それより、とヒースは、トーマスへ軽く顎をしゃくる。
「この後も何も事件が起こらなかったら、たぶん俺たちは面白いドラマが見られる」
しゃくった方向には、ミュラー市長がいる。
「トラヴィスは気がついていないようだが、我らが市長は着飾ったエキストラが気になって仕方がないようだ」
「そうだね」
二人の捜査官は、周囲の人々と笑いながら語らっている市長が、ふとした時に、窓際のカーテンへ視線を飛ばしているのに気がづいていた。それも人目を盗むように、繰り返し。
「第一声は何だろう?」
トーマスは優しげな顔立ちに、愉快そうな笑みを貼りつけている。
「ホテルを出発する時は、ただ見惚れている様子だったけれど。きっと頭の中では、全力でトラヴィスを納得させる演説を練りあげているだろうね」
「俺だったら、こう言う。トラヴィス・ヴェレッタ捜査官。君はなんて素晴らしくセクシーなんだ。世界で唯一無二のエキストラだ……」
FBI捜査官たちは束の間の休息を、爆笑で締めくくった。
だが、事件は起こった。



