席に落ち着くや否や、律くんはメニューを手に取った。
俺の前に広げる――かと思ったら、
そのまま自分の方に引き寄せる。
「……?」
「天音、これ好きだよね」
そう言って、俺の返事を待たずに店員さんを呼ぶ。
「これと、これ。
あと、この小さいやつも」
テンポよく注文を済ませて、ようやく俺の方を見る。
「ピザだけじゃ足りなかったでしょ?」
「え、あ、うん……」
「ここ、なんでも美味しいけど特に鶏料理がおいしいんだよ。
天音は肉なら鶏が一番好きでしょ」
「うん、そうだね」
(この人、なんで知ってんだ?)
料理が運ばれてくると、
律くんが当然みたいに小皿に取り分け始める。
「ほら、これ」
俺の前に、ちょうどいい量が置かれる。
そして律くんが注文した料理は、
驚くほど俺の好きそうなものばかりだった。
「ありがと」
「どういたしまして」
「でもさ、なんか一年の俺らが注文とか取り分けとか
した方がいいんじゃないの?三年の律くんがやっちゃうと、
俺、なんかいたたまれないんだけど……」
「そんなこと気にしてんの?映研はゆるいって言ったじゃん。
大丈夫。それに、そのうち嫌でも天音たちが動かされるから」
「え?どういうこと?」
「まあ、見てればわかるよ。
どうせ酔いつぶれて動かんくなるから。こいつら」
律くんはそんなことを言いながら、コーラを飲んだ。
それを見ていた晴人が、ほんの少しだけ眉を動かした。
俺の隣――いや、正確には、
俺と律くんの向こう側から、控えめな声がした。
「……あの」
「ん?」
「もしかして、橘先輩って……
天と、前から知り合いなんですか?」
その問いに、俺が口を開くより先に。
「そうなんだよ」
律くんがあっさり答えた。
「天音が高校二年から三年の途中まで、
俺が家庭教師してたんだ」
「え、そうなんですか」
晴人が目を丸くする。
「よくご飯も一緒に食べさせてもらったりしてさ。
ご家族とも顔見知り。
天音のおばあちゃんのご飯、おいしかったなぁ」
懐かしそうに、でもどこか誇らしげに言う。
「だから、天音のことはだいたい知ってるよ」
そう言って、俺の方をちらっと見る。
「ね?」
「そ、そうかな……。
でも、勉強のことはなんでも知ってると思う」
「勉強以外も知ってるよ。
ほら、天音も知らないんじゃない?
うなじの生え際に近いところにほくろが2つあるの」
そういって、律くんは俺の右のうなじの毛をさらっとかき分け、
トントンと首元に触れた。
俺は一瞬背筋がぞくっとした。
律くんの指先が触れた場所が、
熱を帯びたみたいに脈打っている。
晴人越しに奥の山田先輩を見ると、呆れた冷たい目で俺らを見てる。
晴人は口元が引きつっていた。
(今の、なに……?)



