橘先生の過保護な再履修



目を開けた瞬間、視界いっぱいに迫る天井。
……近い。やたら近い。

「……ぇ」

ぼんやりしたまま目をこすると、天井は消えない。
夢じゃない。
起き上がろうとして、首元が妙にすーすーすることに気づく。

(……寒……?)

視線を落とすと、見覚えのないオーバーサイズの白Tシャツ。
え、これ俺のじゃない。絶対。

「……ぇ?」

さらに横を見る。
そこには、布団をしっかりかぶって安らかな顔で眠っている律くん。

すやすや。
完全に朝。
完全に隣。

「……え?」

状況が脳内で一つずつ繋がり始めて、
次の瞬間、全部が一気に爆発した。

「えええええええええええ――!?」

声にならない悲鳴を喉の奥で噛み殺しながら、
俺は固まったまま、
なぜか平然と寝ている律くんと、
知らないTシャツと、
近すぎる天井を交互に見つめ続けるしかなかった。
そしてふと気づく。

(……ここ、律くんちのロフトだ……)

相変わらずキレイにしてるなぁなんて思ったのも束の間。

「やばっ!!家に連絡!ってか遅刻!!」

俺は急に現実に振り戻され焦りまくった。
無断外泊に無断遅刻。
そのどれもが、俺はまだ未経験だ。

「と、とりあえずお母さんにれんらっ……ぐえっ!」

スマホを探そうと起き上がった瞬間、
腰に回された手がぐっと俺を布団の中に引きずり込んだ。

「天音……まだ5時だから……大丈夫だから。寝よ」

「で、でも、家に連絡し……」
「してある。おばちゃんに連絡した。カテキョの時のやつ、
まだ残ってたから……ほら、もう何も心配いらない。
寝るよ……」

(……マジか。助かった……)

ホッとしたのも束の間。
俺は、心臓が飛び出るかと思った。
律くんとの距離はわずか10センチ。
俺の鼻先にあと数ミリで律くんの銀髪が触れそうだ。

背中に当たる布団の感触よりも、
すぐ近くにある律くんの体温のほうが、
くっきりと伝わってくる。

(ち、近……近すぎ……)

さっきまで眠っていたはずなのに、
律くんの腕は、当たり前みたいに俺の腰のあたりにあって、
逃げ場を塞ぐように、でも乱暴じゃない力で留めている。

……また、寝てる。
なのに、腕だけは離さない。

(……これ、絶対寝れないやつじゃん……)

どくん、どくんと、自分の鼓動の音がうるさすぎて、
このままじゃ律くんを起こしてしまうんじゃないかと
本気で心配になる。
俺は息を殺して、羊を数えながらそっと目を閉じた。