学校の王子に告られたんだけど‥?!

あれから、一人体育館裏で体育座りをしながら空を眺めていた。
ゆっくりと動いていく雲の動きに思考が段々とそれに飲まれていく。

(あぁ、何でこうなった‥?)

ドッキリだと思って疑ってなかった。
ただ、ずいぶん凝ったドッキリだなとは、思っていた。
だけど、今さっきの女子達の反応や王子からの宣戦布告は、もはやドッキリではないと現実を押し付けられた。

押し付けられて、驚きを超えてもはや虚無の境地だ。

(あぁ、あの雲わたあめみたい‥)

小学生のような感想が頭の中を回って、現実逃避をしようとする。
そして、気づけば授業開始のチャイムが鳴るもそこを動く気にはなれず、ただただ雲の流れを眺めていた。

その後、陽が暮れてきた頃に教室に戻ればクラスメイトの姿は無く、疲れが溜まった体を椅子に預けたところで前の席に座って俺の机に寝入っている王子がいた。

「‥えぇ‥」

もう、その言葉しか出ない。
ため息すら出ない。
頬杖をついてその寝顔を眺めるも、その整っている顔になんのシャンプーを使ったらこんなにサラサラで艶のある黒髪に仕上がるのかという髪をただ見ていた。

体育館裏で見た時には気づかなかったが、睫毛も長く何処か中性的な感じがする。

(これが、チートか)

対して俺は、伸びきった前髪に癖毛のある黒髪。
顔だって整っている方ではない。
特徴的な部分で言うなら、目つきが鋭くて時々目つきが悪いと言われるくらいか。
まぁ、前髪で隠しているから見られる機会なんて無いわけだが。

「そういえば、こいつ見たよな‥」

体育館裏で俺の前髪を掻き分けて俺の目を見て柔らかな笑みを浮かべていた。
普通なら少し怖がられるのに。

「変な奴」

陽も本格的に暮れてきそうで、暗くなる前に帰ろうと鞄を持って席から立ち上がり帰ろうとすると、強い力で腕を引っ張られる。
後ろに転びそうになるのをなんとか耐えて、腕を引っ張った主を見れば、こちらを見上げて目を柔らかく細めて笑みを浮かべていた。
その笑みが、本当に恋をしているような笑みに見えて勘違いしそうになる。

「え、何?」

「せっかくのチャンスだったのに、キスはしてくれないの?」

「は?はぁぁ?!」

何を言い出すかと思えば、甘えた声で言われたそれに顔が熱くなり、声を上げる。
手を振り払おうと腕を動かすもピクリとも動かない。

(案外強いな!?)

試行錯誤解放の道へと腕を動かしていると、その瞬間腕を思いっきり引っ張られ前のめりになり、「チュ」と音を立てて、頰にキスをされる。
頰に当たる、柔らかさと温かさにそこに唇が押し付けられていると気づき、体を引こうとすると次は両手で抱きしめられる。

「な、ななな!何やってんだよ!?」

「え〜、下川くん補給?」

全くもって意味がわからない。
意味がわからないしこの状況から早く解放されたいのに、良い匂いがするとか、暖かいなとか考えてしまう。

「良い匂い‥」

首元に鼻でスンスンと嗅がれて、体をジタバタさせるも解放してはくれず、顔は熱いし、心臓がドキドキと脈打っている。

「あはは、顔真っ赤」

ようやく抱きしめられた状態から解放され、顔を下から覗かれるように見られる。
そりゃそうだ。こんなこと、異性とも同性ともした経験なんて無いんだから。

「お前、変態!」

小学生のような罵倒しか出てこない自分の語彙力に泣きたくなりながらも、荷物を持ち直して今度こそ帰ってやると思っていると、王子も立ち上がり荷物を持ったと思えば、隣に立ち手を繋がれる。

「流 星奈(ながれ せいな)」

「は?」

「星奈って呼んでね?」

首を傾げて言うその姿はまさに、あざといと言うのか。
いや、男にあざといってなんなんだ。
とにかくこれ以上一緒にいると色々やばいと、手を離そうとすると指同士を絡められ、所謂恋人繋ぎをされる。

「おい、お前!良い加減にっ!」

「星奈。呼んで?」

「‥。」

「よ、ん、で?」

もう何も言うまいと黙っていると段々と顔を近づけて名前を呼ぶように迫ってくる。

「‥せ、星奈‥」

「うん!じゃあ、帰ろっか!羽流くん!」

結局こちらが折れることになり、全てあいつの思惑通りになっている気がする。
しかも、気づけば俺の名前も呼ばれているし、恋人繋ぎの手は離してくれないし、もうどうすれば良いんだ。

その日は、幸と言って良いのか道中暗く男同士手を繋いで帰るの図をあまり人に見られず帰り道を歩くことをできた。
手を離そうとも努力するもこいつ、星奈は見かけによらず力が強く結局最寄りの駅に着くまで離すことは叶わなかった。
駅に着けばどうやら、家は俺の逆方向で終始俺が見えなくなるまで王子スマイルで手を振っていて、それこそ駅内では注目の的で、俺はもう考えることを放棄して手を振りかえして今日の怒涛の1日を何とか終えた。

「俺は頑張った、俺は頑張った」

電車内で終始独り言をブツブツと呟いている俺は異質に見えただろうが、今日の疲れと比べればもうどうでも良かった。