メロい恋とエモいセリフ図鑑





■■■はじめに■■■



 このセリフの図鑑は、エモい言葉や、優しい言葉、
 センチメンタルな言葉を詰め合わせた図鑑です。

 メロい恋の一瞬や、恋のセリフなど、物語の一瞬を詰め合わせました。
 この物語の一瞬は、キラキラの一瞬を瞬間冷凍したものです。
 
 それでは、印象的なセリフを一緒に見ていきましょう!



 
☆セリフ図鑑の読み方☆


 ❣️恋する人 → 登場人物の名前とふたりの関係性をまとめています
 ❣️シーン → その一瞬がどんなシーンなのかをまとめています

 いろんな読み方ができます。読み方は自由です。
 ・最初から順番に読む
 ・目次から気になるセリフを見つけて、本文を読む
 ・スクロールして、止まった本文を読む
 
 ほとんどのセリフが公開している小説や、書籍に収録されている小説の一部分です。
 本文から気になったら、小説名を検索するとその物語を読むことができます。

 ※一部、未完成などを理由に非公開になっている作品もあります。




■■■目次■■■


「思い出ってさ、断片的だよね」「また思い出、たくさん作れたね」
「そう、デートしてみたいってこと」「久々に誰かの手をずっと繋いだ気がする」
「今日一日付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ」

❣️

「いいね。最高じゃん。好きになりそう」
「最後にひとつだけ、お願いあるんだけど」
「ずっと一緒にいよう」「そんな根拠、どこにあるの?」
「私と一緒にいて」

❣️

「ずっと応援してるから」
「夜中のファミレスで意気投合しちゃうって、あまりないことだと思うんだ」
「私から離れないって誓って」「もう、離したくない」
「別に不安なんか、吹き飛ばせばいいんだよ」

❣️

「孤独で寂しくなったら声、かけてよ」「今も普通のデートだろ?」
「君といると、やっぱり落ち着く気がする」「別れたんだ」
「こういう恋って、プラトニックの究極だよね」

❣️

「好きになった理由なんてないよ」「すごい奇跡が重なってるんだなってことを言いたいだけだよ」
「ただ、俺が言いたいことは――。好きだってことだよ」
「気持ちが揺れるいじわるは、可愛げがある子にしかできないよ」
「どんな君でも、受け入れるよ」

❣️

「やっぱり、落ち着くわ」「次の大会でゴール決めたら付き合ってもいいよ」
「本当に私たち、結婚したんだね」「いくら好きでもいびきは聞かれたくないよ」
「この世界から消えないでほしい」

❣️

「離さないよ」「おはよう」
「いつになるかわからないけど、会いに行く」
「ねえ、大好きだよ」「うん、今が一番最高だよ」

❣️

「もっと知りたいと思ったんだ」「俺、好きになったんだよ」
「ねえ、だけど、君のことは忘れないよ」「人なんて、みんな強く生きれないよ」
「手を繋いで走るんだよ。こうやって」

❣️

「30歳まで相手がいなかったらってヤツ?」
「いかないで」「もし、私が先にいなくなっても忘れないでね」
「君が存在しないとつらすぎるよ」「君は一人じゃない」








☆「思い出ってさ、断片的だよね」
  ――断片的な瞬間を愛、いっぱいに 超新釈エモ恋万葉集


 ❣️恋する人 (かえで) ↔︎ (あお) 中学生の頃から付き合っていて、お互いに成長し、遠距離恋愛になる
 ❣️シーン 生駒山上(いこまさんじょう)遊園地で夜景を眺めながら、楓は春から始まる遠距離恋愛が不安だと碧に告げる



「思い出ってさ、断片的だよね」
「断片的?」
「うん。チェキで即席に作られた写真を無限大のコルクボードに貼り付けていく感覚のような気がするんだ」
「ワンシーンを写して、それをコルクボードにコレクションしてるってこと?」
「うん、そんな感じ。私たちのコルクボード、この4年でどれだけ埋まったんだろう」
 11月30日。
学校の開校記念日で休みだった今日、僕はどうしても楓と思い出が作りたくなった。
だから、わざわざ、電車とケーブルカーを乗り継いで、生駒山上遊園地に来た。
 
 ――コルクボード。
なんとなく、今日の思い出をたどりたくなって、僕はMA-1のポケットからiPhoneを取り出した。





☆「また思い出、たくさん作れたね」
  ――断片的な瞬間を愛、いっぱいに 超新釈エモ恋万葉集


 ❣️恋する人 (かえで) ↔︎ (あお) 中学生の頃から付き合っていて、お互いに成長し、遠距離恋愛になる
 ❣️シーン 19歳になり、半年ぶりに再会したふたりがカメラロールをなぞり、思い出を共有する





 バスが揺れて、思った以上に親指が下振れして、去年の秋頃の画像まで進んでいた。生駒山遊園地で大阪の夜景を自撮りした画像が目に入ったから、それをタップした。そして、無言で楓に見せた。
窓側に座っている楓を見ると、楓は微笑んでくれた。

「1年経ってないのに、懐かしいね」
「まだ、不安そうな表情してるよな」
「お互いにね」
 楓はそう言いながら、ふふっと、小さく笑った。だから、僕も小さく笑い返した。

「ねえ、14歳だった私に5年後、こんな未来があるよって言ったら、きっとびっくりすると思うんだ」
「どういうこと?」
「シンプルに楽しかったってこと」
 そう言われた瞬間、14歳のときに見た、楓がしっかり描き、そして、簡単に捨てられた青いクジラのことを思い出した。
そうだ、教室で君のクジラを見た、あのときから、断片的な瞬間をふたりで積み重ねてきたんだった――。
僕は、これからも、それらを大切にしたい。

「――ありがとう。また思い出、たくさん作れたね」
 楓にそう言われて、僕は思わず、ふっと、弱く笑ってしまった。

「ちょっと、笑わないでよ。なにが面白いの?」
「もっと、明るいところ、見ようよって言ったんだよ」
「えっ、いつの話?」
「内緒」
 そう返すと、楓は「変なの」と言って、iPhoneでTikTokを見始めた。






☆「そう、デートしてみたいってこと」
  ――恋ふる揺れる、京都 超新釈エモ恋万葉集


 ❣️恋する人 私 ↔︎ 彼 たまたま出会ったふたり
 ❣️シーン 彼のスマホの充電が終わるまで、カフェで過ごす。相手のことが気になり、お互いに名前を告げずに京都を巡ることになる




 名前――。
そう言われて、瞬間的に悩んでしまった。
もし、このままデートに行って、いい感じになるのも、いい気がするけど、まだ、それほどの元気が私自身にないように思うし、まだ、同棲を解消した余韻が残ったままで、また、別れ際に寂しさでいろんな感情が引きずり出されて、つらくて(みじ)めな気持ちになるのは、嫌だった。

 窓越しに見える鴨川の大きな流れと、枯れ草色になった堤防。
そして、秋色になった木々が風で揺れていた。
三条大橋を渡る車や、多くの人の流れを、私は、ぼんやりと眺め続けた。

「――どうしたの?」
 彼にそう聞かれて、私はいいことを思いついた。

「ねえ」
「なに?」
「まだ、いろんな感情が整理できてないんだ。――だから、とりあえず今日は、名前伝えなくてもいい?」
「いいよ。変わった提案だけど」
「あと、あなたの名前もまだ聞かないでおきたいな。今日一日は。その代わり、今日、これから一緒にあなたの隣、歩くから。つまり、お互いに名前を告げないで――」
「デートするってこと?」
「そう、デートしてみたいってこと」
 彼が私の言葉尻を取って、いたずらにそう言ったから、思わず、私もデートって、言葉を勇気出して言ってみた。
急に両耳が熱くなり始めたような気がするけど、もういいやって思った。
もしかしたら、もう二度と会うこともない人になるかもしれない。
だったら、最初から名前とか、連絡先を聞かないで、最初で最後の関係になれば、気持ちだって楽になれるような気がする――。

「いいよ、デートしよう」
 彼は微笑んだあと、なにごともなかったように、コーヒーをまた一口飲んだ。





☆「久々に誰かの手をずっと繋いだ気がする」
  ――恋ふる揺れる、京都 超新釈エモ恋万葉集


 ❣️恋する人 私 ↔︎ 彼 たまたま出会ったふたり
 ❣️シーン 叡山(えいざん)電鉄に乗り込み、お互いの過去の恋について語り合う



 赤い電車は混んでいるように見えたけど、乗り込んだ白い電車は私たち以外、まだ誰も乗っていなかった。二両編成の後ろの車両の一番端っこの席に座る私たちは、夢の中に閉じ込められているみたいだ。
「なんか、あっという間に感じた」
「そうだね」
 彼のその言葉で私は今、寂しさを感じているんだってふと思った。

「久々に誰かの手をずっと繋いだ気がする」
「私も半年ぶりくらいだと思う」
「そうなんだ。なんかさ、人生って思った通りに上手くいかないよな」
「――確かに」
 今年の春くらいまでは、ただ、漠然と人生は予定通り進んでいると思っていた。やっぱり、似たような悩みを持って、彼はひとり旅に出て、ここに来たのかもしれない。
今日の終わりが近いから、急に理由を聞きたくなった。

「――上手くいかなったの?」
「合わなかっただけだよ。ただ、いろいろあって、別れたってだけのことだよ」
「嫌なことを言いあったとか?」
「そう。お互いに相手を必要としなくなったってこと。すごくシンプルに」
 彼は真っ直ぐ前を向いたまま、そう静かに言ったから、これ以上、聞くのをやめた。
そして、夜の黒さとガラスに反射する私と彼をぼんやりと眺めた。





☆「今日一日付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ」
  ――恋ふる揺れる、京都 超新釈エモ恋万葉集


 ❣️恋する人 私 ↔︎ 彼 たまたま出会ったふたり
 ❣️シーン 一日終わりが近づき、私は過去の恋に感傷せず、一歩踏みだすことを決める



「――今日一日付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ」
「こっちがありがとうだよ」
「一日じゃ足りないな」
「一日、何時間くらいあればよかった?」
「48時間くらい」
「倍じゃん」
「それだけ、今日一日、あっという間だったってことだよ。君の心の傷が()えてたら、もっと踏み込んで癒やしたくなるくらいにね」
 急に心臓がドキドキと激しく音を立て始めた。
――そっか、私のことを待ってくれてるんだ。

そう思っている間に、放送が入り、急に電車の蛍光灯が消えて、車内は真っ暗になった。
「いよいよだね」
 彼はそう言って、窓のほうに身体をひねった。
だから、私も同じように身体をひねり、窓のほうを見た。

前の車両が急に黄色と赤の鮮やかな光に包まれたあと、私たちの車両も簡単にライトアップされたもみじの黄色と赤に一気に包まれた。
 ――自分次第なんだね。

「待ってくれてありがとう」
「えっ?」
 彼が驚いたような表情をして私を見たから、私はすべてを聞く決意をした。

「ねえ、名前聞いてもいい?」
 ただ、名前を聞いただけなのに、なんでこんなにドキドキが止まらないんだろう。
京都駅の0番線の喫煙所で初めて会ったときと同じように、彼は優しく微笑んでくれた。




☆「いいね。最高じゃん。好きになりそう」
  ――失恋は天気予報よりも正確だ ありのままの私で恋がしたかった


 ❣️恋する人 (はるか) ↔︎ 陽向(ひなた) 出会ったばかり
 ❣️シーン 知り合ったばかりなのに、ふたりが意気投合してしまうシーン




 知り合ったばかりだったけど、お酒のおかげで、私の普段のシャイさが消えて、気がついたら、周りから外れて、陽向と二人でずっと話していた。

「なあ。雨予報なのに傘、持ってない人ってどう思う?」
 私は質問の意図がよくわからず、思わず左にいる陽向を見た。
陽向はそんな私の戸惑いなんて気にもしてなさそうに、ニヤニヤしながら歩き続けていた。
人を試しているようなそんな余裕のありそうな表情で、そんなこと言ってくるから、余計に私はよくわからなくなった。
「いいよ。素直に答えて」
 陽向に促されたから、私は素直に思ったことを言うことにした。

「私だったら、その人に雨降るらしいよって、伝えるかな」
「いいね。最高じゃん。好きになりそう」
 急に告白みたいなこと言われて、顔が一気に熱くなってきた。

だから、私は思わず右手で口を覆った。
元々、アルコールでふわふわしていた頭が余計に軽くなったような気がした。






☆「最後にひとつだけ、お願いあるんだけど」
  ――失恋は天気予報よりも正確だ ありのままの私で恋がしたかった


 ❣️恋する人 (はるか) ↔︎ 陽向(ひなた) 別れたあとのふたり
 ❣️シーン まだ好きなのに別れなければならなくなった人との別れ




「――まだ好きだよ」
 強い風が吹いて、横髪が唇にあたった。
まるで、今、私が言ったことを風がかき消したみたいだった。
陽向は黙ったまま、寂しそうに目を細めていた。

「――こんなつもりじゃなかったのにな」
「もう、遅いよ。……新しい家族と幸せになってね」
 仕方ないよ。陽向にはもう一人、私が知らない女がいて、親になることが決まってしまったんだから。

「――ありがとう」
 陽向は小さな声でそう言った。もう、悔しさとか、そういうのを通り越して、ただ、陽向ともう別れたという事実がつらくなってきた。

「――ねえ」
「なに」
 私は少しだけ、躊躇(ためら)ったけど、そんなのやめてしまうことにした。
もう、最後だから。

「最後にひとつだけ、お願いあるんだけど」
「いいよ。言ってごらん」
「――抱きしめて」
そう言い終わる前に、すでに私は陽向の胸の中にいた。

陽向のMA-1の膨らみが私によって、一気に圧縮されているのを感じる。それとあわせて、首元からレイジーサンデーモーニングの爽やかな慣れた香りがした。
 目の前に広がる函館の街はだんだん、夜が深くなっていき、電球色が主体の暖かい色にイルカの尾びれが浮かび上がっていた。
私はこの夜景を一生忘れないように、強く陽向の背中をギュッとした。






☆「ずっと一緒にいよう」
  ――君の告白を破り捨てたい それでもあの日、ふたりの恋は永遠だと思ってた


 ❣️恋する人 頼太(らいた) ↔︎ 優璃(ゆり) 付き合ったばかりのふたり
 ❣️シーン ふたりの秘密の場所である、ビルの外階段でふたりで過ごしている




「ずっと一緒にいよう」

 頼太がそう言ったから、私はそのまま、静かにうん、と頷いた。
 たった一言でなんでこんなに世界があたたかくなるんだろう――。
 冬だってことも忘れてしまうくらいだ。
 学校近くにあるビルの外階段は私と頼太の秘密の場所で、ふたりだけの世界がすべて詰めこまれているように感じる。

 私にとって初めての彼氏は不純だけど、芯が強くて、そして、結構、優しい。外階段はコンクリート造りで、ちらついている雪が時折、踊り場に入り込んできた。いつものように、階段に腰掛けると、階段はものすごく冷えていた。これ、使えよと言って、頼太は自分のマフラーを階段に敷いてくれた。







☆「そんな根拠、どこにあるの?」
  ――君の告白を破り捨てたい それでもあの日、ふたりの恋は永遠だと思ってた


 ❣️恋する人 頼太(らいた) ↔︎ 優璃(ゆり) 遠距離恋愛寸前
 ❣️シーン 遠距離恋愛することになり、お互いに寂しさを感じているところ



 目の前のガラスが曇り始めた。
 きっと、外の気温が雨でさらに下がったのかもしれない。

「ねえ」
「なに?」
「――いなくならないで」
 優璃は右手で頬杖をつき、前を見たまま、ぼんやりとした表情をしていた。
 俺だって、寂しいけど、そんな顔したくないし、残りの時間を楽しく過ごしたい。だから、優璃のそんな表情を見て、俺は思わず、ため息をついてしまった。

「ちょっと離れるだけだよ。俺たちはきっと、この先も大丈夫だよ」
「そんな根拠、どこにあるの?」
「ほら、これだよ」
 俺はそう言ったあと、右手の人差し指で曇ったガラスに触れた。
 そして、ハートマークを描いた。

「やっぱり、ひとと違うね」
「それ、どういう意味だよ」
「変わってるってこと」
 優璃はそう言いながら、優璃もガラスに触れて、俺が描いたハートの横にもうひとつのハートを描いた。





☆「私と一緒にいて」
  ――君の告白を破り捨てたい それでもあの日、ふたりの恋は永遠だと思ってた


 ❣️恋する人 頼太(らいた) ↔︎ (あや) 婚約者同士
 ❣️シーン 綾と結婚することになり、両親に挨拶した帰り、頼太は、優璃との恋を思い出す





 優璃のこと、嫌いになろうと努力した。
 ――だけど、無理だった。

 雪が降った日、ふたりでビルの階段の踊り場でタバコをふかして、じゃれ合ったことを思い出した。
 俺のことを覗き込むように見つめて、「ねぇ、私のこと好き?」って優璃が聞いてきたのが勝手に頭の中で、再生された。
 そして、あのときの約束も――。

「なにがずっと一緒にいようだよ」
 俺は思わず独り言をぼそっと吐いてしまった。
 大きくため息をついたのとあわせて、右腕にあたたかさを感じた。
 少しだけ驚いて、窓側を見ると俺の右腕に綾の左手が添えられていた。そして、綾は俺のことをじっと大きな目で見つめてきた。
「私と一緒にいて」
「――起きてたのかよ」
「今、起きたの。――大丈夫だよ。頼太くん」
 綾はそう言ったあと、左手を俺の右腕からそっと離した。
 そして、また、すっとまぶたを閉じた。

「――ありがとう」
「ううん。頼太くん。ありがとう。プロポーズしてくれて」
 ぐっと奥歯を食いしばった。
 なんなのか、よくわからない震える感情で胸が重く痛み始めたから、堪えようとした。だけど、気付くと、左目から涙が一粒、頬を伝っていた。





☆「ずっと応援してるから」
  ――君の告白を破り捨てたい それでもあの日、ふたりの恋は永遠だと思ってた


 ❣️恋する人 優璃(ゆり) → 頼太(らいた) 自然消滅した恋
 ❣️シーン 仕事帰り、疲れ切った優璃は、雪が降るなか、ふと頼太のことが気になる




 パンプスで疲れた足の痛みが鈍くなった気がした。そういえば、ちょっと前にアイドルとの結婚報道があったのを思い出した。

 当たり前だけど、そのアイドルは私よりずっとかわいい子だった。
 ずっと前にその女のポスターを買って、油性ペンで顔を塗りつぶし、ハサミで切り刻んだ。だけど、気持ちは晴れなかった。頼太からもらったシャンパンゴールドのピアスは、そのとき、一緒に捨ててしまった。
 だけど、エメラルドのファーストピアスは、なぜか捨てられなくて、今もジュエリーケースの中に入っている。

 画面を見たまま、すっと息を吐いた。
 きっと、あのときの約束なんてもう無効で、私だって、もうそんなこと、わかり切っている。あの日、『ずっと一緒にいよう』って言われた声、表情はすぐに脳内で再生できるくらいまだ、記憶は鮮明なままだ。
 赤ちゃんのアイコンをタップして、トーク履歴を開いた。

《ずっと応援してるから》
 未読のままだったはずなのに、メッセージの横に『既読』がついていた。

「いつの間に……」
 ぼそっと呟いたけど、誰も私の衝撃を受け止めてくれるひとはいなそうだった。
 もし、あのとき、もっと早く東京に行くことを伝えて、頼太に会っていたら、私と頼太はどうなっていたんだろう――。
 私はずっと頼太のことを支えられていたのかな。もしかすると、今頃、頼太が家に帰ってくるのを待っていたのかもしれない。

 それか捨てられて、ひとりぼっちだったかもしれない。
 だけどね、頼太。頼太以外、大切なひとなんて、いなかったんだよ――。

「今更、遅いよ」
 もう一度、小さな声で言ってみたけど、私の声は通りを走るトラックの音にかき消された。ため息をついたあと、頼太をブロックして、ラインを閉じた。
 もう、全部終わったんだ。
 さよなら、頼太――。






☆「夜中のファミレスで意気投合しちゃうって、あまりないことだと思うんだ」
  ――君の背中は、近くて遠い ありのままの私で恋がしたかった


 ❣️恋する人 伊織(いおり)くん ↔︎ 希歩(きほ) 知り合ったばかりのふたり
 ❣️シーン 夜中のファミレスで意気投合したふたりは、夜明け前の海にたどり着いた


 さっきまでヘルメットを被っていたから、茶髪でロングヘアのパーマがかかった髪はしっかりと潰れている。そして、耳元や襟足の毛先が風で揺れた。
 伊織くんのくっきり二重で、すっとした鼻、そして、薄い唇で色白な、優しい印象の顔を、バイクに乗っている間は見ることができなかった。
こうやって間近でじっくり伊織くんを見ると、なんだか、照れくさくなってきた。

それを伊織くんに気がつかれないように、慌てて、私はもう一度コーラを飲んだ。
 そのあとすぐに、弱い風が吹き抜け、前髪が口元に当たったから、それを左手でそっと直した。

「なあ」
「なに?」
「夜中のファミレスで意気投合しちゃうって、あまりないことだと思うんだ。そう思ってるの俺だけかな」
「――違うよ。私だって、思ってるよ」
「ならよかった。こんなこと、初めてだったから誘っちゃったよ」
「――私もだよ。むしろ、私の方がしゃべりすぎちゃったんじゃないかって、心配になってた。だけど――」
「だけど?」
「バイクで連れ出してくれたじゃん」
「女の子、乗せたくなったんだよ」
「えっ、そしたら、女だったら、誰でもよかったの?」
 眉間に(しわ)を寄せ、伊織くんをまた見つめると、伊織くんは大きな声で笑い始めた。





☆「私から離れないって誓って」
  ――君の憂鬱を消し去りたい ありのままの私で恋がしたかった


 ❣️恋する人 菜央(なお) ↔︎ 涼生(りょうせい)
 ❣️シーン 菜央が見た今朝の夢が、涼生が死ぬ夢だったことを告げられる



「――どうやって死んだの?」
「わからない。だけど、夏にお葬式に行ってる夢だった」
「ただの夢じゃない?」
「うん。ただの夢だとも思うよ。だけど、おじいちゃんの予知夢、見たあとから、そういうリアリティがある夢を見ると怖くなるんだ」
 そう言っている途中から、すでに菜央の頬は濡れて、太陽の光でキラキラしていた。だから、菜央の右頬の涙を僕はそっと右手で拭った。 
だけど、拭ったあとも、何粒も涙が菜央の頬を濡らした。

「――ねえ」
「なに?」
「私から離れないって誓って」
「――ずっと離さない」
 僕は菜央が小指を差し出す前に、右手の小指を菜央の右手の小指に結んだ。







☆「もう、離したくない」
  ――雨の中、繊細な恋を君と誓う 超新釈エモ恋万葉集


 ❣️恋する人 (けい) ↔︎ 涼香(すずか) 友達 お互いに少し意識している
 ❣️シーン 補習終わり、公園で屋根付きのベンチで話しているうちに雨が降ってきて、ふたりは閉じ込められる




「涼香となら、閉じ込められてもいいよ」
 そのあとすぐに、私は圭くんに抱きしめられた。

肩に腕を回されたと思ったら、私はすでに圭くんの左肩にくっついていた。
圭くんが呼吸するたびに、肩が微かに上下するのを感じる。
座ったまま、抱き合う私たちは、きっと、遠くから見ても目立つような気がする。

だけど、こんなに激しい雨だから、そんな私たちを気にする人すら、この公園にはほとんどいないように思った。
 雨が私と圭くん、ふたりきりだけの世界にしてくれているように感じる。

「もう、離したくない」
 圭くんがぼそっと私の左の耳元でそう言ったから、私は圭くんとなら、このまま雨に濡れてもいいやと思った。
 思わず、圭くんを見ると、圭くんはこの二日間で一番美しく、そして優しく微笑んでいた。







☆「別に不安なんか、吹き飛ばせばいいんだよ」
  ――溶けない雪の日の恋を解凍したい 超新釈エモ恋万葉集


 ❣️恋する人 小田切(おだぎり)くん ↔︎ 萌夏(もか)
 ❣️シーン 学校に行くのが億劫になった萌夏。真冬のホームで、小田切くんに声をかけられる



「別に不安なんか、吹き飛ばせばいいんだよ」
 小田切(おだぎり)くんはそう言って、微笑んでくれた。
そのあとすぐ、冷たい風が吹き、雪予報のいつものホームはすごく冷たくなった。
 いつも乗る電車に乗らずにベンチに座っていると、小田切くんが私の隣に座った。
 ふたりは制服姿なのに、ふたりとも、学校に行く気なんてないんだと思う。
だから、小田切くんは、こんな私に声をかけたのかもしれない。

だけど、そんなポジティブな言い方で声をかけてほしくなかった。
上り階段のほうに視線をずらすと、行き先を示す電光掲示板の時計だけが、ただ、いたずらに進んでいた。
 
「そんなこと、できる人って(うらや)ましいな。できたら、悩まないよ」
 皮肉のつもりでそう返し、小田切くんを(にら)むと、小田切くんは、なにに対して面白かったのか、わからないけど、ふふっと笑った。





☆「孤独で寂しくなったら声、かけてよ」
  ――溶けない雪の日の恋を解凍したい 超新釈エモ恋万葉集


 ❣️恋する人 小田切(おだぎり)くん ↔︎ 萌夏(もか)
 ❣️シーン 5年前、少しの間だけ付き合っていた小田切くんのことを思い出し、萌夏は小田切くんにメッセージを送る




 あの日、『別に不安なんか、吹き飛ばせばいいんだよ』って、小田切くんに言われたことをたまに思い出してしまう。この歳になっても、私にはたくさんの不安があり、吹き飛ばすことなんてちっともできていなかった。
 小田切くんは、あのとき言ったように自由に生きられてるのかな。
そのために、なんらかのインフルエンサーとかになったのかな。
 私の小さな嘘も、なにも考えずに言った本音も、しっかり受け止めてくれる人は、まだ小田切くんしか知らない。
5年経っても、小田切くんって本当に優しくて、私のことを考えてくれてたんだって、今でも強く思う。

 iPhoneをバッグから取り出し、LINEを起動した。
そして、数年前で時が止まったままのタイムラインを表示した。

 《いままで、ありがとう ごめん》 
最後は君からのメッセージで終わっていた。 
 ――都合がいいのはわかってる。
だけど、ただ、もう一度、私は君に話しかけてみたくなった。
 
 《久しぶり 雪、降ってるの見て、急に思い出したんだ》

 あの日、雪が降るホームで『孤独で寂しくなったら声、かけてよ』って言ったよね。
 すぐメッセージの横に既読がつき、またあの日のように私はドキドキし始めた。






☆「今も普通のデートだろ?」
  ――溺れた恋を蘇生したい ワンナイト・ラブストーリー 一瞬で永遠の恋だった


 ❣️恋する人 凛久(りく) ↔︎ 橙花(とうか) 幼馴染、曖昧な関係
 ❣️シーン いつもの夜、過ごすだけかと思っていたら、明日のデートに誘われる



「なあ、橙花。明日――。まだ空いてる?」
「――どのくらい?」
「夜まで」
「えっ。――いいの?」
 驚きすぎて、三缶目の酎ハイを落としそうになった。

 さっきまでモヤモヤしていた気持ちは一瞬でポジティブになった。
 彼女より、私を選んでくれるってこと?
 私と普通のデートしてくれるの?

 ベッドサイドで隣に座っている凛久を見ると、凛久はそっと、微笑んでくれた。
「たまにはいいだろ。そういうのも」
「――これって、普通のデートにカウントしていいの?」
「――今も普通のデートだろ?」
 そう言って、凛久は手に持ったハイボールを口元に持っていき、それを一口飲んだ。
 確かに、彼と温泉に泊まっているデート。
 それはもちろん、普通のデートなのかもしれない。

「だけど、普通じゃないのかもしれないな」
「今さら、気づいたの?」
「――幼なじみだから、自然か」
「セフレの時点で十分、不自然だよ」
 いいよ、私は。
 ただ、凛久のそばにいれたら、それだけで十分だから。
 そんなことを考えている間にも、凛久はハイボールを飲みきったみたいで、持っていた缶をベッドサイドに置いた。
 部屋に乾いた音が響いた。





☆「君といると、やっぱり落ち着く気がする」
  ――溺れた恋を蘇生したい ワンナイト・ラブストーリー 一瞬で永遠の恋だった


 ❣️恋する人 凛久(りく) ↔︎ 橙花(とうか) 幼馴染、曖昧な関係
 ❣️シーン キャラメルラテを飲みながら、凛久と橙花は、ぼんやりと午後のゆったりとした時間を過ごしている




「なあ」
「なに?」
「――高校生のとき、もっとこういうことすればよかったのかもしれないな。そしたら、俺たち、もっと上手くいってたのかもしれないな」
「――そうだね」
 今さら、そんなこと言わないでよ――。
 私だって、本当は高校生のときから、こういう当たり前のデートしたかったんだよ。
 凛久と。

「なあ」
「今度はなに?」
「橙花といると、やっぱり落ち着く気がする」
「――彼女、いるくせに」
 私はぐちゃぐちゃしている気持ちを紛らわすために、弱く笑ったあと、キャラメルラテを一口飲んだ。

 こうしないと、胸の奥から急に生まれた鈍さで、泣いてしまいそうだよ。
 キャラメルラテの甘さが、そのつらさを和らげようとしてくれている。
 それなのにさ。
 私は内側の世界で溺れかけていて、冷たい深海まで沈んでしまいそうだよ。
 このままじゃ、私、何かの弾みで、もう、壊れてしまいそうじゃん。
 ――だけど、さっき、私は電車の中で決めたんだ。
 今日をしっかり楽しむって。







☆「別れたんだ」
  ――溺れた恋を蘇生したい ワンナイト・ラブストーリー 一瞬で永遠の恋だった


 ❣️恋する人 凛久(りく) ↔︎ 橙花(とうか) 幼馴染、曖昧な関係
 ❣️シーン 凛久から、彼女と別れたことを告げられる



「別れたんだ」
「――そうなんだ」
 その言葉で一瞬、嬉しくなった私は、やっぱり他人の不幸を喜ぶ最低な人間だと思った。だけど、その罪悪感はやっぱり一瞬で消えてしまい、私は冷静にドキドキし始めていた。
「バカみたいだよな」
 そう言って、凛久は、ふっと弱く笑ったあと、すっと息を吐いた。
 その息は白く、ゆっくりと上がった。
「――行こう」
 そう返して、私は凛久を引っ張るようにまた、歩き始めた。

 私のこと、選んでくれるの?
 そう口にしちゃいそうになった。
 だけど、そう言いたいのをぐっと喉に力を入れて、我慢した。





☆「もう、呪いを解いてほしい」
  ――溺れた恋を蘇生したい ワンナイト・ラブストーリー 一瞬で永遠の恋だった


 ❣️恋する人 凛久(りく) ↔︎ 橙花(とうか) 幼馴染、曖昧な関係
 ❣️シーン 一日の終わり、橙花は思い切って、凛久に思いを伝える




「――私と付き合った方が絶対、楽しいと思うよ」
「えっ」
 服を着たままこうやって、真剣に凛久と向き合うのは本当に久しぶりな気がした。
 昨日の夜、間接照明のなか、顔半分が陰っていた、凛久の表情をふと、思い出した。
「――もう、呪いを解いてほしい」
「――いいよ」
「えっ」
「――だから、いいって言ってるだろ。橙花のこと好きなんだよ。好きだってこと、今さら気づいた。遅すぎるだろ、俺。呪い解くよ、橙花の」
 気がつくと、私は温かさに包まれていて、凛久の胸の中にいた。
 いつもと違って、コートのウールの香りが、なぜか新鮮だった。

 ――本当の私になれたのは二年ぶりかもしれない。
 これからの私は、もう、君への想いを沈めなくていいんだ。

 溺れた私の恋は蘇生したんだ。
 気がつくと、昨日の夜とは違う涙が、頬を伝った。





☆「こういう恋って、プラトニックの究極だよね」
  ――恋に落ちて 非公開、未完成作品


 ❣️恋する人 彼 ↔︎ 彼女 恋人未満
 ❣️シーン お互いの初恋について話すことになった。


「ねえ、もし、私達、同じ中学校で会ってたらどうなってたと思う?」
「こういうことにはなってないかもね」
「そうかな。初恋みたいな感じになったんじゃない?」
「初恋?」
「うん、初恋。なんか知らないけど、仲良くなってこうやってずっと話してたかもね。だけどね、お互い言えないの本当の気持ちが」
「どうして?」
「どうしてって、それは初恋だからだよ。初恋ってそういうものでしょ。叶いそうでかなわない儚い感じ。恋の方法も知らないから、これが本当に好きってことなのか、相性が良くて恋愛に発展するかどうかってわからないの。だから、本当の気持ちが言えないまま、ずっと話だけして、今だけ楽しく過ごして、お互いに告白もすることなく、結局自然消滅しちゃうの。こういう恋って、プラトニックの究極だよね」
「そうだね。完全にプラトニックだね」





☆「好きになった理由なんてないよ」
  ――クールサマーバケーション 非公開、未完成作品


 ❣️恋する人 彼 ↔︎ 私 友達以上恋人未満
 ❣️シーン 真夜中の高台の公園でふたりきりで、中心部のビル街を眺めている。



「好きになった理由なんてないよ」

 そう言って、微笑みながら、彼はまた一口、ボトルコーヒーを飲んだ。
 真夜中の高台の公園から、中心部のビル街をこうして、ふたりきりでぼんやりと眺めているのは、単純に楽しかった。
 そんなことより、これが彼からの告白なのか、わからないから、私は結局、受け取った言葉を聞き返すことにした。

「それって、どういう意味」
 冷たい感じを出さないようにゆっくりと、慎重なトーンで言った。もし、これがネガティブに受け取られたらどうしようって思った。
 弱く冷たい風が吹き、私は思わず身震いした。夏が始まる前で少しだけ肌寒い。
 
 



☆「すごい奇跡が重なってるんだなってことを言いたいだけだよ」
  ――ブルーサイド・ラブストーリー 非公開、未完成作品


 ❣️恋する人 (りん) ↔︎ (あお) 友達以上恋人未満
 ❣️シーン 寂れた港で、10月の夕日が水平線に沈んでいくのを、ふたりで眺めている。



「なあ、(りん)。よく、こんなところに来たよな」
「それ、どういう意味で言ってるの」
 私は少し、イラっとしながら、(あお)に返してしまった。どこにでもある、ありきたりな寂れた港のコンクリートブロックに座り、碧と私は秋が深まったばかりの10月の夕日が水平線に沈んでいくのを眺めていた。
 冷たい風が吹いて、髪先が口にあたった。それを戻そうと、右手で口元の髪先をはらったとき、左に座っている碧と目があった。
 碧は私の様子を伺っているように見えた。

「別にもう、そうやって警戒するような間柄でもないだろ。俺はただ、素直にさ、凛とこうしていられることって、すごい奇跡が重なってるんだなってことを言いたいだけだよ」
「だったら、素直にそういえばいいのに」
 コンクリートブロックに座りながら、両足を伸ばしても、海とコンクリートの境目はまだ足ひとつぶんくらいの距離があった。足を思いっきり、跳ね上げたら、きっと、今履いている、去年、原宿で買ったネイビーのニューバランスが宙を舞い、そのまま、キラキラの水面に浮くかもしれないと思った。

「ねえ」
「なに?」
「なんで、私になんか声かけたの?」
「ぼっちだったからだよ」
「信じてくれないと思うけど、私、向こうではぼっちじゃなかったんだよ」
「そんなの、わかってるよ。この町では浮きすぎなんだよ、隠せないくらい」
 碧はそう言ったあと、照れくさいこと言わせるなよと続けて言った。そして、スクバからセブンスターを取り出し、それを咥え、手慣れたように、それに火をつけた。
 その間にも沖の先にあるオレンジは、もう半分以上、深い青が揺れている水平線に沈んでいた。オレンジの周りの赤色はすでにすぐ上の夜に飲まれそうになっていて、夏の短い夜が始まりそうだった。





☆「ただ、俺が言いたいことは――。好きだってことだよ」
  ――キラキラ 非公開、未完成作品


 ❣️恋する人 葉月(はづき) → 私 告白される
 ❣️シーン 夏、河川敷。ふたりきりで過ごす時間。



「いつかは、忘れてしまうのかもしれないって思うと、今、この瞬間すら、楽しくすることって大事なんだなって思うんだ」
 低い声で葉月(はづき)がそう言ったあと、ぬるい風が橋の下を通り抜けた。目の前に広がる大きな川は穏やかなままで、中洲の緑が風で揺れているだけだった。

「たまに哲学的なこと言って、格好つけるよね」
「違うよ。本当にそう思ったから、ただ言っただけだよ」
「それが格好つけじゃん」
 私がそう言って、笑うと、そうかもなと、葉月は隣に置いていたペットボトルを手に取り、それを飲んだ。ペットボトルは暑さで、濡れていて、葉月が口元から離すのと合わせて、水滴がキラキラしながら落ちていった。

「ただ、俺が言いたいことは――。好きだってことだよ」
 言い終わるのと、同じくらいに、葉月の顔はほぼ赤くなっていた。





☆「気持ちが揺れるいじわるは、可愛げがある子にしかできないよ」
  ――雪を言い訳にして、もっと、話したい 非公開、未完成作品



 ❣️恋する人 彼 ↔︎ 私 恋人未満
 ❣️シーン 雪が降り続ける放課後、彼と一緒に帰ることになった。


「うつむいたって仕方ない。だけど、うつむきたくもなるよね」
 彼はそんなことを言ったから、私は思わず、彼を見た。学校帰り、シックなコート姿の彼と歩くのは、新鮮な感覚だ。雪が舞っていて、午前中まで灰色だった世界は、あっという間に白色になっていた。いつもの公園の横をゆっくりと通り過ぎていく。

「ねえ、もし雪が降ってなかったら、公園に寄ろうって言いたかったかも」
 私にしては積極的に言ったつもりだった。別に彼が奥手とか、そういう決めつけをしていない。彼は私のことを数秒、見つめた。何を考えているのか、わからない、捉えることができない不思議な表情を浮かべたあと、彼はニコッと微笑んだ。

「言いたかったかも?」
 彼は、いたずらをしたかのように、ニヤッとした表情を浮かべた。
「いじわるだね」
「気持ちが揺れるいじわるは、可愛げがある子にしかできないよ」
 そう言ったあと、彼は私の右手を繋いだ。彼の手は冷たくて、凍えてしまいそうだと思ったけど、彼のその強引さも悪くない気がした。




☆「どんな君でも、受け入れるよ」
  ――6月の青い公園 非公開、未完成作品


 ❣️恋する人 彼 ↔︎ 私 付き合いたて
 ❣️シーン 私がついた嘘を告白しようとするけど、私はためらっている。




 6月の公園は青が最高に合っているように感じる。突き抜けるくらい青空と、絵の具を塗ったような芝。午後の公園はいろんな人が思い思いに遊んでいる。キャッチボールをしている子供や、犬の散歩をしている大人の人たち。木陰のベンチで私と彼は座って、貴重な二人の時間を過ごしている。
 どこから、飛んできたシャボン玉が足元で割れた。

「え、何それ」
 彼は私の方を見て微笑んでいる。私は両手の拳をぎゅっと握り、身体が硬くなる。彼は色白だけどしっかりした筋肉質の身体、そして、茶色に染まった髪はウルフスタイルで髪全体が柔らかく見える。

「本当の私を見て欲しいの」
 私はできる限り、本気の声を出した。すると、彼は少しはっとした表情を浮かべた。

「――私、あなたに嘘ついてた。……ごめん」
「え、なんだよ。嘘って」
「――私」
 私はそう口に出したとき、喉がぎゅっと絞まる感覚がした。誰かが、私の首を絞めているようなそんな感覚がしている。
 ――やっぱり、言いたくない。運命に抗ってみたい。

「どんな君でも、受け入れるよ」
 彼は右手を私の左手の上に重ね、すっと息を吐いた。





☆「やっぱり、落ち着くわ」
  ――君の告白を破り捨てたい B案


 ❣️恋する人 頼太(らいた) ↔︎ 優璃(ゆり) 遠距離恋愛
 ❣️シーン アーティストになった頼太との遠距離恋愛がすれ違っているところ。



 高校を卒業したあと、頼太と私はすれ違ってばかりだった。私は遠くから支えるって決意したから頼太の邪魔はしたくない。だから、頼太が休めるときにいつでも東京に行けるようにコンビニでアルバイトをして、頼太に会いに行くためのお金を貯めた。

 たまに来る頼太からのメッセージは頼太のまま変わらなかった。高校生の時からタバコと酒を覚えて遊んでいる頼太、そのままだった。だけど、彼は着実に成功して遠くに行っているように見えてたまに寂しく感じた。テレビをつけたら、頼太の曲が流れていたり、スーパーやコンビニの有線でも彼の曲は流れている。その度に嬉しかった。成功しているから、早く落ち着いたときに面とむかって褒めてあげたい。

 だから、もう送っちゃおう。

《春休みのどこかで、頼太のところに行きたい》

 送信ボタンを押すと、一気に心臓がバクバクと派手に鳴り始めた。
 


「やっぱり、落ち着くわ」
「私も」
 頼太と一緒にスタバにいるのもほぼ、一年ぶりだった。







☆「次の大会でゴール決めたら付き合ってもいいよ」
  ――メロいバンドの切ないメロディライン


 ❣️恋する人 詩音(しおん)↔︎ 瑞希(みずき) 両思い
 ❣️シーン イップスでサッカーを諦めた瑞希が、もう一度、復帰することを詩音に伝えた


「――次の大会でゴール決めたら付き合ってもいいよ」
「え?」
 瑞希は頬杖をついたまま、驚いた表情をしていた。

「聞こえてなかったの? ――付き合ってもいいよ」
「マジで」
「あ、だけど、ちゃんと約束は守ってね。ゴール決めたらだから」
「俺のポジション的にアシストも入れてほしいな」
「は? 男に二言はかっこ悪いよ」
「いや、こっちから言ったわけじゃねーのに」
「ほら、約束」
 私は、右手の小指を瑞希の方に差し出した。

「お前は相変わらず、素直じゃないな。今、彼女になってくれたほうが頑張れるのに」
「こういうのは目標があるから頑張れるんでしょ。ほら、早くして」
「わかったよ。決めてやる」
 瑞希はそう言ったあと、頬杖を止めた。そして、私の方に右手の小指を差し出してきたから、私も小指を差し出し、それを結んだ。




☆「本当に私たち、結婚したんだね」
  ――メロいバンドの切ないメロディライン

 ❣️恋する人 詩音(しおん)↔︎ 瑞希(みずき) 新婚
 ❣️シーン バンドがメジャーデビュー後、困難を乗り越え、高校の卒業式が終わった足で、ふたりは新居に向かう




 瑞希が鍵を開けた。ドアを開けると、まだ慣れない匂いが玄関から流れてきた。
 部屋には二人の家からそれぞれ運ばれたダンボールがそのままになっていた。私と瑞希だけの秘密基地みたいに思えた。1LDKの部屋が引き渡されたのは一週間前だった。

「今日から、一緒だな」
 私は頷いて、部屋を見渡した。ベッドだけが、生活感らしさを保っているように思えた。ベッドの手前にはダンボールが山積みされている。明日には瑞希が印税で買った電子ドラムが運ばれる予定になっている。だから、頑張って片付けないと。

「ねえ」
「なに?」
「本当に私たち、結婚したんだね」
「あぁ。ずっと一緒にいような」
 私が頷こうとしたとき、右の頰が暖かく感じた。瑞希は右手を私の頰に添えたまま、キスをした。時が簡単に止まり、私たちだけの世界になった気がした。

 ――これが日常になるんだ。って私はふと思った。






☆「いくら好きでもいびきは聞かれたくないよ」
  ――すべての『』を繋げた君へ

 ❣️恋する人 涼葉(すずは)↔︎奏哉(そうや) 両思い
 ❣️シーン 寝るギリギリまで通話をしている




「私、もう眠いけど、無理やり通話してるんだ。だから、寝落ちしたら通話切ってね」
「えっ、どうして?」僕はわざと意地悪なことを聞くことにした。
「いくら好きでもいびきは聞かれたくないよ」
「じゃあ、聞いてあげる」
「いやだよ。約束だよ?」
「いいよ。約束する」
「寝る前に言っておくね。奏哉くんのこと、自分のこと晒して、わからなくなるくらい好きになったよ。――おやすみ」
「なんだよそれ」と返すと、数秒間だけ、マイクが涼葉の部屋の空気の音を拾っているノイズだけが聞こえた。

「――涼葉?」
 僕がそう聞いてみても、向こうの世界からは空気のノイズが聞こえるだけだった。だから、僕は諦めて、通話を切ろうとした。
 
「私のこと、好き?」
 不意に飛び込んできた涼葉の声に僕は少しだけ驚いた。だけど、僕は素直にこう伝えることにした。
 
「――好きだよ」
 そう伝えても、向こうの世界からの答えはなかった。聞こえる音はまたノイズだけになり、そして、寝息のようなそっとしたリズムが聞こえたから、僕は涼葉に言われたことを守って、通話を切った。






☆「この世界から消えないでほしい」
  ――すべての『』を繋げた君へ

 ❣️恋する人 涼葉(すずは)↔︎奏哉(そうや) 両思い
 ❣️シーン ふたりきりの図書室で、涼葉の体調が崩れる。涼葉は自分が死ぬデジャブを見たと奏哉に告げる。
 



「――私、死にたくない」
「大丈夫だよ。涼葉」
 お互いに二人しか聞こえないような小さい声でそうやり取りをした。
 涼葉はそっと、僕の背中から両腕を離し、僕から離れ、抱きしめる前と同じように、壁に寄りかかった。

「もっと、奏哉くんとたくさん楽しいことして、ずっと一緒にいたかったな」
「変わらないよ。今も、この先も」
「――だけど、もう、十分自分がこの世界に存在していることを自分の言葉で残した気がする。あとはお願いね」
 涼葉は左手で胸をさすり始め、鈍い表情をしていた。

「ダメだ。痛むんだろ」
 僕が立ち上がると、涼葉は僕の左腕を掴んだ。だから、僕はもう一度、涼葉の前に座った。
「……行かないで」
「ダメだよ。助け呼ばないと」
「ふふっ。このシーンも夢で見たな。やっぱり、私、今日で最後かもね」
「やめろよ! もっと、楽しいことたくさんしよう。そして、ずっと一緒にいよう」
 涼葉は微笑んでいた。だけど、いつの間にか、頬は濡れていて何粒も、涙が蛍光灯で輝いているのが見えた。

「……奏哉くん。愛してます。一緒にいてくれてありがとう」
 そのあと、左腕を掴まれていていた力が急に弱まった。そして、涼葉を見ると、涼葉は目をつぶっていた。

「――この世界から消えないでほしい」
 僕はそう呟いたあと、再び立ち上がった。





☆「離さないよ」
  ――48時間後に君は死ぬ 


 ❣️恋する人 日奈子(ひなこ)↔︎シド 両思い
 ❣️シーン お互いに相手が事故で死ぬことを経験した世界線から、タイムスリップして、お互いを救いに来たことがわかった。
      しかし、寝てしまうと、元の世界に戻ってしまうため、お互いにお互いのことが大切だってことを伝え合う




「ごめん。泣いてばかりだね」私は感情の波がおだやかになってからそう言った。
「泣いてもいいよ」
「あ、ズルい。自分は我慢して泣かないくせに」私は笑ってそう言った。口角を上げたとき、まぶたが腫れぼったくなっているの感じた。
「日奈子のハイボール、もう氷溶けて薄まってるよ」シドはそう言ったあと、ハイボールを一口飲んだ。
「私ね。ずっとこうしたかったの」頭がカクンと下がった。そして、一瞬寝そうになっていたことに気づいた。
「――日奈子?」
「シドと。ずっと、こうして――話したり、一緒にいたかった」意識が朦朧とする。頭の中が空っぽになっていく感覚が襲ってきた。
「俺もだよ」
「ずっとね。――もう、戻りたくないよ。――シド。離さないって言って」
「離さないよ。日奈子」シドはそっとした声でそう言った。私はそれを聞いたあとテーブルに突っ伏した。セーターの袖はすぐに涙で滲みた。吸い込まれそうな腕の中の暗黒は、私の意識が現実なのか仮想なのかわからない心地よさを誘った。
「おい、日奈子。寝るなよ」シドがそう言ったのが聞こえた。私の意識は穏やかに闇に向かっていくのがわかった。
「おいって。――起きろよ。日奈子。寝るな。――マジかよ」シドはそう言って、何度も私を揺さぶっている。だけど、全然、体勢を起き上がることも出来なかったし、どんどんシドの声が遠くなっていくのを感じた。
「日奈子。――ありがとう。――ずっと、大好きだよ」シドの声が泣き声になっていた。シドの声はそれ以降、聞こえなくなった。







☆「おはよう」
  ――48時間後に君は死ぬ 


 ❣️恋する人 日奈子(ひなこ)↔︎シド 両思い
 ❣️シーン タイムスリップが終わり、事故からシドを救うことができ、日奈子とシドは、お互いにほっとする



 揺すられて目が覚めた。座ったまま寝ていた。右肩を軽く揺すられている。まだ瞼は重く、首を起こす気にもならないくらい眠かった。それでも無言で何度も右肩を揺すってくる。私は右手で揺すっている相手の手をつかもうとしたが、右手は自分の肩にあたった。そして、また、何度も右肩を揺すられた。
 
 私は左腕を枕にしていた。左腕は軽くしびれている。首を上げ、身体を起こした。そして、右側を見るとシドが立って笑っていた。私は思わずにやけてしまった。シドが右肩をポンポンと軽く叩いたから、首を右にひねるとシドの人差し指があたった。そのあとシドの笑い声が聞こえた。

 窓の外は夜明け前の青さだった。雪はやんでいて、すでに歩道を歩いている人が何人かいた。

「おはよう」シドはそう言った。
「おはよう」私は初めてシドに起こしてもらった。私は立ち上がり、ドリンクバーに行った。そして冷たい烏龍茶を取り、席に戻った。
「なあ」
「なに?」
「ずっと一緒にいれるな」シドはそう言って、微笑んでた。シドの表情を見て、私は生きるってこういうことなんだと思った。




☆「いつになるかわからないけど、会いに行く」
  ――この恋の悲しみを愛に変えたい


  ❣️恋する人 杏依菜(あいな) ↔︎ 夏織(かおり) 両思い
  ❣️シーン 杏依菜の転校で離れ離れになることになることがわかり、約束をする




「もうさ、少しは行動範囲広がったから、関東だったら、電車で会いに行くよ」
「北海道」
「――遠いな」
「行きたくないよ。旭川に」
「また、寒そうだね」
「今度は、日本一寒いところだよ」
 ぼつりと、杏依菜はそう言ったあと、白いバッグからティッシュを取り出して、涙を拭った。去年の秋、図書館で再会したときのことを思い出した。東京から旭川に行くには、きっと羽田空港から、飛行機しかないだろう。どれだけ離れているのか、わからない。ただ、ものすごく遠いのはわかる。
 僕も残酷な情報のシャワーでまだ、頭が追いついていない。状況が飲み込めないし、事実を飲み込みたくない。
 この街から杏依菜がいなくなったら、一体、僕はなにをすればいいんだろう。
 
「って、お父さんが言ってた。お父さんの転勤で勝手にそうなったのに。お父さんも、お母さんも北海道、好きみたいで、すごい喜んでたよ。私だけ、家族のなかで喜んでない。どうして喜んでないないかわかる?」
 杏依菜は、僕を見て、口角を上げた。それに合わせて、涙が流れた。

「離れ離れになるから」
「そう、そうだよ。――せっかくまた、一緒になれたのにね」
「――いつになるかわからないけど、会いに行く」
「私も。また、約束が増えたね」
 そう言われたから、僕は、右手の小指を杏依菜のほうに出すと、杏依菜はあのときみたいに、小指を僕の小指に結んだ。




☆「ねえ、大好きだよ」
  ――この恋の悲しみを愛に変えたい


  ❣️恋する人 杏依菜(あいな) ↔︎ 夏織(かおり) 両思い
  ❣️シーン 意識不明だった杏依菜が目覚めるところ。杏依菜と夏織(かおり)は無意識の中の中庭で会っている。
  
 

「杏依菜」
 ――夏織くん?
 振り返る前に、私は夏織くんに伝えたいことを思い出した。そして、振り向くと、世界が一気に明るくなった。
 私は仰向けになっていた。天井は白くて、さっきまで歩いていた雪みたいに思えた。
 「杏依菜?」
 また、同じ声がした。聞き覚えのある、世界中で一番、聞きたい声が。その声がする方をゆっくり向くと、夏織くんとお母さんが見えた。
「杏依菜が起きました」
「うん、私、人呼んでくるね。夏織くん、杏依菜のこと見ててあげて」
 お母さんが、ちらっと見えた。慌てて、部屋を出ていくのも見えた。

「――夏織くん。会いに来てくれてありがとう。――ごめんね」
「といっても、こないだ中庭で会ったばかりだけどね」
 そう言って、微笑んでくれた。
 ――こないだってことは、あの瞬間だけは、本当だったんだ。

「ねえ、夏織くん」
「なに?」
「言い忘れたことがあるんだ」
「ずっと、気になってたから、教えてよ」
 夏織くんはまた、優しく微笑んでくれている。中庭で会ったときは、泣いていたのに。

「ねえ、大好きだよ」
 私は、初めて夏織くんに自分の気持ちを伝えられた。私はゆっくりと、左手を夏織くんのほうに出すと、夏織くんは両手で私の左手を力強く、ぎゅっと握ってくれた。
「大好きだよ」
 小さい声だったけど、夏織くんは、初めて私に好きって言ってくれた。そのあと、バタバタといろんな人が入ってくる音がしたから、
「続きは、またあとでね」って言うと、夏織くんはふふっと、いつものように笑ってくれた。






☆「うん、今が一番最高だよ」
  ――君の知らない、記憶の彼方に私がいる

 
 ❣️恋する人 奈津(なつ)↔︎モガミ 両思い
 ❣️シーン 憂鬱になり、泣いている奈津を抱きしめるところ。



 「――今は幸せ?」
「うん、今が一番最高だよ。こうやってモガミとずっといれるし」と奈津はそう言ったあと、泣き出した。涙が何粒も頬を伝っていた。涙が夕日の光を反射してキラキラしていた。

 僕は思わず奈津を抱きしめた。

 奈津は僕の肩にうずめた。僕はナツの背中に手を回し、抱きしめた。抱きしめると奈津の鼓動を感じた。髪に残っているリンス匂い、弱くかいた汗の甘酸っぱい匂いが一緒に僕の鼻腔のなかに入っているのを感じた。

 奈津はひとしきり泣いたあと、ふと顔をあげて、僕から離れた。バッグからポケットティッシュを取り出して、鼻をかんだあと、ぼーっと前を見つめていた。僕は何も言わず、しばらく奈津が落ち着くのを待った。

「もういいよ。今日もありがとう。バイバイ。また明日」と奈津は低い声でそう言った。


 *


 奈津は死んだ。
 15歳の短い人生だった。

 15歳で一体、人生のどれほどのことがわかったのかわからない。もしかしたら、今、この瞬間も魂は成仏しないで、奈津はさまよっているのかもしれない。

 奈津は交通事故に遭った。親が運転する車が反対車線からはみ出した車と衝突した。親は助かったけど、助手席に乗っていた奈津は死んだ。出血多量によるショック死だったらしい。
 質素な葬式に参列した。棺の中には顔色が悪い奈津が入っていた。棺に入るとどんな人でも死は本当になる。こういうとき、家族が一番悲しいに決まっている。だから、泣かないようにと気持ちを押し殺すことにしていた。
 だけど、奈津の顔を見ると、涙が一筋、溢れた。








☆「もっと知りたいと思ったんだ」――夏色の君に願いを込めて


 ❣️恋する人 上大内(かみおおち)くん → 芽衣香(めいか) 告白
 ❣️シーン 上大内くんが勇気をだして、芽衣香に告白しようとしている。


「じゃあ。……芽衣香」と上大内くんは慎重そうな低い声でそう言ってくれたから、私は運命を受け入れる決意をするために、息を飲んだ。

「大体さ、私と一緒に居てもいいことないと思うよ」
 これも焼き回しのセリフだ。
「芽衣香、違うよ、それは。俺はもっと知りたいと思ったんだ」
「――何を知りたいの」
「全てだよ」
 上大内くんは前を向いたままだったから、私は上大内くんの横顔を眺めていた。制服の白い長袖ワイシャツを腕まくりした腕は、しっかりとした筋肉質で、すこしだけ日焼けしていた。
 耳に少しだけかかっている長めの髪は風で揺れていて、大きいはずの目をあえてなのか、細めながら、海を眺めている、そんな上大内くんは最高に夏が似合うと思った。





☆「俺、好きになったんだよ」――嫌いな君の気持ちが知りたい


 ❣️恋する人 カノウ → エリイ 告白
 ❣️シーン 人の心の声が聞こえるエリイが、なぜか心の声が聞こえないカノウに告白され、戸惑う。




「俺、好きになったんだよ。エリイのこと」
 カノウは小さい声でそう言った。そんなこと、急に言われてしまい、私はどうすればいいのかわからなくなった。心臓が破裂しそうなくらい心拍数が上がっている。
 私は一体、どうすればいいんだろう――。
 
「――エリイ?」とカノウはまた小さな声でそう言った。左側にいるカノウを見ると、カノウは不安そうな顔をしていた。
 こんな、カノウの表情、同じクラスになってから、初めて見た。なんで、そんなに不安な表情するの? てか、私と付き合うことに何一つ、メリットなんてないよ。クラスでは根暗扱いだし、地味な方だし、それに人の心を勝手に聞こえてしまうし。
 あ、だけど、なんで私、今日もカノウの心の中の声、聞いてないんだろう。今は、そんなこといいや。

 そう、その表情はあたっているよ、だって、私はまだ――。

「心の準備、できてないよ。――なんで私なの?」
「そんな悲しいこと言うなよ。俺はエリイに惹かれた。ただ、それだけだよ」
「なんで……」と私は本当によくわからなかくなった。仮にカノウと付き合ったとして、一体、何になるんだろう。カノウをもう一度、見ると、カノウは少なくとも、からかってはいなさそうな表情をしていた。こう言うとき、心の声が聞こえたら、楽なのに、なんでカノウの心の声は聞こえないんだろう。





☆「ねえ、だけど、君のことは忘れないよ」――君が記憶を取り戻したら、 きっと一緒にはいられない


 ❣️恋する人 リリ ↔︎ ハツミ 
 ❣️シーン 魔女が存在する世界で、リリは1週間おきに記憶がリセットされる呪いをかけられたことをハツミに伝える



 リリのショートボブが風で弱く揺れた。リリの呪いは毎週、金曜日。1週間おきに記憶がリセットされる呪いらしい。

「ねえ、だけど、ハツミくんのことは忘れないよ。――きっと」
「うん、信じてるよ」
「こうやって、ずっと居れるように努力するね」
 今日は木曜日だ。憂鬱だ。
「はやく呪いが解けるといいね」
 僕はそう言って、微笑もうと思ったけど、きっと自分が思っているより上手くいっていない、引きつった表情になっている気がした。
 だけど、リリはそれをひっくるめて、僕に精一杯、微笑みをくれた。





☆「人なんて、みんな強く生きれないよ」――壊れる君と思い出が作りたかった


 ❣️恋する人 イサム ↔︎ メル
 ❣️シーン 偶然、イサムの余命ノートを見たことで、恋が始まる




「人なんて、みんな強く生きれないよ」
 イサムさんは慣れた手つきで缶のコーラを開けた。炭酸が抜ける涼しい音がしたけど、すでに11月の半ばで、夏の暑さの記憶なんて忘れてしまっていた。学校の屋上から、一望する街は今日も夕日でキラキラと輝いている。

「だけど――」
「だけどなんてないよ。メル」
 イサムさんが微笑むと風が吹いた。その風でイサムさんの髪が弱く揺れた。髪は肩まで着くくらいロングだ。そして、パーマがかかっているから、アンニュイな印象を受ける。
「そんな萌え袖するなよ。セーター伸びるよ」
 私はそう言われて、急に顔が赤くなるのを感じた。手すりから手を離して、両手をスカートのポケットに突っ込んだ。






☆「手を繋いで走るんだよ。こうやって」――君の闇を切り刻みたい


 ❣️恋する人 綾香(あやか) ↔︎ 玲汰(れいた) 幼馴染
 ❣️シーン 玲汰が、夢のことを話して、綾香に告白しようとする10秒前




「なあ。最近、変な夢、見るんだ」
「夢?」
「逃げるんだよ。得体の知れない怪獣から」
「へえ。――大変そう」と綾香は興味がなさそうな声で、そう言った。だけど、僕は構わずに進めることにした。
「手を繋いで走るんだよ。こうやって」
 僕はそっと右手を綾香の左手に乗せたあと、手を繋いだ。夢で感じたよりも柔らかくて冷たい感触がした。綾香と目が合った。綾香は驚いたような表情をしていた。

「――玲汰、そのあとは?」
「残念だけど、逃げて終わり」
「へえ。――つまらないね」
「だろ? ――なんかさ、ずっとこうしたいな」
「これしかしてくれないの?」
「え?」
「それだったら、バカでしょ」と綾香はそう言って、コーラをもう一口飲んだ。だから、僕もコーラをもう一口飲んだ。



☆「30歳まで相手がいなかったらってヤツ?」――君の闇を切り刻みたい


 ❣️恋する人 綾香(あやか) ↔︎ 玲汰(れいた) 幼馴染
 ❣️シーン 高校からの帰り道、漠然とした未来の話から、幼馴染同士で結婚の話になる




「ねえ」
「なに?」
「私、このまま、こんなところに暮らしてたら、きっと結婚もできないよね」
「そうかもね。出会いもないからな」
「そうなったらどうしてくれる?」
「え、俺?」と僕はびっくりして思わず綾香に聞き返した。
「そうでしょ。玲汰しかいないでしょ」

 綾香がそう言ったあと、すごいスピードでトラックが僕たちを抜き去っていった。甲高くてうるさい音と一緒に余計な風圧を受けた。その風は向かい風で、少しだけ自転車の速度が落ちた。

「――30歳まで相手がいなかったらってヤツ?」
「――違うよ。バカ。もういいよ」と綾香は冷たい声でそう言って、会話が途切れた。





☆ 「いかないで」――眠った君を目覚めさせたかった


 ❣️恋する人 花乃(かの) ↔︎ 僕
 ❣️シーン 研究施設から救い出し、10年ぶりに目覚めた花乃と僕は海を歩いている




 「――いかないで」
 風が弱く通り過ぎ、辺りは僕と花乃だけ、瞬間冷凍されたような世界だった。
 僕は立ち止まった。

「――どこにも行かないよ。ずっとようやく二人になれたんだ」
「ねえ、私のこと待てる?ずっと幼いと思ってるでしょ。私だって、幼さを感じてて、でも、それを取り返すにはどうすれまいいのか全くわからないの」
「急ぐ必要はないよ。時間が解決してくれるよ。俺はただ、この10年間が虚しくて、やるせなかっただけだ」
「その10年の差が私には大きいの。大きくて辛いよ」
「仕方ないだろ。もともと、こうなることはわかってたんだ。気の毒だけど」
「なんで、君はいつもそうやってクールなの。なんで私から距離を取ろうとするの。これは私とあなたの問題でしょ。私を切り離さないでよ」
 花乃は大粒の涙を流しながら、埠頭に響き渡るくらい大きな声で叫んだ。

「ごめん。悪かった」
 僕は花乃の方に歩み寄り、花乃を抱きしめた。花乃は声を出して、泣き始めた。わざとらしく感じるくらい、激しく泣いている。僕はなにか忘れていたような気がした。
 それは遠い過去のことで、モノクロームに隠れてしまうような淡さが感情の記憶として残っているだけだった。






☆「もし、私が先にいなくなっても忘れないでね」――ずっと一緒に生きていたいな


 ❣️恋する人 ハナ ↔︎ ヨル
 ❣️シーン 意識を失い、青い世界で出会ったハナとの別れのシーン




「ありがとう、ヨル。ずっと一緒に生きていたかったな。もし、私が先にいなくなっても忘れないでね」

 ハナは忘れられないくらい、優しく微笑んでいた。僕は痛みの中でも、ハナになにかしたいと強く思ったから、微笑み返すことにした。そのあとすぐに、バスのドアが閉まり、そして、バスは僕を乗せないで、遥か彼方へ行ってしまった。

 ひとり残された僕は、しばらくバス停の前でかがみこんだままだった。
 「ずっと一緒にいきていたかったよ。僕も」 

 そのまま、僕は頭の痛みに負け、横向きに倒れた。頭を地面に打ったあと、自然に瞼が落ちてきた。
 最後に見えたのは、青白い地平線だった。
 
 最後の光景は、ハナだったらよかったのに。





☆「君が存在しないとつらすぎるよ」――君はもう、存在しない


 ❣️恋する人 (すみ) ↔︎ (ひじり) 友達以上恋人未満
 ❣️シーン タイムスリップをし終わり、記憶をなくしても再会を約束した。聖は待ち合わせ場所で澄を待つ



やっぱり、俺は3年前の6月3日、『君はもう、存在しない』なんてことを言ってないで、素直にさっきみたいに告白をすればよかったんだ。タイムスリップしてわかったことは澄を失いたくないってことだった。俺は澄がいたら、もっと、自分らしく尖った配信をせずに穏やかに暮らしていたのかもしれない。
 澄はそのことをたった8時間で俺に教えてくれたような気がする。

 もう一度、iPhoneの画面をタップした。
 11時17分。

 ぐるぐると5分以上、考えたことを何度も何度も考え続けるこの時間が、ものすごく長く感じる。

 澄が住む街から来る電車がホームに入ってきて、俺のTシャツの裾が風で揺れた。ドアが開く音がして、降りてきた客の足音が無数にする。両手で頭を抱え込み、両手で髪をわしゃわしゃと乱したあと、ため息を吐いた。

「澄、君が存在しないとつらすぎるよ」
 誰にも聞こえないように言ったつもりだった。

「私もだよ」
 思わず顔をあげるとそこには、さっき会ったときよりも大人になった君がいた。






☆「君は一人じゃない」――君はひとりじゃないよ。元気でいてね


 ❣️恋する人 蒼也(そうや) ↔︎ (すい) 恋が始まりそうな瞬間
 ❣️シーン 学校が憂鬱でさぼってしまったふたりがお互いを励ましているところ




「君は一人じゃない」
 急に言い切られて、また、私はカフェを出た時と同じくらい、胸がドキドキし始めた。そして、急に顔が熱くなるのを感じた。別に告白されているわけでもないし、何かが始まっているわけでもない。ただ、まだ七月が始まった世界の爽やかな朝が続いているだけなんだ。
 別に私は一人だっていい。
 私は別に――。

「――ねえ。私を助けるって、ただ、私を待ち伏せして、話しかけるってことだったの?」
「いや、違う」
「じゃあ、どういうこと?」
「――間接的だけど、気にかける人間はいたってことを伝えたかっただけだよ」
 蒼也を見ると、蒼也の頬がだんだんと、赤くなっているように見えた。

「ごめん。客観的に考えたら、結構、変なことしてるし、変なこと言ってる自覚あるな。余計なことするなよって感じだよな。翠ちゃんにしたら」
「――私のことばっかり知ってて、ずるいよ」
「だよな。勝手に僕が思い上がってただけだったな」
「――いや、違うよ」
「えっ」
 蒼也が驚いた表情をしたから、蒼也をじっと見つめたあと、

「もう、一人じゃない証明をして」
 そう返したら、蒼也はゆっくりと私のことを抱きしめてくれた。