「呼んでる」
「え?」
「だから」
ん、とクラスメイトがあごで教室のドアを指す。そこにはこちらのようすを窺う美桜がいて、俺と目が合うなりぱっと表情を明るくした。
俺に素っ気なく話しかけてきたクラスメイトの末藤は、どうやら彼女から俺を呼ぶよう頼まれたらしい。
まだホームルームもしていない朝の教室。入ってはいけないという校則はないのだけど、先輩の教室に入るのはやはり勇気がいるのだろう。こっちから出向いた。
「どうしたの?」
「ごめんなさい。忙しかったですか?」
「暇してたよ」
「よかった」
美桜は、今日は髪を下ろしている。鎖骨あたりまでまっすぐに伸びていて、毛先がくるんと外に跳ねている。
髪を結んでないだけで女性は印象が変わると思っていたが、美桜にかぎっていえば、鈴が鳴るような凜とした雰囲気を一層強めるばかりだ。
なんとなくじっと見ていると、「朝時間がなくて。あまり見ないでください」と言われてしまった。
「それで、なに?」
「兄ちゃんと話せたかなと思って」
「清瀬から聞いてないの?」
「最近、引っ越しの準備で忙しいみたいで、あんまり話できてないんですよねえ」
「そうなんだ。話はしたけど、成果はなにもなかったよ」
「んー、頑固ですね。うちの兄ちゃん」
美桜は腕を組んで、難しい顔をしている。
俺としては、それよりもクラスの目が気になった。
後輩女子に訪ねられる転校生。手が早いだとか、調子に乗ってるだとか、思われてるんじゃないだろうか。
どう噂が立とうとも構わないけれど、平穏な残りの学校生活を守るには刺激を与えないほうがいい。わかりきっている。
それに、俺へのイメージは、こうして関わってしまっている美桜にもそのまま影響するわけで……。
「ごめん。あまりクラスには来ないでもらえる?」
「えっと……、そうですよね。迷惑ですよね」
「迷惑じゃないよ。そうじゃなくて。俺、けっこう悪目立ちしてるんだよね」
「そうなんですか? 転校生だから?」
「そんなとこかな。だから、なにかあればラインして」
「わかりました」
自分の席に引き返すとき、教室の中を見られなかった。
横目でも視界に入らないよう壁を見ながら歩き、そうして席に着くと、末藤をはじめとしたクラスメイトが五人、俺のまわりを囲った。
正確には窓側には誰もいないので、逃げ場を絶ってきた。
「ちょっといい? ずっと言いたかったことがあるんだけど」
相変わらず、末藤の物言いはぶっきらぼうだった。
清瀬と話しているときは声がでかくてひょうきんそうなのに、俺を視界に入れる目は冷たい。
「流楓の誘いを断ってくれね?」
あまり俺と話したくないらしい。短く用件を伝えてきた。
要点をまとめたつもりなんだろうけど、必要な部分を端折りすぎて伝わらなかった。
「誘いって?」
「昼休みとか放課後とか、誘われてるだろ」
「ああ、うん」
「おまえが断ってくれねえと、流楓はいつまでもこっちの誘い受けてくれねえんだよ」
「わかった……けど。それ、清瀬にも言ったら?」
「言ってるよ。でも、いつもはぐらかされるんだよ。転校するまで時間がねえってのに。……ほんと面倒くせえ時期に来たよな」
後半のほうは、ほとんどひとり言のようだった。声のでかいひとり言。
末藤の失言に、となりにいたメガネの男子がひじで末藤の横っ腹をつつく。が、末藤は「なんだよ」とイライラを増長させるだけだった。
舌打ちをかまして「とにかく」と言葉を続ける。
「ひとりじめするなって話」
「だからそれ、清瀬に言えよ」
戻ろうと背中を向けた末藤を、俺のその言葉が引き止めた。
まるで他人事の言うけど、まるで他人事のようだった。引き止めるつもりも言い返すつもりもなく、気がつけば言葉をぶつけていた。
「俺に言われても困るんだけど。こっちだって好きでこの時期に来たんじゃねえよ」
むかっ腹が収まらない。
むくむくと怒りがこみ上げるのに合わせて、体中の血が頭にのぼっていくのがわかり、それをむりに抑えようとすると言葉が止まらなかった。
「予定どおり四月に来たって、同じことが起こったらどうせ同じようにつっかかってきただろ。思い通りにならないからって、俺に当たるなよ。誘いを断ってるのは清瀬の意思だろ!」
ガタン――。
椅子が背もたれから床に倒れて、机が激しく壁にぶつかった。末藤が俺の胸ぐらを掴んでいる。
「おまえになにがわかるんだよ! たかが数日いっしょだっただけで、部外者がでしゃばってくんな!」
末藤の叫び声が静寂をもたらした。
しーんと静まり返る教室。廊下から流れてくる他クラスの喧噪が、世界の断絶を後押しするかのようにむなしくさせる。熱くなっていた頭が、一気に冷めていくのがわかった。
そんなときだった。
「おはよう」
断絶する世界をつなぐ光の声が登校してきたのは。
教室中の視線が一斉に同じ方向を向く。
「あれ……。なにこの空気?」
教室に二つある、俺の席からは対角のドアに清瀬が立っていた。異様な空気を察したのか、上げた手をどうすればいいのかと迷わせている。
末藤が手を離して、ドア付近にいたクラスメイトが「おはよう、流楓」とあいさつに答える。
たったそれだけで、今までの空気が嘘のように教室は日常を取り戻した。
俺は椅子と机を直し、座る。
「悪かったな。冷静に話すつもりだったんだけど」
去り際、末藤の横っ腹をつついた秋保がメガネを正し、そう残した。
こっちも、ついカッとなって言い返してしまったけど、末藤たちの言っていることはもっともだ。
残りわずかな時間を一分一秒たりとも無駄にしたくないという気持ち。別れを前にしてそう思えるのなら、これまで良い関係を築けていたのだろう。
クラスメイトの一途な想いも、別れを意識しないでいつもどおり過ごしたいという清瀬の願いも、誰にも否定できない。
別れは一人だけのものじゃない。
一人じゃできないのだ。
*
放課後になると、清瀬が「三角」と声をかけてきたけど、「急いでるから」と答えて教室を飛び出した。
末藤たちに譲ったわけではなかったが、清瀬を遠ざけたと言われたら、そうなんだろうと思う。
昇降口を抜けたところで、友達と話している美桜と出くわした。
「先輩、今日は一人ですか?」
「うん」
「いっしょに帰りませんか? 荷物すぐ取ってくるんで」
友達のほうはテニス部のジャージを着ていて、美桜は制服姿で、ゴミ箱を持っている。
帰るところではなかったようだけだけど、俺を見つけるなり会話を切り上げた。
帰り道。陽がじりじりと照りつけ、少し歩いただけで汗だくだ。
シャツが肌にこびりついて気持ち悪いし、左足もなんだか重い。
「今日もてっきり兄ちゃんといっしょなのかと思ってました」
「毎日いっしょってわけじゃないよ」
「そうなんですか」
ふーんといった感じでつぶやいて、ふと、立ち止まって振り返る美桜。
「先輩、歩くの遅くないですか?」
「ごめん。まだうまく歩けなくて。事故の後遺症が……」
「事故?」
「ここに来る前、交通事故に遭ってね。三ヶ月くらい入院して」
無意識に左足をさすっていた。
事故に遭ったのは、引っ越そうとしたその前日だった。車の追突事故に巻き込まれて病院に運ばれ、すぐに意識は覚めたものの最初はまったく左足が動かなかった。
両親や友達、医者、理学療法士。たくさんの人に助けてもらいながらリハビリして治った。
けれど、まだ左足を庇ってしまうくせが抜けなくて、クツを履くのですら慎重になってしまう。体育では激しい運動をするのが怖くて見学させてもらっている。
こうして女子と歩いていても置いていかれてしまう。
「そうだったんですね。ごめんなさい」
「説明しなかった俺が悪いよ」
美桜は申し訳なさそうに俺のとなりに並ぶと、ゆっくり行きましょうと言って、歩きだした。
「こんな時期に転校してくるの変だなと思ってました」
「誰にも聞かれなかったし。清瀬は最初から知ってたみたいだから、クラスには先生が説明してたのかもしれないけど」
「ていうか、わたし早歩きなの忘れてました。脚が長くて歩幅の大きい兄ちゃんにも、ふつうに合わせられるんですよね」
美桜が自虐するように苦笑を浮かべた。
そういえば、清瀬とは並んで歩けていたな。初めていっしょに帰った日も、学校にいるときも、清瀬が俺を置いていくことはなかった。
「…………」
今度は俺が立ち止まる番だった。
そうだ。清瀬といて、一度も置いていかれたことがない。歩くのが速いと思ったこともないし、あたりまえのように並んで話していた……。
「どうしたんですか、先輩」
ふいに心の底からこみ上げるものがあって、思わず手で顔を覆った。
知らないうちに受けていた心遣いの光景が呼び覚まされる。
並んで歩いて帰った日、歩く速度を頭にたたき込むように、時折足もとに視線を落とす清瀬。階段をのぼるときには、二人三脚のように脚を出すタイミングを揃えていた。
まわりが急げ急げとなっても、「よゆーよゆー」とか言ってペースを維持する。マイペースなやつだな、とか思っていたけど。
それらは、あたりまえなんかじゃなかった。
俺があたりまえに感じられるよう、清瀬があたりまえを守ってくれていたんだ。
今になって末藤たちの気持ちが痛いほど伝わってくる。
別れがくるその瞬間まで、一分一秒たりとも無駄にしたくない。そう思うのは末藤たちだけじゃない。
俺もいっしょだった。
「え?」
「だから」
ん、とクラスメイトがあごで教室のドアを指す。そこにはこちらのようすを窺う美桜がいて、俺と目が合うなりぱっと表情を明るくした。
俺に素っ気なく話しかけてきたクラスメイトの末藤は、どうやら彼女から俺を呼ぶよう頼まれたらしい。
まだホームルームもしていない朝の教室。入ってはいけないという校則はないのだけど、先輩の教室に入るのはやはり勇気がいるのだろう。こっちから出向いた。
「どうしたの?」
「ごめんなさい。忙しかったですか?」
「暇してたよ」
「よかった」
美桜は、今日は髪を下ろしている。鎖骨あたりまでまっすぐに伸びていて、毛先がくるんと外に跳ねている。
髪を結んでないだけで女性は印象が変わると思っていたが、美桜にかぎっていえば、鈴が鳴るような凜とした雰囲気を一層強めるばかりだ。
なんとなくじっと見ていると、「朝時間がなくて。あまり見ないでください」と言われてしまった。
「それで、なに?」
「兄ちゃんと話せたかなと思って」
「清瀬から聞いてないの?」
「最近、引っ越しの準備で忙しいみたいで、あんまり話できてないんですよねえ」
「そうなんだ。話はしたけど、成果はなにもなかったよ」
「んー、頑固ですね。うちの兄ちゃん」
美桜は腕を組んで、難しい顔をしている。
俺としては、それよりもクラスの目が気になった。
後輩女子に訪ねられる転校生。手が早いだとか、調子に乗ってるだとか、思われてるんじゃないだろうか。
どう噂が立とうとも構わないけれど、平穏な残りの学校生活を守るには刺激を与えないほうがいい。わかりきっている。
それに、俺へのイメージは、こうして関わってしまっている美桜にもそのまま影響するわけで……。
「ごめん。あまりクラスには来ないでもらえる?」
「えっと……、そうですよね。迷惑ですよね」
「迷惑じゃないよ。そうじゃなくて。俺、けっこう悪目立ちしてるんだよね」
「そうなんですか? 転校生だから?」
「そんなとこかな。だから、なにかあればラインして」
「わかりました」
自分の席に引き返すとき、教室の中を見られなかった。
横目でも視界に入らないよう壁を見ながら歩き、そうして席に着くと、末藤をはじめとしたクラスメイトが五人、俺のまわりを囲った。
正確には窓側には誰もいないので、逃げ場を絶ってきた。
「ちょっといい? ずっと言いたかったことがあるんだけど」
相変わらず、末藤の物言いはぶっきらぼうだった。
清瀬と話しているときは声がでかくてひょうきんそうなのに、俺を視界に入れる目は冷たい。
「流楓の誘いを断ってくれね?」
あまり俺と話したくないらしい。短く用件を伝えてきた。
要点をまとめたつもりなんだろうけど、必要な部分を端折りすぎて伝わらなかった。
「誘いって?」
「昼休みとか放課後とか、誘われてるだろ」
「ああ、うん」
「おまえが断ってくれねえと、流楓はいつまでもこっちの誘い受けてくれねえんだよ」
「わかった……けど。それ、清瀬にも言ったら?」
「言ってるよ。でも、いつもはぐらかされるんだよ。転校するまで時間がねえってのに。……ほんと面倒くせえ時期に来たよな」
後半のほうは、ほとんどひとり言のようだった。声のでかいひとり言。
末藤の失言に、となりにいたメガネの男子がひじで末藤の横っ腹をつつく。が、末藤は「なんだよ」とイライラを増長させるだけだった。
舌打ちをかまして「とにかく」と言葉を続ける。
「ひとりじめするなって話」
「だからそれ、清瀬に言えよ」
戻ろうと背中を向けた末藤を、俺のその言葉が引き止めた。
まるで他人事の言うけど、まるで他人事のようだった。引き止めるつもりも言い返すつもりもなく、気がつけば言葉をぶつけていた。
「俺に言われても困るんだけど。こっちだって好きでこの時期に来たんじゃねえよ」
むかっ腹が収まらない。
むくむくと怒りがこみ上げるのに合わせて、体中の血が頭にのぼっていくのがわかり、それをむりに抑えようとすると言葉が止まらなかった。
「予定どおり四月に来たって、同じことが起こったらどうせ同じようにつっかかってきただろ。思い通りにならないからって、俺に当たるなよ。誘いを断ってるのは清瀬の意思だろ!」
ガタン――。
椅子が背もたれから床に倒れて、机が激しく壁にぶつかった。末藤が俺の胸ぐらを掴んでいる。
「おまえになにがわかるんだよ! たかが数日いっしょだっただけで、部外者がでしゃばってくんな!」
末藤の叫び声が静寂をもたらした。
しーんと静まり返る教室。廊下から流れてくる他クラスの喧噪が、世界の断絶を後押しするかのようにむなしくさせる。熱くなっていた頭が、一気に冷めていくのがわかった。
そんなときだった。
「おはよう」
断絶する世界をつなぐ光の声が登校してきたのは。
教室中の視線が一斉に同じ方向を向く。
「あれ……。なにこの空気?」
教室に二つある、俺の席からは対角のドアに清瀬が立っていた。異様な空気を察したのか、上げた手をどうすればいいのかと迷わせている。
末藤が手を離して、ドア付近にいたクラスメイトが「おはよう、流楓」とあいさつに答える。
たったそれだけで、今までの空気が嘘のように教室は日常を取り戻した。
俺は椅子と机を直し、座る。
「悪かったな。冷静に話すつもりだったんだけど」
去り際、末藤の横っ腹をつついた秋保がメガネを正し、そう残した。
こっちも、ついカッとなって言い返してしまったけど、末藤たちの言っていることはもっともだ。
残りわずかな時間を一分一秒たりとも無駄にしたくないという気持ち。別れを前にしてそう思えるのなら、これまで良い関係を築けていたのだろう。
クラスメイトの一途な想いも、別れを意識しないでいつもどおり過ごしたいという清瀬の願いも、誰にも否定できない。
別れは一人だけのものじゃない。
一人じゃできないのだ。
*
放課後になると、清瀬が「三角」と声をかけてきたけど、「急いでるから」と答えて教室を飛び出した。
末藤たちに譲ったわけではなかったが、清瀬を遠ざけたと言われたら、そうなんだろうと思う。
昇降口を抜けたところで、友達と話している美桜と出くわした。
「先輩、今日は一人ですか?」
「うん」
「いっしょに帰りませんか? 荷物すぐ取ってくるんで」
友達のほうはテニス部のジャージを着ていて、美桜は制服姿で、ゴミ箱を持っている。
帰るところではなかったようだけだけど、俺を見つけるなり会話を切り上げた。
帰り道。陽がじりじりと照りつけ、少し歩いただけで汗だくだ。
シャツが肌にこびりついて気持ち悪いし、左足もなんだか重い。
「今日もてっきり兄ちゃんといっしょなのかと思ってました」
「毎日いっしょってわけじゃないよ」
「そうなんですか」
ふーんといった感じでつぶやいて、ふと、立ち止まって振り返る美桜。
「先輩、歩くの遅くないですか?」
「ごめん。まだうまく歩けなくて。事故の後遺症が……」
「事故?」
「ここに来る前、交通事故に遭ってね。三ヶ月くらい入院して」
無意識に左足をさすっていた。
事故に遭ったのは、引っ越そうとしたその前日だった。車の追突事故に巻き込まれて病院に運ばれ、すぐに意識は覚めたものの最初はまったく左足が動かなかった。
両親や友達、医者、理学療法士。たくさんの人に助けてもらいながらリハビリして治った。
けれど、まだ左足を庇ってしまうくせが抜けなくて、クツを履くのですら慎重になってしまう。体育では激しい運動をするのが怖くて見学させてもらっている。
こうして女子と歩いていても置いていかれてしまう。
「そうだったんですね。ごめんなさい」
「説明しなかった俺が悪いよ」
美桜は申し訳なさそうに俺のとなりに並ぶと、ゆっくり行きましょうと言って、歩きだした。
「こんな時期に転校してくるの変だなと思ってました」
「誰にも聞かれなかったし。清瀬は最初から知ってたみたいだから、クラスには先生が説明してたのかもしれないけど」
「ていうか、わたし早歩きなの忘れてました。脚が長くて歩幅の大きい兄ちゃんにも、ふつうに合わせられるんですよね」
美桜が自虐するように苦笑を浮かべた。
そういえば、清瀬とは並んで歩けていたな。初めていっしょに帰った日も、学校にいるときも、清瀬が俺を置いていくことはなかった。
「…………」
今度は俺が立ち止まる番だった。
そうだ。清瀬といて、一度も置いていかれたことがない。歩くのが速いと思ったこともないし、あたりまえのように並んで話していた……。
「どうしたんですか、先輩」
ふいに心の底からこみ上げるものがあって、思わず手で顔を覆った。
知らないうちに受けていた心遣いの光景が呼び覚まされる。
並んで歩いて帰った日、歩く速度を頭にたたき込むように、時折足もとに視線を落とす清瀬。階段をのぼるときには、二人三脚のように脚を出すタイミングを揃えていた。
まわりが急げ急げとなっても、「よゆーよゆー」とか言ってペースを維持する。マイペースなやつだな、とか思っていたけど。
それらは、あたりまえなんかじゃなかった。
俺があたりまえに感じられるよう、清瀬があたりまえを守ってくれていたんだ。
今になって末藤たちの気持ちが痛いほど伝わってくる。
別れがくるその瞬間まで、一分一秒たりとも無駄にしたくない。そう思うのは末藤たちだけじゃない。
俺もいっしょだった。



