「眠れなかった……」
頬に当たる机は無情に冷たい。いつも通り騒がしい教室に無性に苛立ちがこみ上げる。
昨晩は泣かなかった。いや、泣けなかった。
急すぎて実感が湧かない。そもそも元彼が女の子もいけることを知らなかった。
確かに妙に俺に女っぽいことを要求することもあった。やれ髪を長くしろだとかやれ爪を整えろだとか、面倒くさくて従ってたけどまさかそれが浮気に繋がるとは思いもしない。
長い横髪が目にかかる。元彼に要求されて伸ばしたそれが今はすごく嫌だった。
「……邪魔」
「切ったら良いんじゃない?」
突っ伏した俺にそう声をかける。
俺に話しかけてくるやつなんて一人しかいない。
「……そういう問題じゃないんだよ青木」
「じゃあ結んじゃえ。赤澤くんは顔が良いからきっと似合う」
左目の真下にある黒子が口角とともに吊り上がる。
彼、青木茜は俺の前の席のイケメンだ。いつも一軍の男女の中心で輝いていて、正直俺とは全く違う部類の人間。皆の人気者で人類皆兄弟、という感じの人だ。
しかし、俺は昨年も同じクラスだったにも関わらずこの男が大嫌いだった。
「赤澤って女々しい所あるよな。男もいけるタイプ?」
忘れられない入学初日のロングホームルーム。中性的である俺の見た目だけでそう言ってきた彼にドン引きした。
彼は何故だが俺にだけ当たりが強い。俺が弱々しい見た目をしているからか本来の性格なのか、時々毒を吐いてくる。それなのによく話しかけてきて正直鬱陶しく思っていた。
「今日は寝不足? 目が全然開いてない」
「……俺の目はいつも開いてない」
「そんな自虐しないでよ」
でも嘘じゃない。重い瞼と純粋な一重が組み合わさっている目は俺史上最大のコンプレックスだ。俺は深い溜息をついた。
「なあ、なんでそんな落ち込んでるのって。青木くん話してほしいな〜」
「……誰にも話さない自信は?」
「あるよ。赤澤ってクラスメイトにもあんまり名前も知られてないし」
助けてもらうはずがトドメを刺されてしまった。
でもまあ、確かに青木の言う通りだ。赤澤に話したところで言いふらしたりもしないだろう。
「……俺、3年付き合ってた彼氏がいたんだけど」
「うん」
「昨日こんなメッセージが来て」
「……うん?」
昨日のトーク画面を見せる。青木は上から下までじっと見つめて、わけがわからないというように首を傾げた。
「一方的に振られたってこと?」
「振られたっていうか……多分、遠距離中に彼女ができたみたいで。別れて欲しいって」
「普通に浮気じゃんそれ。じゃあそれで昨日揉めたってこと?」
「いや、それだけだよ」
「それだけ?」
信じられないというように目を丸くする。俺は首を傾げた。
「怒らなかったの?」
「アカウントunknownになってたし電話も繋がらなかったから……もう良いかなって」
「良くないでしょ。好きじゃなかったの?」
「今でも好きだよ。でも―――」
でも?
それ以上は俺にもわからなかった。
「もう別れたから」
「……そっか」
真面目に聞いてくれる青木は案外良いやつかもしれない。俺に彼氏がいると聞いても大して騒ぎ立てなかったし、今回で結構好印象だ。
今まで初対面の印象だけで避けていたのを悪く思い、俺は少し姿勢を正した。
青木は顎に手をそえて何かを考えている様子だったので、俺はそんな彼の言葉を待つ。青木はぱっと顔を上げた。
「じゃあさ」
青木が目を輝かせて俺を見る。
「今日から俺がお前の彼氏な」
「……はい?」
何を言ってるんだこいつは。
突然のことに硬直する。青木がふふんと鼻を鳴らして続けた。
「良いだろ。お前は浮気された寂しさが埋められるし、俺は知名度を上げられる」
「知名度?」
「そ、”青赤カップル“。結構良いカップル名だろ?」
……前言撤回。やっぱり青木は悪魔のような男だ。
そうして俺達は付き合うことになったのだ。
頬に当たる机は無情に冷たい。いつも通り騒がしい教室に無性に苛立ちがこみ上げる。
昨晩は泣かなかった。いや、泣けなかった。
急すぎて実感が湧かない。そもそも元彼が女の子もいけることを知らなかった。
確かに妙に俺に女っぽいことを要求することもあった。やれ髪を長くしろだとかやれ爪を整えろだとか、面倒くさくて従ってたけどまさかそれが浮気に繋がるとは思いもしない。
長い横髪が目にかかる。元彼に要求されて伸ばしたそれが今はすごく嫌だった。
「……邪魔」
「切ったら良いんじゃない?」
突っ伏した俺にそう声をかける。
俺に話しかけてくるやつなんて一人しかいない。
「……そういう問題じゃないんだよ青木」
「じゃあ結んじゃえ。赤澤くんは顔が良いからきっと似合う」
左目の真下にある黒子が口角とともに吊り上がる。
彼、青木茜は俺の前の席のイケメンだ。いつも一軍の男女の中心で輝いていて、正直俺とは全く違う部類の人間。皆の人気者で人類皆兄弟、という感じの人だ。
しかし、俺は昨年も同じクラスだったにも関わらずこの男が大嫌いだった。
「赤澤って女々しい所あるよな。男もいけるタイプ?」
忘れられない入学初日のロングホームルーム。中性的である俺の見た目だけでそう言ってきた彼にドン引きした。
彼は何故だが俺にだけ当たりが強い。俺が弱々しい見た目をしているからか本来の性格なのか、時々毒を吐いてくる。それなのによく話しかけてきて正直鬱陶しく思っていた。
「今日は寝不足? 目が全然開いてない」
「……俺の目はいつも開いてない」
「そんな自虐しないでよ」
でも嘘じゃない。重い瞼と純粋な一重が組み合わさっている目は俺史上最大のコンプレックスだ。俺は深い溜息をついた。
「なあ、なんでそんな落ち込んでるのって。青木くん話してほしいな〜」
「……誰にも話さない自信は?」
「あるよ。赤澤ってクラスメイトにもあんまり名前も知られてないし」
助けてもらうはずがトドメを刺されてしまった。
でもまあ、確かに青木の言う通りだ。赤澤に話したところで言いふらしたりもしないだろう。
「……俺、3年付き合ってた彼氏がいたんだけど」
「うん」
「昨日こんなメッセージが来て」
「……うん?」
昨日のトーク画面を見せる。青木は上から下までじっと見つめて、わけがわからないというように首を傾げた。
「一方的に振られたってこと?」
「振られたっていうか……多分、遠距離中に彼女ができたみたいで。別れて欲しいって」
「普通に浮気じゃんそれ。じゃあそれで昨日揉めたってこと?」
「いや、それだけだよ」
「それだけ?」
信じられないというように目を丸くする。俺は首を傾げた。
「怒らなかったの?」
「アカウントunknownになってたし電話も繋がらなかったから……もう良いかなって」
「良くないでしょ。好きじゃなかったの?」
「今でも好きだよ。でも―――」
でも?
それ以上は俺にもわからなかった。
「もう別れたから」
「……そっか」
真面目に聞いてくれる青木は案外良いやつかもしれない。俺に彼氏がいると聞いても大して騒ぎ立てなかったし、今回で結構好印象だ。
今まで初対面の印象だけで避けていたのを悪く思い、俺は少し姿勢を正した。
青木は顎に手をそえて何かを考えている様子だったので、俺はそんな彼の言葉を待つ。青木はぱっと顔を上げた。
「じゃあさ」
青木が目を輝かせて俺を見る。
「今日から俺がお前の彼氏な」
「……はい?」
何を言ってるんだこいつは。
突然のことに硬直する。青木がふふんと鼻を鳴らして続けた。
「良いだろ。お前は浮気された寂しさが埋められるし、俺は知名度を上げられる」
「知名度?」
「そ、”青赤カップル“。結構良いカップル名だろ?」
……前言撤回。やっぱり青木は悪魔のような男だ。
そうして俺達は付き合うことになったのだ。
