虹色の円環

虹色の円環

遊園地の隅、メリーゴーラウンドが午後の光を切り刻んでいた。 高校生アオイは、白馬の形をしたベンチに深く身を沈める。彼の右の鼻腔からは、透明な鼻風船がひとつ、呼吸に合わせて危うく膨らんでいた。 二つ隣の純白の木馬には、短髪の少女キャリーが跨る。彼女は手綱を握り締め、正面だけを見据えていた。

パチン、と音がした。 アオイの鼻風船が弾け、銀色の雫が風に乗り、キャリーの木馬のたてがみに触れた。 その瞬間、視界が歪む。 轟音。景色は融解し、二人の乗る木馬は光り輝く鎖で結託された。気づけば、頭上には二つの月。足元には底知れぬ雲海が広がっていた。

「貴様らの役割を演じろ!」 黒い城から声が降る。重圧がアオイの肩を焼く。彼は「男らしく」あろうと奥歯を噛み締めた。だが、隣で叫ぶキャリーの瞳を見た。そこには、強くあることを強集された者の、深い孤独があった。

「僕は、これが好きなんだ!」 アオイの叫びが鎖を震わせる。彼の顔から、溜まった感情が虹色の巨大な風船となって膨れ上がった。キャリーが手綱を捌き、遠心力を加速させる。 二人は光の円盤となった。 「男」も「女」も、色彩の濁流に飲み込まれて消える。ただ、個としての魂が回転のなかで発火した。

回転が止まる。 遊園地の隅。アオイの髪には虹色のリボンが結ばれていた。 キャリーが馬を降り、振り返る。 「また乗りましょう」 二人は背を向け、それぞれの足取りで、境界線のない世界へ歩き出した。