橘先生の過保護な再履修



結局、俺は映研に入ることになった。
正確に言うと、「気づいたら入っていた」が一番近い。
あの日の学食テラスで、
「仮だから」「見るだけ」「今日だけ」
そんな言葉を何度も聞いたはずなのに、
いつの間にか俺の名前は名簿に載っていた。

今日は、新歓の日。
映研に新しく入ったメンバーは、
俺を含めて四人だった。
教室の隅に集められたその顔ぶれを、俺はそっと見回す。
どこか緊張した表情の一年生が三人。
それから――俺。

(……少なくない?)

そう思ったけれど、誰も口には出さない。

「じゃあ、とりあえず自己紹介しよっか。
俺は教育学部三年の山田隼人です。
今年は四年生がほぼ幽霊部員なので、一応俺が部長ってことになってます。
なので、困ったことがあったらなんでも相談してください」

山田先輩がそう言って、いつもの軽い調子で場を回す。
そして、山田先輩が最後に新入生に向かって言った。

「映研はゆるいです。活動内容は、映画見て、
感想言って、たまにご飯食べて解散」

ざっくりしすぎていて、逆に安心した。

「で、強制参加はなし。
来たいときに来る、が基本ね。
テスト対策はいつでも見れるのでガンガン使ってね。
四年は不在がちだし、これから三年も忙しくなるけど
できるだけ交流図って、楽しい大学生活にしましょう」

その言葉に、新入生たちの肩から力が抜けるのがわかった。
俺も、少しだけ息をついた。
そして、その一歩後ろで壁にもたれながら、
律くんがこっちを見ている。
視線が合うと、
何でもないみたいに軽く笑って手を振ってきた。

(なんだよ、カッコいいなぁもう……)

「じゃあ、挨拶もこの辺で……ようこそ映研へ!それでは、かんぱーい」

みんな一斉にペットボトルや紙コップを掲げる。
カチカチとプラスチックがぶつかる音が小講義室に響く。
教壇の机には、大学正門のすぐ裏にある、
学生御用達のピザ屋『ピッピーナ』の箱が
いくつも積み上げられている。
安くてボリュームがあるのが売りの、
少し油の染みた段ボール箱。
けれど、蓋を開ければ立ち上がる濃厚なチーズとバジルの香りは、
どんな高級料理よりも俺たちの空腹を刺激した。

「天音、おいしい?」

ふと律くんが声をかけてきた。
律くんの銀髪は窓から差し込む日の光を浴びて
透けそうなほどキラキラと輝いている。
俺は思わず見惚れてしまった。

「あまね~?」

「えっ、あ、おいしいよ。ありがとう。
俺も今度食べに行ってみようかな」

「んじゃあ、今度一緒に行こう!
2限と3限が別棟じゃなければお昼休みでも間に合うよ
木曜日とかどう?確か3限あいてるよね?」

「そうだけど……」

(……なんで知ってんの?)

「じゃあ決まり。正門前集合ね」

そういうと、律くんは3年の集団の中に消えていった。
その時。

「あの、瀬戸あまね?くんだよね。教育学科の……」

ふいに声をかけられて、
俺は照り焼きチキンピザを頬張りながら振り向いた。