「……っ?」
気づいた時には、
俺の視界は、律くんと天井で埋まっていた。
背中がソファに沈んで、
柔らかいダウンライトが、ぼんやりとこちらを照らしている。
逃げ場なんて、もうない。
「ねぇ」
すぐ近くで、
律くんの声が落ちた。
「この流れで、勉強に戻れると思ったの?」
俺に体重をかけるでもなく、
でも確実に覆い被さる距離。
にやり、と楽しそうに口元が歪む。
(あ、男の顔だ……)
さっきまでの優しい先輩でも、
落ち着いた恋人でもなくて。
はっきりと欲を隠さない表情。
俺は、一気に顔がぼわっと熱くなるのがわかった。
視線を逸らしたいのに逸らせない。
胸の奥が、
さっきよりずっと、うるさい。
「なっ、で、でも律くんも今から勉強するでしょ?」
「しないよ。こんな傍に天音がいるのに。
合鍵使って、待っててくれたんでしょ?
まだ20時前だよ?期待しちゃったのは俺だけ?」
(うぅ……顔面が強いぃぃぃ)
律くんはわかってる。
俺がこの顔と推しに弱いことも。
そして。
俺もこの先を期待してることも――。
「……天音。いや?」
律くんの声はとびきり優しい。
でも、その透けた茶色の瞳にはユラユラと欲が滲んでいる。
俺はその瞳が………いやじゃない。
むしろ律くんがそういう目で見てくれることが
嬉しい――。
でも、それを言葉にするには恥ずかしくて。
俺は律くんの瞳を見つめて、シャツをぎゅっと握りしめた。
「……可愛い」
律くんはそう呟いて、俺のおでこにそっとキスを落とした。
一瞬、目が合う。
ふっと微笑んで今度は唇に触れた。
ふにっとやさしく触れるようなキス。
前はここまでだった、けれど。
――今日は、ずっとキスしてる。
角度を変えて何度も、何度も……
俺はドキドキしっぱなしで、一回止まって欲しいのに、
全然やめてくれなくて。
息継ぎしているはずなのに、なんか苦しい。
「……っ」
「……天音、ゆでだこみたい……」
「っだ、誰のせい……」
「俺だね。いいじゃん、真っ赤でも。
めちゃくちゃ可愛い」
待って。ほんとに待って欲しい。
この空気が甘すぎて、窒息しそうだ。
「……天音、俺ちょっとずつ先に進みたいんだけど……」
(先?先ってもしかしなくても、あれしかないよね……)
俺は思わず視線をそらした。
俺以上見つめられると、なんか、何かわからないけど
ダメな気がする。
俺の直感がそう言っている。
「……天音、早かった?まだ無理?」
「無理じゃなっ、いや、え、
あ……その、やっぱ、無理……今日は……」
俺はもう、自分で何を言っているのかわからなかった。
とにかく頭の中で警報が鳴っているけど、
それをどうしていいのかわからない。
「今日は、ね。
じゃあ、今日のところはキスマークだけで許してあげる」
「え、な、キスマーク?」
「そう、知らない?」
「いや、知ってるけど……でも、やり方わかんない……」
「それは教えてあげる。
で、今日付けたキスマークが消える頃に、
今度はまた1つ進むよ。次は……そうだな。
舌入れたエッチなキスにしよう」
律くんはいつになく楽しそうで上機嫌だ。
「なっ、そ、そんな……ハレンチ……」
「ハレンチって、これからもっとハレンチなこと
していくんですけど?」
そう言って、律くんは俺の首元に顔をうずめた。



