橘先生の過保護な再履修



授業が終わるチャイムと同時に、
教室の空気がふっと緩んだ。

「終わった……」

俺が小さく息を吐くと、隣の晴人が伸びをする。

「俺、生協寄ってから映研行こうかなって思ってるけど
てんはどうする?」

「俺も行く。律くんも来るって。あ~お腹すいた。
頭使うとお腹減るのなんでだろう」


「……え、橘先輩来るの?」

一瞬、間があった。

「え、うん。なんで?」

「いや、なんでもないよ。行こ!」

俺は晴人の反応にうっすら違和感を持ちつつも、
空腹がそれを上回り生協に向かった。

「今日はおにぎり残ってるかな……」

「晴人、こないだもそんなこと言ってたよな」

「タイミングがあるんだよ。
昼前だと棚だし前でなかったりすんの。
でも、希望は捨てない!!」

「だな!あるよあるよ」

結局晴人の希望は打ち砕かれ、
俺たちはカップラーメンとデザートを抱えて、
映研の部屋に向かった。

ドアを開けると、
すでに何人か集まっていて、
机の上には生協やコンビニの袋が並んでいた。

「お疲れ様です」

「おう!お疲れ!」

山田先輩の声に、何人かが顔を上げる。
俺と晴人も空いている席に腰を下ろし、
買ってきたものを机に広げた。

でも、この雑多な感じが、
今はちょっとだけ落ち着く。

「天音、お疲れ。ここ座るよ」

「うん。律くんお疲れ。あ、律くんおにぎりじゃん!」

「え、おにぎり?」

「そう!
さっきね、生協行ったんだけどおにぎりなかったんだよ。
晴人が欲しがってたのに……」

「じゃあ、鮭とこんぶでよかったらカップ麺と交換しよう。
晴人くんいける?」


「え、いやいやいや、悪すぎますよそんなの」

「別にいいよ?天音がお世話になってるしね、はい」

「あ、あざっす……」

「よかったね、晴人」

「…………」

「――お疲れ橘。1年教育コンビも」

ふと山田先輩が晴人の隣に座った。
そして小声で「晴人くん、お疲れ……俺にはわかるよ……」
と、意味深なことを呟いた。
律くんはお構いなしに
「このカップ麺食べたかったんだよね~」と言いながら、
麺をズルズルすすっている。
なんか違和感というか、自分だけ浮いてる感じがする。
のはわかるけど、どこがと言われるとわからない。

「そういえば、君たちバイトは決まったの?」

俺と晴人の肩がビクッとした。
おもわず視線が机に落ちる……

「なになに?悩み事?お兄さんに行ってみなさいよ」

「俺も聞くよ天音。困ってるなら何でも話して」

またこれだ。
ふたり揃うとろくなことがない感じがする。
悪巧みコンビに挟まれて、俺と晴人は仕方なく口を開いた。

「あの、バイトが決まらなくて……。
なんか実習がネックになってるみたいで、
その間どうするのって……」

「俺はまだ求人見てるだけなんだけど、
なかなか踏み出せなくて」

カップ麺のふたをあけると同時にもわもわと湯気が出る。
あんなにお腹がすいていたのに、
今は、人工的に作られた出汁の匂いに胸が詰まる。

「ほうほう。それは教育学科あるあるだね。
でも、朗報です!!その悩み、全部解決できるバイト先が
あるんですよ!どこだと思う?」

俺はもう、この先の展開を想像できてしまった。