学校の王子に告られたんだけど‥?!

あの後、やけに上機嫌な星奈と手を繋いで帰ることになり、駅まで主に星奈が話しながら歩いた。

「それでね‥って聞いてる?羽流くん?」

「聞いてる‥聞いてます。それでなんだっけ?」

「そうそう!僕たちはまだまだ経験不足だと思うんだ」

「ぶっ!!」

その言葉に思わず吹いてしまう。
経験。経験って何の経験だ。
ゲーム好きな俺は、もちろん一通りのゲームをやっている経験がある。
もちろん、恋愛趣味レーションゲームだって手に触れたことがあるも、それを触れた当時の俺は後悔に苛まれていた。
あんな、甘々なお菓子を詰め込んだような、いや、下手したら砂糖を口の中にそのまま突っ込んだような、あの雰囲気を味わって俺は苦手意識を抱いた。
いつか、自分に恋人ができて一緒に過ごすようになったら、こんな生活を送らないといけないのか。
赤の他人と同等の人間と。

そんな、苦悩を知っているからこそ今から語られる星奈からの、経験不足改善についての案を聞きたくもなければ実行すらしたくない。

「そう!それでね!お弁当を作ってみようと思うんだ!」

「え?お弁当?」

想像していた何倍よりもマシな案が出てきて思わず、気の抜けた返事しかできなくなる。

「まずは、胃袋からだと思うんだよね!」

「‥胃袋」

拳を作ってガッツポーズを決め込んだ星奈は、やる気満々で何が良いかブツブツと独り言を喋りながら考えていた。
その瞬間ようやく、思考が追いついた俺は星奈の肩に手を置いて、深く頷いた。

「もう、そのままでいてくれ」

何をとは言わないが、この純粋王子様はこのままでいてくれることを願うばかりだ。

その後、好きなものや苦手な物を矢継ぎに聞かれて満足げにして星奈は、帰って行った。
単純な生き物だなとしみじみと感じる。
今日の保健室での出来事も、今の聞き込みも全部俺に好きになってもらうために純粋に頑張っている姿は、応援したくなるものだ。

(ただ、好きな人が俺じゃなければの話だけど‥)

これが、一友人としての相談だったら俺も、ゲーム廃人ながらも持ってる知力で応援は、しただろう。

(まぁ、そもそも学校の王子と友達とかありえない展開すぎるし‥ていうか、今まさに恋人に選ばれたのだって天地がひっくり返ってもありえないって‥)

現実に起こっていることを考えると未だに信じられないし、逃避したくなる。
そんなことを駅のホームに立ちながら考えていると、携帯が「ピロン」と鳴る。

「やば、あいつと喋りすぎた‥!」

それは、予定の報告で後30分後にバイトの時間が迫っているというものだった。
準備やら何やらあるから、早めにいつも行ってるのにこれではギリギリになりそうだ。
丁度着いた電車に乗り込み、早く着いてくれと願いながらバイトへと急いだ。

結局、駅からバイト先までダッシュを決め込み何とかギリギリに間に合った。

「すみません‥!遅れました!」

息を切らしながら、既にカウンターに立っている店長に頭を下げる。

「あら、ギリギリセーフってところかしら。それよりも‥!」

「え?」

ぐいっと前髪を思いっきりあげられ、ゴムで縛られる。
視界がいつもよりも眩しく僅かに目を細めた。

「よし!羽流くん!前髪長いんだから、いつも縛ってきてって言ってるでしょ?」

「あ、えっーと、長い方が落ち着く‥」

「仮にもお客様の前に出るんだから、しっかりとね!」

「はい‥」

この人はこの隠れ家カフェの店長さんの野田さんだ。
この隠れ家カフェには一度だけ俺が高校に入る前に家族と来て、母と野田さんが気の合う仲になり、ゲームばかりに没頭している俺を心配して、気づけばここの店員となっていた。
母曰く。

『もう、高校生なんだから自分で働きなさい!』

らしい。
俺的にはまだ、高校生なのだからお小遣いに縋ってもいいのではないかと思ったが、妹の翼のしっかりさが目立ち俺も独り立ち(仮)を余儀なくされたわけだ。

(まぁ、収入源は増えてゲームに投資できるのは大きいよな)

何より、隠れ家カフェなだけあってお客さんも少ない上に若い人も滅多に来ない。
現に今だって、新聞を読んでるご老人に、パソコンに向き合う女性客などなど。
静かなカフェで俺に合っているのかもしれない。

特にやることも多くなく、在庫チェックや清掃が主な仕事で時々オーダーが入り、作るくらい。
それでも、店長一人では困っていたらしくこんなゲーム廃人な俺の手でも借りられて満足らしい。

バイト開始から店の閉店作業まで働き、最後の清掃に汚れがないかと確認をする。

「あ、そういえば羽流くん彼女できた?」

唐突な質問に普段なら動揺しない筈の俺が持っていたモップを手から離してしまい大きな音を立てて床に転がる。
恐る恐る振り返れば、何やら面白そうな顔をしてこちらを見てくる店長に目線を逸らしながらモップを拾う。

「‥い、いません」

「お、その反応何かあったやつだね!」

「なんも、ナイデス‥」

彼女という単語を聞いて出てきたのは、星奈の顔だった。

(いや、星奈男だし!彼女じゃない!いや!そもそも、付き合ってすらいない!)

首を左右に振って否定していると、気づけば店長が近くにいて、そのギラギラとした目に捉えられた。

「羽流くん」

「はい‥」

「詳しく」

「‥はい」

その辺の女子よりも圧がある店長に勝てるわけもなく、泣く泣く事情を根掘り葉掘り喋る羽目になったのだった。