橘先生の過保護な再履修



朝。
目が覚めると、やっぱり天井が近かった。
寝返りを打つだけで手が届きそうな距離に、
昨夜の名残が静かに残っている。

ふと隣を見ると、律くんがまだ眠っていた。

(……珍しい)

心の中で、そう呟く。
今まで何度か泊まりに来たことはあるけれど、
朝になると、いつも律くんのほうが先に起きていて、
机に向かって勉強していたり、
静かに資料を広げていたりした。

だから――
こんなふうに、無防備な寝顔を見るのは初めてだ。

(……わあ)

思わず、息を殺す。
かわいい。
ほんとに、かわいい。

普段の律くんは、かわいいなんて言葉とは無縁だ。

背が高くて、落ち着いていて、
笑うときも余裕があって。

どちらかと言えば、
かっこいいとか、王子様みたいとか、
そういう人なのに。
今、布団の中で眠っているこの人は、
まるで別人みたいだった。
腕を胸の前で折りたたんで、
手をぎゅっと握り込んでいる。
足も、少し丸めて。
全体的に、
くるっと小さくなっていて、
安心しきった表情ですやすやと眠っている。

(……なにこれ)

胸の奥がじんわり温かくなる。
起こしたくない。永遠に見ていたい。
このままふたりで、ずっとこうしていたい……
そんな気持ちの間で、
俺は、そっと息を整えた。


「……あ、まね……起きたの……」

息を殺していたはずなのに、
律くんの声がすぐそばで聞こえた。

「……え」

驚いて視線を戻すと、
律くんはまだ目を閉じたまま、うっすら眉を寄せている。

「う、うん。今起きたとこ。
おはよう、律くん」

「……ん。天音、おはよ……」

返事はしてるのに、目はまだ開いていない。
完全に寝ぼけている。

(……かわいい)

そんなことを考えた次の瞬間だった。

「――っ!」

いきなり、
かばっと覆いかぶさられる。
無駄に長い手足が伸びてきて、
俺はそのまま抱き枕みたいに捕まえられた。

「わっ……律くん……!」

抵抗する間もなく胸に引き寄せられる。

「……あー……やば……」

低く、くぐもった声。

「……幸せ……」

ぎゅっと力が込められて、
逃げられない。
胸に顔を押し付けられると、
規則正しい心臓の音が、
とくん、とくん、と伝わってくる。

(……あ)

胸の奥が、じんわり温かくなる。

「……うん」

小さく息を吸って、俺も正直に言った。

「俺も……
すっごい、幸せ」

そう言うと、
律くんの腕が、ほんの少しだけ緩む。

「……だよね」

まだ眠ったままみたいな声で、そう呟いて……
朝の光の中で抱きしめ合ったまま、
俺は昨日の余韻にまどろんでいた。

その時――。