無能の鬼姫〜最強次期当主様との出逢い〜

1章

鬼龍院家
それは、あやかしの世界で有名な一族。
あやかしの中でも更に強大な力と能力を持ち、あやかし界最強とも言われていた栄誉ある一族。

私はそんな一族の双子の姉として生まれたが私には生まれながらに霊力がなかった。
代わりに妹が莫大な霊力を持って生まれてきた。
現当主である父は私を「無能」と呼び、存在を無視した。
逆に妹はその莫大な霊力を期待され、両親だけでなく一族の者からそれはそれは大切にされてきた。
唯一、味方だったのは私の母だけだった。
しかし、そんな優しい母も私が幼少期の頃に流行り病で亡くなった。
亡くなる前に母はこんな言葉を残した。
「玲花.....貴方は...」
でも、この後の言葉を言う前に母は亡くなってしまった。
それ以降、私は孤独に過ごしてきた。


そして今日は私の十歳の誕生日。
「誕生日おめでとう!薫」
「ありがとう。お父さん、お母さん」
私の隣で嬉しそうな笑みを浮かべる女の子は私の双子の妹の薫。
薫は私とは似ても似つかず莫大な霊力を持ち合わせてこの世界に生まれてきた。
そんな一族の希望の光である薫は一族の栄光としてそれはそれは大事に育てられてきた。
一方の私は、霊力がなく一族の汚点として嫌われ存在を消され続けている。
そこに居るはずなのに見えない。まるで透明人間にでもなったかのように・・・
でも、昔は今以上に苦しくはなかった。それは母が居てくれたからだ。
家族も親戚も私を嫌う中、母だけが私の味方でいてくれた。                                   存在を無視したり、嫌味を言ったりなど私にはされて当然されるべき事を絶対にしなかった。
誕生日も昔は母に祝ってもらえた。しかし、その優しき母はもう居ない。

代わりに今、父の隣に座っているのは血の繋がりのない継母だった。
彼女はいつも私を無能として嫌い、現当主の妻の名を使い、家事を押し付ける。
私は、父や継母、妹だけでなく親戚を含めた一族に嫌われ虐げられている。
私は、誰からも必要とされていない存在。
その事実が私の心を苦しめる。
いつからだっただろうか。私の世界からは光が消え去って暗闇の中で生きるようになったのは。
いつも幸せそうな家族の姿を遠くから見守るだけ。
私はここに居ても邪魔な存在。生まれてくるべきではなかった不要な存在。
だから、今日も誰にも気付かれないように音を立てないように部屋を出る。
自分の部屋に入ってからやっと思うように呼吸が出来るようになった。
私の部屋には必要最低限のものしか無い。
傷だらけの痛んだ机に、ペラペラの布団だけ。
寒い部屋に独りぼっち。
これからも私は誰にも必要とされず愛されずに死んでいく。
これが現実で生まれながらに決められた運命(さだめ)だ。
「誰か...私を、生きてて良いって言って」
そんなことを言っても誰も私を助けてくれない。
無能には生きる価値もない。
だから、悲しみを紛らわすために下手な笑顔を貼り付ける。
「もう、疲れたなっ」
生きていても、虐げられる日々を永遠に過ごすだけ。
誰からも必要とされていないのに生きている意味があるのだろうか。
どうせ、私が死んでも.....悲しむ人なんて一人もいない。

「そんなことはない。私が必要としている。」

(えっ...誰?)

部屋に響き渡る優しい謎の声。
でも、ここには私一人しか居ないはずなのに。
それに辺りを見回しても誰も居ない。しかし、声だけは聴こえる。
「大丈夫だ。君にはもうすぐ、運命の出逢いが訪れる」
「貴方は...誰なの?」
知らない誰かに問いかけてみるも反応がない。
それ以降、その人の声は聴こえなかった。
「私の気のせい?」
日々の疲労が蓄積して、幻聴が聞こえたのかもしれない。
でも、その知らない誰かの優しい声が嬉しかった。
それからというもの苦しい日々を耐え続けてきた。
あの知らない声の言葉を信じて。
昔よりも良かったのは家族からの嫌がらせの内容が良くなったことだった。
それもあの声が聞こえてから...
もしかしたらあの声は神様の声だったんじゃないかと思う時がある。
そんなわけないのに...
それでも私はあの謎の声に感謝している。
あの声のお陰で私は生きてみようと頑張れるようになった。
家には私の味方が誰ひとり居なかったから。
だからこそ私なんかのことを心配してくれたあの声にいつも救われていた。

それから五年の月日が流れた。
「今日から私も、高校生に...」
――視界に入るのは、透き通るような青空と、舞い散る桜の花びら。
 今日から始まる新しい生活に、私はぎゅっと制服のスカートを握りしめた。
あれからも私は無能として生きてきた。
そんな私は今日、高校生になった。
でも、まさかあのエリート学園として名高いエトワール学園に入学できるなんて思ってもいなかった。

エトワール学園
それは日本屈指の名門校。
この学園の特徴は強い霊力を持つ人間とあやかしが共に通う世界でも数少ない学園であること。
本来、人間とあやかしが関わることはない。
しかしこの学園は日本で唯一、人間とあやかしが通うことを許された。
ここには沢山の強いあやかしもいると聞いたことがある。
だからこそ、不安なことがある。
それは、私の噂を知っていて虐められるかもしれないこと。
この学園には私だけでなく妹の薫も通うことになっている。
その為、薫が私を虐めてくるかもしれない。元々、薫は私のことを嫌っていたから。
(……大丈夫。目立たないように、静かに過ごせばいいんだから)
自分に言い聞かせるけれど、胸の奥はチリチリと痛む。
せめて誰か一人でも友達ができたらいいな。
なんて、我儘なお願いね。
「どうか、この3年間...平穏な学園生活を送れますように」
小さな声で神頼みをしながら教室へ向かう。

学園の中に入るとその豪華な装飾に驚く。流石、日本随一の名門校。
まるで西洋のお城の見た目に荘厳な佇まい。まるで時間が止まったような美しさに息を呑む。
その美しさに胸が踊りながら教室に向かう。
この学園では主に3つのクラスに分かれている。
霊力が他のあやかしよりも高く成績優秀が集うAクラス
霊力が基準値でほとんどのあやかしが入るBクラス
霊力がほとんど無く、落ちこぼれと呼ばれるCクラス
私は勿論、Cクラス。
周りにいるAクラスの生徒たちを見ると皆、霊力が高い。
辺りを見ながら教室に向かう途中、生徒たちの声が聞こえた。
「見て...あの子、霊力が無い。」
「本当だ。もしかして、噂の鬼龍院家の落ちこぼれじゃない?」
「えっ、そんな無能がこの学園に来る意味ある?」
数多く聴こえる悪意ある声。その声が耳をかすめた瞬間、心の深淵に悲哀の滴が波紋を広げ、胸が張り裂けそうな切なさに包まれる。
やっぱり無能には愛される権利すら無いのだろうか。
「ここがCクラス?」
教室に着き中に入ってみると広い教室とは裏腹に生徒はたったの数人程しか居ない。
おかしいと思うかもしれないがこれが普通なのだ。
本来、あやかしの殆どは霊力を持って生まれてくる。
寧ろ、霊力が無かったり僅少なほうが珍しいとも言われている。
「あれって、鬼龍院家の無能じゃ...」
「本当だ。霊力が無いなんて...」
どうやら私の噂はCクラスにまで広がっているようだ。
声が聞こえないふりをして、席に座る。
少ししてから教室に担任が来た。
「皆さん。入学おめでとうございます」
「自己紹介は各自で。先生は落ちこぼれの相手をするような時間が無いのでこれで失礼します」
教師と思えない冷たい発言を残して出ていった担任。
そのぞんざいな担任の態度に生徒から悔しそうな悲しそうな声が聞こえた。
「教師なのにあの態度は酷くない?」
「仕方ないよ。あの担任が言うように私達は落ちこぼれで存在価値がないんだから」
私はこの世の中の身勝手さに怒りを覚えた。
どうして霊力が無いというだけで幸せになることが許されないのだろうか。
いくら考えても、納得のいく答えに辿り着かなかった。
「私の名前は鬼龍院 玲花です。皆さん、これからよろしくお願いします」
担任が居なくなり私達は各々、自己紹介を始めた。
そして、私の名前を聞いた全員が予想通りの反応をした。
「やっぱり...あの有名な鬼龍院族の落ちこぼれ」
「でも、良かった。自分よりも落ちこぼれな人がいると安心」
「分かる!本人の前で言うのもなんだけど、事実だしね」
どうやら皆さん、かなり緊張していたらしい。
自分よりも落ちこぼれが居ると知り、心底嬉しそうだ。
その姿を見てクラスメイトとも仲良くできないのかなと思い胸が痛む。
「あのっ、皆さん...そんなこと言うのはやめましょう。同じクラスなんだから仲良くしましょうよ」
私の話で盛り上がっていた時、今の状況を制する小さな声が聞こえた。
後ろを振り返ると水色の髪と瞳を持つ可愛らしい少女がいた。
(可愛いっ)
私は心の中の本音が出てきてしまいそうだった。
でも、そのくらい彼女は可愛らしい。
私が見惚れているとその子に向かって数人が近づいた。
さっき、私の悪口を言っていた人達だ。
「何?ノリ悪すぎるんですけど〜」
「事実なんだし良いじゃん!」
「いい子ちゃんぶって。気持ち悪っ」
「...っ。ごめんなさい」
私の為に止めてくれたのに。私のせいで怒られてしまっている。
私はその中に割って入った。
「皆さん、私のせいですみません」
先程、私の悪口を言っていた子達に謝ってから止めてくれた少女の手を引く。
直ぐに話したかったが空気が悪いため一旦教室に出た。
そして、先程の子達が着いてきていないことを確認して少女に話す。
「こんにちわ。少しだけお話しても良いかしら?」
私の声にこくこくと可愛く首を縦に振る彼女。
本当に可愛らしい子だ。
「さっきはありがとう。嬉しかったわ」
私が先程のお礼をすると彼女の目が輝き、一気に笑顔になる。
「いいえ。私は当たり前のことをしたまでで...」
たどたどしく言う彼女はまるで小動物みたいだった。
彼女の微笑ましい行動に顔が緩んだ。
「あのっ、私...雪乃 冬美と申します」
突然、自己紹介を始めた彼女。
驚きながらも私も自己紹介をする。
「知っている人が多いと思うけど...私は鬼龍院 玲花。鬼龍院の落ちこぼれって言われているの」
「あっ、そうなんですね。だから...そのっ、霊力が無かったんですね」
彼女は自己紹介を聞いていなかったのか困惑した様子だった。
そして、彼女...冬美はおどおどしながら口をパクパクしていた。
しかし数十秒後、やっと覚悟を決めた顔をして口を開く。
「あの、鬼龍院さん!!もし良かったら...私とお友だちになってくれませんか?」
「えっ...私と!?」
冬美の言葉に今度はこちらが驚きを隠せない。
何しろ無能の私には、この学園生活では友達ができないと思っていたからだ。
だからこそ、冬美の言葉は幻聴じゃないのかと思ってしまいそうになった。
「本当に、私で良いの?他の子のほうが良い気がするけど」
私は嬉しい気持ちだがそれ以上に申し訳なさが勝った。
私と関わる=私レベルの無能と言う認識になるはずだ。
私のせいで冬美の評価が下がるかもしれないと思うと気が引ける。
でも、冬美は私の手を強くにぎり言った。
「私は、鬼龍院さんだから良いんです!!」
その熱い言葉に私は冬美の友達になることを決めた。
まさか、この学園生活で友達ができるなんて...
「これからよろしくね。冬美」
「はい!よろしくお願いします」
これからの学園生活が楽しみになった。