橘先生の過保護な再履修


色とりどりの立て看板が並ぶメインストリートは、
もはや障害物競争のコースだった。

入学式から数日。
相変わらずサークル勧誘は続いているけれど、
さすがに人酔いすることはなくなった。
が、疲れるものは疲れる。
俺は人混みをすり抜け、学部棟の影に入る。
そこまで来れば、ようやく春の風がビラの音ではなく
木の葉の音を運んできてくれた。

こないだは、律くんの家で少しだけ履修登録の話を聞いて、
すぐに解散した。
その代わり、今日は学食のテラス。
教育学科の先輩で、律くんと同じサークルだという
山田 隼人(やまだ はやと)先輩が、タブレットを指で叩きながら言った。

「天音くんちは両親二人とも教師なんだってね」

「はい、母が小学校で、父が高校の数学教師やってます。
教頭試験受かったので、今年から教頭やってますが」

「うわー、すげーね。尊敬する!俺、理系は無理だからなー」

「わかります。小学校も、母をみてるとすっごく大変そうなので……
俺は無難に一番成績良かった社会にしました」

「天音は暗記得意だよね。カテキョの時も長文は微妙だったけど、
単語はピカイチだった」

「律くん、微妙って……」

「だってほんとだろ?長文宿題に出すと、明らかにシュンってなってた。
文句は言わないけど、ちょっと顔にでるんだよな~」

「え、そうなの……なんか、ちょっと恥ずかしいんだけど……」

俺は今まで知らなかった自分の癖が露になり、
ドキドキして頬が火照ってきた。

(もしかして、色々筒抜け?)

「じゃあ、話し戻すけど履修登録だよね。
正直、一、二年の内は必修取るだけで一日終わるよ。
三年から実習が食い込んでくるから、
早めに単位取っといた方が身のためだよ」

「そ、そうなんだ……」

山田先輩は、「この先生はテストがヤバい」とか、
「この授業は点呼とらないから遅刻しても平気」とか、
そんな学校生活の裏技を次々に教えてくれた。
俺は頷きながら、こんな情報、入学案内には絶対載ってないよな……と思う。

「まぁ、いろいろ言ったけど、法学部よりはマシだと思うよ」

山田先輩は律くんを横目で見た。釣られて俺も見る。

「まぁね。でも弁護士目指さないなら法はそんなにだよ」

律くんはオシャレなパッケージのコーヒーを片手にさらっと言う。
テラス席で悠然と足を組むその姿は、
どこを切り取っても絵になりすぎていて、俺はただ見惚れることしかできなかった。

「それもそうか。で、履修登録についてはこの辺にしといて。
天音くんはサークルとか考えてるの?」