橘先生の過保護な再履修



律くんは、そんな俺を見て、
なんでもないみたいに笑った。

ふと、視線の先にリビングのテーブルがあった。
そして、その端には見覚えのありすぎるノートが置いてある。
薄い黄色の表紙。
角が少し丸くなっていて、
いつも鞄の中で守るように持ち歩いている――あれ。

「……り、律くんそれ……」

喉が、きゅっと鳴った。
律くんは一瞬だけ目を伏せてから、
小さく頷いた。

「うん。ごめん。さっき勉強してだんだけど。
喉乾いたから水取りに行こうとしたときに、
天音の鞄、ちょっと蹴っちゃって」

思い出すように、机の上のノートを見る。

「そのときに、これが出てきた……
大事に取っておいてくれてたんだね」

心臓が、ぎゅっと絞めつけられた。

(あ……)

顔の奥から、一気に熱が込み上げてくる。
頬も、耳も、首筋まで。
まるで内側から沸騰してるみたいに、
じわじわ、止まらない。

「それっ……は……」

言葉が出ない。
恥ずかしすぎて、視線をどこに置けばいいのかわからない。
そんな俺を見て、
律くんは少しだけ困ったように笑った。

「天音」

手招きされる。

「こっち、おいで」

促されるままふらふらとソファの方へ行くと、
律くんが隣に座る位置を示した。
腰を下ろした瞬間、距離が一気に近くなる。

「……ごめん、天音。中身、見ちゃった」

口では謝っているのに、
律くんの目は、ちっとも申し訳なさそうじゃなかった。
指先は迷いなくノートの表紙に触れている。

ゆっくりと、
大事なものを扱うみたいに、
律くんは1ページ目を開いた。