橘先生の過保護な再履修




山田先輩はタブレットを置いて、
なんか意味深な顔でニヤニヤしながら俺を見る。

「いや、その……正直、あんまり考えてなくて……
それよりバイトがしたいかなって思ってます」

「そうなんだ!じゃあうちがぴったりだよ。ね、橘」

「そうだな、それがいい。うちに入りなよ天音」

まだ返事もしてないのに勝手に話が進む。
なんだかふたりともわざとらしくニコニコしてる。

「い、いや、あの。
そもそもお二人ってなんのサークルなんですか?」

「映研だよ。映画研究会。
でも、撮る方じゃなくて見る方ね。
時間のある時だけ集まって、一緒に映画見て、
グダグダ感想を言い合うだけの会。
たまに飲みもあるけど強制じゃないし、居心地いいよ」

「そうそう、気まぐれに集まるゆるーいサークル。
ダブルスクールの俺でも入れてるくらいだからな」

「そう!そして絶賛部員募集中!!
ちなみに映研に入ると、めちゃくちゃデカい特典があります!
橘は、はじめ特典目当てだったよな」

「そうそう。でも、いつのまにか暇ができたら入り浸ってる」

「ほーら、知りたくなってきたっしょ?特典」

俺はどう見てもふたりが悪徳営業マンにしか見えなかった。
しかも、ちょっと楽しそうなのが余計に厄介だ。

「ちなみに、なんですか……特典」

「え~、どうしよっかな~。これは部員秘伝のお宝だしな~」

「天音にも絶対役に立つと思うんだよな~」

(こいつら……)

「知りたい?知りたい?」

「……はい」

(なんの茶番だよ……)

「じゃあ寄って寄って。周りに聞こえないようにしないと」

そういうと山田先輩は俺と律くんを引き寄せて肩を組んだ。

(……ちょっ、近い!)

律くんからはカテキョの時には嗅いだことのない
清々しい香りがした。
シトラスの奥に潜む、少しウッディな匂い。
それが体温と混ざり合って、俺は思考が停止しそうになった。

「じつはですね……なんと映画研究会には……」

(ため、なげーな……)

山田先輩はもったいぶるように間を開けた。

「歴代先輩方が残してくれた学部別、教授別の
テスト傾向と対策マニュアルがあります!!」

「あります!!」

ふたりは息をひそめて、でも自慢げに言った。

「どう?魅力的じゃない?映研に入ればもれなく見放題!!」

「まじか!!」

それは本当に魅力的だ。
きっと入るべきなんだと思う。
けれど……

(近い!近いんだよー!
映研に入ったら、ずっとこの距離感なのか?
そんなの心臓が持たない……)

「天音くん……
うちの教育心理学のテストはなかなか手ごわいよ~?」

(うぅ……揺さぶりが半端ない……でも。)


「ちょっと、考えさせてください……」