「もうさ。俺は心配で仕方ないんだよ」
急に、律くんが真面目な声になった。
「……なにが?」
「天音がうちの大学に来るなんてさぁ~。
そもそも大学なんて、
男も女もオオカミみたいなもんなんだから」
「……え」
「こんな可愛い子がいたら、そりゃ声かけるに決まってるじゃん。
サークルだって選びたい放題だっただろ?」
さらっと言われて、
俺は返す言葉を探す。
「まぁ橘の言うことは一理あるね。
俺らみたいな真面目なサークルとは違ってさ、
飲みサーとか、治安の悪いところだって普通にあるからね」
「……」
「もうほんと、心配すぎる」
言い切る律くんは、
やけに本気っぽかった。
「天音はさ、初めて地元を出たばっかりだろ?
だからまだわかんないと思うけど、
都会ってほんとずる賢い奴らばっかなんだから」
「そうそう。優しそうな顔して、平気で嘘つくからね」
「…………」
「天音、ころっと騙されそうでさ。それが一番心配」
そこまで言われて、さすがに俺も口を開いた。
「で、でも……俺も男だし。
ずる賢い人は、姉でだいぶ耐性ついてるよ……」
視線を彷徨わせながら、小さく付け足す。
「そんな、簡単に騙されるとかは……
ないと思うけど……」
言い終わる頃には、
声がどんどん小さくなっていた。
二人は顔を見合わせて、次の瞬間、同時に吹き出す。
「ほら、もう可愛い」
「それが一番危ないって言ってんの」
「……えぇ?」
頬が、また熱くなる。
「こーんなくりくりのお目目に、ふわふわの黒髪。
しかも落ち着きなくて、都会に馴染んでないの丸出し。
そりゃもう、格好の餌だよ」
(……なんか、急に過保護……)
「年相応のあやうい未完成さが好きな奴もいるんだぞ、天音。
優しそうに見えるやつほど変な性癖持ってたりするからな。
気を付けるに越したことないんだぞ」
(……急に弁護士感……)
「――っていうことで、天音くん。
安心安全の映画研究会に入らない??」
(…………)
俺は、都会が、この大学が
オオカミだらけかどうかは知らない。
でも少なくとも今、
一番警戒すべき“オオカミ”が、
目の前にいる気がしてならなかった。



