無能の鬼姫〜最強次期当主様との出逢い〜

プロローグ

この世界には、二つの命が溶け合って存在している。
 一つは、か弱き「人間」。そしてもう一つは、人の貌(かたち)を持ちながら人ならざる異能を振るう者――「あやかし」だ。
 あやかしが宿すその特別な力は、古来より国の礎として尊ばれ、畏怖と羨望の対象となってきた。その頂点に立ち、世界の均衡を支え続けてきたのが、三つの誇り高き一族である。
 鬼の鬼龍院家。
 竜の神条家。
 狐の鏡見家。
 三家はあやかしの中でも別格の霊力と能力を誇り、その血筋は永遠に揺るがないはずだった。
 ――けれど、ある冬の夜。
 鬼龍院家の長い歴史を根底から揺るがす、前代未聞の事態が起こった。
 祝福と共に産声を上げた双子の赤子。そのうちの一人が、あやかしの証である「霊力」を一切持たずに生まれてきたのだ。
「なぜだ……鬼龍院の血を継ぎながら、霊力がないのだ」
 父の忌々しげな呟きが、冷たい寝所に響く。
 霊力の有無がすべてを決める残酷な世界において、その子は生まれた瞬間に「価値」を失った。
 一族にとって、その子は「希望」ではなく「汚点」でしかなかった。
 存在そのものを呪い、無視し、歴史から消し去ろうとする冷たい視線の檻。
 
 玲花――。
 美しく付けられたその名とは裏腹に、彼女の人生は、色彩を失った孤独な闇の中から幕を開けることとなった。