耳元で規則正しい電子音と、短いバイブレーションが響いた。
(……なに……)
反射的に音の出どころを探して、
手探りでスマホを掴み、画面を押さえる。
音が止まって、ようやく静かになった。
目を開けると、視界いっぱいに近い天井。
……そうだった。
(律くんの家……)
それを自覚した瞬間、
眠気が一気に引いて、頭が冴える。
同時に、心臓がいつもより早いリズムを刻み始めた。
どくん、どくん。
ゆっくり息を整えながら、隣を見る。
(……いない)
さっきまで確かにあった体温の名残だけが、
布団の中に残っている。
(起きてる……?)
下を覗くと、リビングのソファに律くんがいた。
ラフな格好で、
何かを手に取って読んでいる。
(……なに読んでるんだろ)
体を折るようにしてロフトの縁まで行き、
階段……というより、
壁に沿って取り付けられた、
はしごみたいなものに足をかけた。
が、立つと天井に頭をぶつけそうになった。
仕方なく、後ろ向きになって頼りない手すりを持ちながら
ゆっくり降りていく。
一段一段が狭くて、踏み板も心許ない。
体重をかけるたびに、きし、と小さな音がする。
(……これ、地味に怖いやつだ)
慎重に足を運んだ、その瞬間。
足先が、段の縁を踏み外した。
「――っ」
バランスが一気に崩れて、
反射的に声が出る。
「ぎゃっ――!」
次の瞬間、
視界がぐっと引き寄せられて、
腕を掴まれた。
「危なっ!」
ほとんど同時に、体が引き戻される。
落ちるはずだった衝撃はなくて、
代わりに、律くんの腕の中だった。
「マジで気をつけて。
ロフトから落ちたらシャレにならないから」
少しだけ強い声。
でも、掴んでいる手はしっかりしていて、
不安定だった足元とは正反対の安心感があった。
「あ……ご、ごめん……」
そう言うと、律くんはふっと息をついて
ようやく手を緩めた。
「おはよう、天音」
「……おはよう」
「よく眠れた?」
一瞬、言葉に詰まってから小さく頷く。
「……ありがとう。
あと……その……」
視線が泳ぐ。
「親に連絡も、してもらっちゃって……
家にも泊めてもらっちゃって……」
昨夜のことを思い出して、胸の奥がきゅっとなる。
「たぶん……
いっぱい迷惑かけたよね……」
そう言うと、
律くんは即答だった。
「全然。迷惑なんて思わないよ。
俺は天音の寝顔が見れて、むしろ役得だったな」
……え。
「――っ!」
一気に、顔が熱くなる。
自分でもわかるくらい、耳まで熱い。
「な、なに言って……!」
思わず声が裏返った。
「恥ずかしすぎるんだけど……!」



