くの侍

「羅生門が開かれた」

 開かれた門。
 津波のように押し寄せる黒い波。

「あ、あれが……」

 警備に当たっていた侍が刀を抜くが、向かってくる怒涛の何かに足を震わせる。

「よ、妖怪の群れだ!」

 遠目からは波のように見えるそれは、群れとなって押し寄せる妖怪だった。
 目の前の妖怪の群れに立ち向かうということは、大人の集団に赤子が立ち向かうようなもの。
 戦意を喪失し、妖怪から逃れるために踵を返し、走る。

 警備に当たっていた侍は次々と逃げるが、一人の侍が転んだ。
 羊を見つけた狼のように、妖怪の群れが一斉に襲いかかる。

「ああ、駄目だ……」

 向かってくるそれは死そのもの。
 目を閉じ、これから来る激痛に脅えた刹那、

「──桜流し」

 頭上から降り注ぐ桜の花びらに、次々と妖怪は絶命する。

 降り注ぐのは桜だけでない。
 雷、炎、血、妖怪の群れが宙に舞い、散っていく。

「い、いったい何が……」

 周囲を見渡し、侍は見つけた。
 妖怪を葬る九人の影を。
 彼女らの隊服にはある紋様を見つけ、呟く。

「九刀の紋様……そうか、彼女たちは──」

 ──くの侍。

 魑魅魍魎が跋扈する平安の日本で、妖怪退治を専門とする九人の女侍。
 不朽にして究極の侍。
 九千を超える妖怪を葬り、九十万を超える人を救った。
 宮中にも招待されるほどの功績を残した彼女ら。

 九年後、最後の一人となった彼女は旅をする。
 仲間の遺したものを探すために。